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「で、あれは?」


背後でキラの無事を喜んでいたミリアリアたちは大人を振り返った。アインだけが大人に混じっていたので、歯止め役も居なかったためだろう。
立ち位置をミスしたなーと思いつつ、アインはラミアスのすぐ隣で背筋がまがらないように気をつけて立っていた。

「ご覧の通り、民間人の少年たちです。襲撃を受けたとき、何故か工場区に居て…私がGに乗せました。キラ・ヤマトといいます。彼女も、何故かGαであるグリフェプタンの指紋認証と網膜認証を通過し、自ら搭乗しましたが…」


ラミアスがそこまで言うと、続けるようにバジルールがアインを見つめて続けた。


「彼女は私の管轄です。アイン・アルスター。情報技術の才能を買われ、グリフェプタンの開発支援をしていた者であり、軍にも関係者としてデータがあるはずです。本来であれば、今後は軍から保護を申し出る予定でした。」

「ふーん」


バジルールの視線は「決して逆らうなよ、話をあわせろ」と言いたげだったので、アインは慌てて頷いておいた。前半はアインも自覚していたことだったし、後半もまあ予測はできたことだ。中立の歌姫という立場でありながら地球軍に保護されるのは、アルスター家として問題もありそうだが、そこは父がうまくやることだろう。
楽しそうなフラガにラミアスはさらに続ける。


「彼らの活躍により先にもジン3体を撃退し、あの二機だけは守ることが出来ました。」

「ジンを撃退した!?」


驚いて声を発したのはバジルールとともにエレカポートで見た男性だったが、後ろに控えているほかの軍人も同じように驚いてざわめいている。バジルールは当然だとでも言いたげにうなずくに留めている。


「あの子供が?」

「俺は、あれのパイロットになるヒヨッコたちの護衛で来たんだがね、連中は…」

「丁度、指令ブースで艦長へ着任挨拶をしている時に爆破されましたので、共に…」

「そうか…」


言うと彼はキラの元へ、アインを押しやりながら歩み寄った。


「な、何ですか?」

「君たち、コーディネイターだろう?」


その場に居合わせた全員が息を呑んだ。アイン自身も例外ではない。今まで信じてきたものが揺らいだ気がした。
キラがコーディネイターであることはよくよく知っていたが、誰かから改めて口にされると、心が痛むというものだ。純粋な人間でないということは、純粋な人間からみたらただの異形の生き物のである。もちろん、アインがキラのことをそう思っていたわけではないが、世論がそうであることは覆せない。


「違いますわ、フラガ大尉」


キラがコーディネイターであっても、それでも友達だとお互いに思っていたし、何より信頼できると付き合ってきた中で実感している。そして己がナチュラルであるということは、この黒髪黒目が証明してくれると今までの芸能活動が裏付けてくれている。アルスター家も、そしてファンの人たちも、受け入れてくれているのだから。


「あたしはナチュラルです。確かに家族とは血の繋がりがありませんので、髪色なども異なります。それにキラが…こちらの少年が何者であろうとも、あたしたちを守り、信じ、そして今日もあなた方が敵と思うものを倒してみせたことも事実です。」


誰もが、信用していない視線で貫いてくる。言葉でどれほど募ったところで、エンデュミオンの鷹ほどの重みはそうそう出せるものではない。
アインの心境や家のことを知っているキラは、そっと泣き出しそうなアインの肩を抱いて言った。


「僕はコーディネイターです。」


とたん、二人に銃口が向けられる。キラの苦しそうな表情が、対立を望んでいないことが、大人たちに伝わらないことがもどかしい。そう思ってしまうのは今まで中立を謳うヘリオポリスで生きてきたからだろうか。


「な、何なんだよそれは!」


トールたちが、二人と銃口の間に割って入った。ミリアリアはアインの手を強く握っている。


「トール…」

「キラもアインも敵じゃねえよ。それにさっきの見てなかったのか?どーゆー頭してんだよお前らは!」

「銃を降ろしなさい」


頭に血が上っているのであろうトールに、ラミアスは冷静に助け舟を出した。仮ではあるものの艦長であるラミアスの指示に兵士も従って銃を降ろす。


「ラミアス大尉、これは一体…?」

「そう驚くこともないでしょ?ヘリオポリスは中立国のコロニーですもの。戦火に巻き込まれるのが嫌でここに身を移したコーディネイターが居たとしても、身の上の判らない子供が引き取られて幸せに暮らしていても、何も不思議じゃないわ。違う、二人とも?」

「ええ、まあ。僕は一世代目のコーディネイターですから。」

「両親はナチュラルってことか。お嬢ちゃんも、家族も友達もみんなナチュラルなんだろ?」


フラガはまた優しく微笑んだ。


「いや、悪かったなあ、とんだ騒ぎにしちまって。俺はただ聞きたかっただけなんだよね。」

「フラガ大尉…」

「ここに来るまでの間、これに乗る予定だった連中のシュミーションを結構見てきたが…」


アインの耳に届いていたのは、そこまでだった。
視界がいっきに暗くなり、苦しくて呼吸がしづらくなり、膝から力がぬける。




もう立って…いや、意識を保っていられなかった。





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