「お、終わった…のか?」

「そうだよ!俺たち殲滅できたんだ!!」


一緒に戦ったせいか妙に意気投合した翔と赤髪くんはハイタッチして抱き合って喜んでいる。


「ありがとう、お前の補助のお陰で生き残ることが出来た」

「いいえ、こちらこそありがとう。」

「自己紹介が遅れてすまない。俺は聖川真斗。そちらの赤いのが」

「オレは一十木音也!よろしくね二人共!」


早苗が真斗と握手をかわすと、自分も自分もと音也がこちらに駆けてきた。こいつ犬みたいだなと思いながら、早苗は握手をして頭を撫でてみると音也は尻尾があったらパタパタしているであろうテンションで「君たちの名前は?」と教えてーと甘えだした。


「私は早苗、見ての通りフォースよ」

「オレサマは翔、レンジャーだ!」


『全アークスへ通達です。惑星ナベリウスのフォトン濃度減少、警戒レベルを引き下げます。』


「これで、心置きなくシップへ戻れるな」


4人は生き残ったという共通意識からか、妙に意気投合してテレポーターへと向かうべく、足を動かし始めた。と、


---- 助けて…、お願い……助けて


声がした。今度は戦闘中と違いはっきりと聞き取れたそれは自分と然程年齢の変わらなそうな女の子のもので、すっかり弱ってしまっているようだった。
何か受信しているのかとも思い通信機を確認するが特に受信が入った様子もない。


「おい早苗、どうしたんだ?オレサマの相棒らしくない妙に考えこんだ顔してるぜ?」


最後尾で立ち止まった早苗に翔が振り向いて訪ねてきた。


「なんか、通信か何か入ってるのかな。助けてって聞こえるの、さっきから」

「通信?俺はアークス本隊からの連絡しか聞こえなかったが」

「オレも。でも助けてって言ってるんだよね?」

「まて一十木、ただ聞こえるだけでは助けようもあるまい。ここは一度戻って報告をあげるべきだ。」


---- 助けて…


「ほらまた、あっちから!」


今度は方向も確かに分かった。
十字路の進行方向右に伸びている道の奥からだ。

通信ではない。頭に直接響いてくるとはこういうことを言うのだろうか。他のものに聞こえないのは、自分の職によるものだろうか?フォトンに一番敏感なジョブである自分だから気づいただけなのだろうか。


「なんだ?あっちの方から聞こえるのか?」

「うん、本来の道順じゃないけど…」

「修了試験だってもうやり直しレベルだろうし、方角が分かったならさ、行ってみようぜ!」

「良い、のだろうか…」


いいじゃんいいじゃん、と音也は渋る真斗を引きずってさっさと道を進んでいってしまった。早苗と翔はそんな二人をちょっと微笑ましく思いながら、後を追った。
そちらの道の奥には洞窟が貫通してできたトンネルがあり、それを抜けると森の中層にあたるのか、先程の試験ルートよりも苔や蔦、樹木が圧倒的に多く涼しい気温だった。


「涼しいな。」

「あぁ、少し奥に入ってきたようだ。此処から先はガルフなどのすこし上位の原生種が出没する。本来であればアークスの任務でなければ入らないような所だな」

「マサ、詳しいねーオレなんてあのキノコ食べられるかなぁってくらいしか考えられないよ〜」


音也がそう言って指さした先を見ると


「まて、どうやったらアレを食べるって発想になるんだ!どう見ても赤に白い斑点で胞子飛ばしてるアレを食う気になるんだよ!」


某Bダッシュするゲームだと大事なアイテムだけれど現実には絶対に食べたくない色合いだよな、と早苗もそのキノコを見やる。


---- お願い…


「まただ」


先程よりも近づいているのだろうか、ときおり聞こえる声はどんどん鮮明になっていく。
視界の隅に行き止まりが見えた時、その行き止まりにある少し広くなった場所に、何か白いものが見えた。


「なんだ、あれ?人?」


翔の呟きに早苗と音也は焦ってそれに駆け寄った。取り敢えず、周囲に回復魔法のレスタをかけておく。


「女の子、だね…」

「何故このようなところに?この惑星の原生民だろうか?」


綺麗な赤っぽいオレンジの髪の毛に、独特な民族衣装のような装い、細い線のその体はアークスになるため鍛えた自分の体型とは似ても似つかず、不謹慎かもしれないが羨ましいと思ってしまうほど美しかった。


「どうしよっか、このままここに置いていくわけにも…音也くんか真斗くん、おんぶ出来そう?」

「おいこら相棒、なんで俺が候補に入って無いんだ…」

「だって翔くん私と身長そんなに変わんn

「辞めてやれ、今現実を突きつける必要はなかろう」

「聖川てめぇ…」


ひとまず戻ろうと言う音也が少女を抱え上げ、通信機で自分たちの座標にテレポーターを出してもらうと、4人はそれぞれのキャンプシップへと戻った。


キャンプシップに設備されている端末から拾った素材やアイテムを自分専用の倉庫へと預け、一息つこうと飲み物を取り出した。


「翔くんは何飲む?」

「スポドリとかあるか?」

「あるあるー」


ペットボトルを投げつけると、今度は逆に何を投げられた。薄いカードをどうにかキャッチすると、翔のパーソナルコードや現在のクラスとレベル、同行可能なエリア…といってもまだ「Non」の表示だが。これは確か、


「アークスカード、それ持ってれば任務についていけるだろ?お前はもう俺の相棒だかな、いつでも呼んでくれよ!」

「ありがと、翔くん。じゃ、私のも持って行って!相棒ならやっぱりお互い持ってたいもんね」


早苗も同じ様にカードを渡せば、翔はニカっと笑って大事そうに手荷物にしまってくれた。
少し休んでいると、アークスの上層部からの通信が入ってきた。キャンプシップの壁に映像が映し出される。


『修了試験お疲れ様デシタ☆本来であればやり直しも考えるところデスが〜YOUたちはダーカー殲滅にも協力し、人命救助も行いまシた。よって今回は特別に、合格にしちゃいまShow!!』

「ぉおぉぉぉお!それじゃ俺たち晴れてアークスだな、相棒!」

『ただし、忘れてはならぬ。今回の合格者は一十木、聖川、四ノ宮、一ノ瀬、神宮寺、来栖、白崎、渋谷、以上8名。
 今回、惑星ナベリウスで起きるはずのなかったダーカー出現により、命を落とした研修生も少なくない。アークスの使命はダーカーを倒し、宇宙を守ること。だが、それと同時に自分たちの命も守れねばならぬ。忘れるな、今日命を散らせた同志たちを。黙祷』


やはり、自分たちが生き残れたのは、4人だったからなのかもしれない。ペア制のこの試験で目の前で仲間を殺されてしまった恐怖と闘いながら自らも敵うことのない相手に挑んでいったのだろう研修生を思うと、早苗の頬には自然と涙が流れた。

翔が、音也が、真斗が。共に戦ってくれて本当に良かったと。志半ばで散った命を無駄にしないために。自分たちはダーカーを倒し続けなければならないのだ。





Chapter1.ずっとこの日を待っていた END





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