<私は、謝罪する。あなたに十分な言葉を告げられないことを。>



【Chapter.01 ずっとこの日を待っていた】



人類は既に地球という星に暮らすことは稀だった。それは早苗が生まれた時にはそれは当たり前の常識で、自分たちの故郷はこのシップという大型艦の隊、アークス船団と呼ばれるものであった。

別段それに疑問を持ったことはないけれど、強いて言うのであればどこかの星にとどまって暮らしてみたいと、思わないこともなかった。

早苗は星に降り立つための小型艦キャンプシップに乗り込む前に支給されたアークス用の戦闘服に着替えた。ジョブはフォースなのだが、それを無視して接近職用のネイバークォーツに身を包む。肌の露出が多いほうが自然にフォトンと感応できる。

フォトンは大気の流れとも言える魔力の源のようなものだ。魔法使いにとっていかに効率良く空気中のフォトンと感応するかは戦闘力に直結する大問題だと研修期間に教わった。


「サイズもピッタリ、ロッドも持った、準備OK!」


キャンプシップの中へワープ転送されると、既に修了試験のペアであるらしい人影が居た。
若い子に人気のスタイリッシュな戦闘服の彼はこちらを見るとニカっと笑って手をあげた。


「よぅ、お前がこの船のペアだな、俺の名前は翔!クラスはレンジャーだ。よろしくな!」

「私は早苗。クラスはフォース、よろしくね」


話しやすそうな子で良かったなと思いながら、早苗は翔と連れ立って修了試験の地、惑星ナベリウスへと降り立った。水面のようなワープ装置に身を投げると、胃の底に浮遊感と視界一杯に広がる雄大な森林に早苗は圧倒された。今までも研修で見ていた光景だけれど、この透明な空気と綺麗な緑は何度でも存在を主張してくる。
トンと軽い音と一緒に着地すれば、ナベリウスのフォトンが全身を包んだ。


「んー気持ちいー!やっぱこういう自然が一杯な所って良いよな修了試験ってだけあって、実践でもヌルイ場所だし」

「そうだね、原生種は居るけどダーカーなんて出てこないだろうし」


二人は自分の腰に下げた相棒とも呼べる武器を確認すると、インカムから聞こえたナビにしたがって道なりに歩き始めた。


「お、あの白い鳥、羽の先とか尾羽根の先とか、すっげー綺麗な赤色だよな」

「あぁ、アギニスね。あれはあれで、人間見ると襲ってくるから気をつけて」

「へー……ってそういうことは先に言ってくれよ!!」


修了試験とは言っても呑気なもので、目の前に登場した原生種の鳥に対しても二人は綺麗だなと思う程度でズンズンとコースを進んでいた。

もともと原生種のおとなしい生き物が多く、危険な目い遭うこともまずない惑星の、しかも森の外側だ。危機感をもてという方が無茶だし、何よりも早苗はペアになった翔が話やすいせいか、楽しくなっていた。

大きくカーブした道を抜けると、赤っぽい果実を食べている猿のような…たしかウーダンという原生種だ。


「第一原生種遭遇っと。…ってありゃどうも仲良くしましょうな雰囲気じゃねぇぞ!」

「気が立ってるね…何か苛立つ原因でもあるのかな?」

「んな呑気なこと言ってる場合か!!くるぞ!!」


ノソっと立ち上がったウーダンは両手を地面につけると、ブランコの要領で両手を軸に体を大きく振ってこちらに飛びかかってきた。二人はワタワタと左右に飛びどうにか回避すると翔がライフルを構えて何発も打ち込む。ウーダンは気に食わないのか翔一人へ目標を変更し、早苗にガランと空いた背中を見せた。


「今だ!」

「フォイエ!」


炎の初級魔法は一直線の火炎放射で、ウーダンはその場で黒く焼けて動かなくなった。


「ふぅーあっぶねぇな。でも、どうにかなるだけましだな」


----ウィンウィン


そうだねと同意しようとした時だった。通信機が着信を知らせ、アークスの事務官の声が響いた。


『全アークスに通達します。惑星ナベリウスにてコードG発令、フォトン濃度が上昇中、空間許容限界が近づいています。』


教科書にあった、自分が出会うとは思っていなかった、発令。

「コードG」

緊急レベル最上位の発令だ。


「え…?まじ、かよ…」

『全アークスは惑星ナベリウスでのダーカー殲滅命令が発令されています。速やかに対処願います、繰り返します』

「なんで!?ここは一番平和な星のはずだろ!?」

「グダグダ言わない!取り敢えず、Gが発令されてるし、他の研修生も居るはず。試験とか言ってる場合じゃないし、誰かに合流できるように探そう」

「そ、そうだな。お前やっぱフォースなのに頼り甲斐あるぜ!」


早苗は翔の言葉を聞き流しながらかけ出した。アークスから支給される戦闘服には靴底に特殊装置が付いているらしく、軽快な走行と高い跳躍力をもたらしてくれる優れものだ。今日ばかりは無駄な機能だとも思わず、二人は研修のゴール地点に指定されていたポイントへと森の中を駆け抜けた。
最後は十字路になった道を直進すれば、テレポーターがある。その目印である十字路が視界ギリギリに見えてきた時、再び通信機が受信を知らせた。


『全アークスへ通達、フォトン濃度が空間許容限界へ到達しましたッ!ダーカー、出現します!』

「はぁ!?まじかよ…」


思わず足を止めた二人の目の前に、空間の歪みが生じた。一点にフォトンと大気が圧縮されていき、さながら写真で見るブラックホールのような黒い塊が現れる。そしてその塊の中から、ノミのような黒い生き物が出現した。ただし、大きさは自分たちと然程変わらない。


「これが…ダーカー…全てを喰らい尽くすもの…俺たちアークスの、人類の、宇宙の敵…!!」

「こんなに早くお目にかかるとは…」

「流石に、我々も予想だにしていなかった。」


二人の肩にポンと手が置かれた。勢い良く振り返れば、青い髪の青年と、赤毛の男の子だった。見覚えがある、たしかアークスの研修生だ。


「研修生同士だけど、2人よりも4人のほうがいいよね!」

「修了試験に通れずとも、生きて帰ることを最優先に合流しようと二人のことを追いかけてきたのだ。」


無邪気そうな赤髪の子も、真面目な青髪の人も今は勝利の神に見えてしまうほど、早苗と翔は感激した。


「あたり前だ!どうにか、一緒にここを切り抜けようぜ!」

「二人は…接近職なのね、補助は私たちに任せて!」


了解の返事とともに、出現直後でまだのろのろしているダーカー、確か「ダガン」と呼ばれるそれらに、赤と青の二人が飛びかかった。


「シフタ!」


攻撃力を増大させるテクニックを行使した後、早苗はある程度敵から離れた。自分の遠距離攻撃なら、視界の隅に入ってくれれば当てられる。割りと近距離で攻撃を繰り広げる3人に当てないよう、攻撃魔法と補助魔法を繰り出していく。


---- 助けて…


十字路の右側。本来進む方向ではない方向から声が聞こえた気がした。緊張のし過ぎで空耳しているのだろうか?
気合を入れなおして前方を見やれば、ハンターの二人の動きは正反対で、赤髪の子は大検を振り回し力でダーカーをなぎ倒して回っている。それに対して青髪の人は銃剣で正確に急所を突いている。それだけの余裕があったのかと自分でも驚いた。

翔の動きが大きくないせいで目立たないが、ダガンの足を落としたり、剣士二人のもとへ誘導しているのがこうして遠くから補助していると分かる。


「レスタ!」


回復魔法をかけると、最後の一発ち言わんばかりに、
翔が大技を披露してダガンの殲滅が終了した。







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