【序章2.私のクラスメイト】
次の日、藍が言った通りの<アークスだもんね突然の事態にも理路整然と対応しちゃおうよシャイニング抜き打ち模擬戦闘試験>なるものがアークス総帥兼研修生たちにとっては校長でもあるその人の突然の思いつきで行われることになった。
「はぁ、まったく。抜き打ちで格闘技ですか」
隣の席でふかくため息をつく男性が居た。紺色というか黒色というか、深く綺麗な色の髪の毛とそれと同じ色の瞳。酷く整った顔立ちはお人形さんのようだ。そして成績は本年度研修生1位、一ノ瀬トキヤである。
最初は成績を抜けないことも悔しかったが、お互い普通にやっていたら1位2位だったと知った時、これは教えてもらう方が得策だと。抜くことよりも自分のチカラを蓄えることにした。
「なに、トキヤって座学以外は苦手?」
「身体能力的に出来ないわけではありません。ただ、自らの意思で運動をするのが好ましくありません。」
「じゃぁ、なんでアークスに?」
「それは…
<♪スペシャルごっきげんでー ハッピーになれるっ♪>
誰かの着メロがなった。一応授業中の持ち込みは禁止になっているため、指導員の嶺二が取り上げちゃうぞーと言いながら結局改修していない。
「誰だろうねーHAYATOの曲人気だからきっと皆…あ?トキヤ?」
「い、いえ、何でもありません…」
「あぁ、やっぱり双子の曲、教室で聞くのは複雑?」
「えぇ…そんなところです」
今、大人気のアイドルHAYATOは一ノ瀬トキヤの双子らしい。と言っても、早苗がご本人じゃないのかと疑ってしまうくらい、トキヤはHAYATOに敏感だ。さっきの着メロのように。ボロが出そうになるたびに、こうして周囲に聞こえる声量でごまかしのセリフを入れている。
「はーい、それじゃ1番の組から順番にそっちの競技用スペースに入ってね」
教室の隣に作られている競技用スペースは、戦闘中の研修生が見えるように、ガラス張りで区切られていて好きなだけ見学ができる。こういう実習の時には見学していても良いし、自習をしていても良い。ただ、成績上位者の集まるクラスとは言えども、この手の授業は異様な盛り上がりを見せるために自習をしている生徒はほとんどいない。
今日は2on2の試合らしく、フォースとハンターのペア、レンジャー二人のペアの戦闘が始まった。周囲が適度に騒がしくなってきた時、早苗の耳元でトキヤがささやいた。
「いつもありがとうございます。先程も助かりました。」
「いーえ、お互い様って言うし。トキヤがHAYATO演じてるって考えると結構疲れそうだなって思うし、私が助けたくて助けてるから気にしないで」
言えばトキヤはふっと笑ってもう一度礼を言うと耳元から離れていった。嶺二が「はいそこーイチャイチャしないのー」と言ったせいでクラスにあらぬ誤解を撒き散らされたのはまた別の話だ。
その後、ラストのペアはフォース+ハンターとフォース+ハンターの実力差が顕著に現れるであろう対戦カードだった。早苗は赤のビブスを制服の上から着ると、同じくビブスを身につけたトキヤとハイタッチで気合を入れあった。
成績の1・2番のペアに、あちらは3・4番のペアだ。ここで負ければ学年内順位の逆転もありえると、クラス中が注目してガラスの仕切りに身を寄せている。
「それじゃ、はじめ!」
嶺二の合図とともにあちらのフォースが炎系等の大技をくりだした。これは二人も予想済みで、早苗が自分たちの周囲に氷系統の魔法で吹雪を起こすことで簡単に回避する。悪くなった視界の中で防御力向上の補助魔法をかけられたトキヤがフィールドの隅を駆け抜けて相手ハンターにつめよる。
そのまま剣士同志の斬り合いに入り、相手のフォースはどうにか補助魔法を味方にかけようとしており、攻撃する気配はない。トキヤがあちらに居る分攻撃してこないと思っているのだろうか。
早苗はトキヤの合図を待ちながら、フィールド内のフォトンを自分の中に蓄えていく。握ったロッドにチカラを込めて、いつでも行ける状態にして、
「早苗!!」
叫んで一気にトキヤが後退するスペースに向けて、放つ
「ラ・ザン!」
風属性のその魔法は相手チームの二人を空中へと運び、露出した肌に切り傷をつけながら、更に二人は地面へと落ちていった。
「終了!勝ち、赤チーム!」
審判も兼ねていた嶺二の声が響いて、試合終了となった。トキヤや相手チームの倒れているところへかけていき、相手チームの二人に手を貸して立たせてやる。
二人は悔しそうにしながらも、トキヤの剣技を褒め称え早苗の魔法力を羨んだ。
お互いに大技を放ったこともあり、その熱気は教室の生徒たちにも伝染していた。やはりトップクラスは違う、と。教室に戻りながらトキヤと目が合ったので優しく微笑んで見せれば、それ以上に優しい笑顔が帰って来て早苗は素敵な気持ちでその日の授業を終えた。
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