【序章1.私の先生】
穏やかな澄んだ空、柔らかい雲は人工の風に流れていく。アークスシップの一般区画の公園の中、川辺の草原に寝転がってのんびり出来るのも休日のみだ。
「また変なところで寝て、風邪引いても授業の単位はむしりとるよ?」
早苗は視界を塞ぐように現れた顔にちょっとだけ不機嫌な顔をしてみせた。逆さまに見ても相変わらずの丹精な顔立ちをした彼は、アークス研修の指導員の一人で、主に成績上位者の世話をしている。美風藍。厳しい指導で彼に潰された生徒も多いそうだ。
今日はオフのためか白いジャケットでラフな格好をしている。髪の毛も瞳も美味しそうなミント色をした彼は淡い色合いがよく似合う。
「あぁ、美風先輩、お疲れ様です。」
「白崎早苗、本年度研修生2位実力者、この肩書がどれほどのものかわかってる?」
「普通にやってたらこうなったので特に何も感じてません…」
「これだからキミは…」
言うと、藍は早苗の隣に寝そべって続けた。
「アークスは宇宙の敵ダーカーと戦う存在だ。キミのようにペアが中々組めずソロ活動が多ければ内からは嫉妬で、外からは敵だからという理由で潰されかねない」
「あぁ、卒業試験のペアのことですか?誰かの足をひっぱるのは嫌なので、同じくらいの実力がある人と組みたいんですけど、皆に嫌がられちゃうんですよね」
「君のせいで、ルールが変わりつつあるよ。ペアは希望制ではなく希望無しのもの同志を組ませるのもありだって。」
藍はころんとこちらを向いて、
むに
早苗の頬をつついた。あぁやっぱり女の子って柔らかいんだ、なんて思われているとはつゆしらず、早苗は起き上がると仕返しに藍の頬を人差し指でおした。
別に藍とは恋人同志だなんて甘い関係ではない。けれど自分の成績が上位であることと、早苗自身が一番相談や質問をしやすい指導員であったがゆえにこうしてプライベートでも抵抗なく関われるようになってきていた。
「あぁそうそう、明日は急遽模擬戦闘の抜き打ち試験だって」
「それ教えていいの!?」
背中からパラパラと草を落としながら起き上がった藍は気だるそうに抜き打ち試験の存在を口にした。全くもって抜き打ちではなくなってしまう。そう言えは"事前の情報戦、人脈の活用も十分に戦略のうちだから良いんだよ"なんて教え子馬鹿な発言をされてしまえば、ちょっと恥ずかしくてそれ以上の追求は出来なかった。
土手の上の道に上がっていった藍が振り向きながら手をだし、繋がないの?帰らないの?置いてくよ?と目で訴えてきた。私の先生は格好良いし紳士的だ。
そう思いながら早苗は土手を駆け上がると藍の手をしっかりにぎって、一緒に寮へと戻っていった。
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