【EPILOGUE - 「All of the World」】




早苗と春歌は神殿の様子を確認した後、メンバーが集まっているはずの会議室へと赴いた。既に自分たち以外は集まっており、音也と真斗、那月、セシルが1つの机に、トキヤとレンと翔が1つ、嶺二と藍、蘭丸とカミュの4人で1つに、そして一番奥の机には林檎と龍也、そしてシャイニング早乙女が座っていた。
重々しい雰囲気の早乙女は、いつものオチャラケた顔ではなく口元もきりりと引き締まっている。その口が、ゆっくりと開いた。


「白崎、七海、お前たちのことは聞かせてもらった。」

「はい…それでは、信じていただけたということでしょうか?」

「お前たちの言うように、女王の巫女の治める国、そしてそれを襲う"不幸"と"魔物"、それを抱えて死んだ魂が人間に生まれ変わるとダーカーになる。今までに起きた連絡途絶のアークスたちに関しても、それで説明がつく。」


そこへ、机から離れて音也が掛けてきた。春歌の両手を大切そうに握ると、心配で泣きそうな顔で言う。


「俺、七海がまたあんなことするんじゃないかって…心配で…」

「…音也くん、ご心配ありがとうございます。でもいまは座ってください。私と、早苗から、大切なお話があります。」


まだ離れ難そうにする音也をトキヤが引き離しにきた。そのトキヤもまた、酷く辛そうな顔をしていて、早苗は申し訳なく思いながらも目線を逸らした。


「それで、お前たちの選択を聞かせてもらおう」

「はい。」



春歌のはっきりした返事に後押しされて、早苗は話し始めた。


「まず、この世界を2つに割ります。」

「早苗、すみません。割る、というのは?」

「そのままだよトキヤ。…この世界を、"不幸"が存在する世界と"ダーカー"が存在する世界に分けるんです。」

「私と早苗がそれぞれの世界を構築して、最後にダーカーのみの世界を壊しますもちろん、ダーカー以外の生き物はすべて"不幸のある世界"に残します。」

「無茶だよそんなの!そんなことしたら、ハルちゃんたちが死んじゃう!」

「同じく、そうやすやすと許せることではないな。」


早苗は自分たちの身を案じて立ち上がった真斗と那月を睨んで座らせると、また早乙女を向き直って続けた。


「彼等の言うとおり、私たちは世界そのものとリンクするために、人間ではなくなります。ですが、このまま世界を"不幸"と"ダーカー"が覆ってしまうのを黙ってみているわけにはいきません。」

「お願いです、私たちにやらせてください」


早乙女に全ての視線が集まる。止めさせろと言う目も、諦めた目も、まだ悩みが消えない目もある。
早乙女は重々しく、ゆっくりと頷いた。


「この世界に残るものたちの安全は、我々アークスが守ろう。…宇宙を、頼んだぞ」


「「はい!」」




二人が準備をしたいと会議室を出ると、外では友千香が待ち構えていた。いつもどおりの戦闘服を着ているが、その目に見られるとどうしてか落ち着かなかった。


「改めて…久しぶりね、春歌、早苗」

「トモちゃんも、思い出したんですね」


友千香は一度に二人を抱きしめると、震える声で告げた。


「今度は、アタシも覚悟ができてるわ。だから一緒に行かせて。もう昔みたいに躊躇わない。あんたたちと、宇宙を救いたいと思える」

「辛いよ?」

「平気」

「もう、誰にも会えなくなっちゃいます…」

「あんたたちが居る。」

「…本当に、いいんだね、友千香」


後ろから扉の開く音がして、大勢の足音と3人を呼ぶ声が聞こえた。


「ハル!お前、考えなおすことは出来ないのか?」

「そうだぜ相棒!せめて俺たちに相談してから決めるとか…その…色々あるだろ!」

「寂しいよ、七海…ようやく会えたのに…」


わらわらと春歌の回りに賑やかな面子が集い、早苗の回りには真剣な目で見つめるだけの面子が、本当に自分たちのことを考えてくれているメンバーが集まっていた。


「ほらほら、そんなに後輩ちゃんたちを囲まないの。傍から見たら集団でカツアゲに見えるよー?」

「ったく、どいつもこいつも湿気た面しやがって…。つーか、そいつらが決めたことだ。好きにやらせてサポートするのが俺らの役目だろ」


後ろからやってきた補佐官だった彼等にも、本当に言葉が出ないほど思われていることが分かる。カミュは早苗たち3人の前に跪くと、それぞれの手に敬愛のキスを落として、そのあとは何も言わずに春歌を抱きしめると何時も以上の無表情で立ち去った。

藍も、何も言わずに早苗の手をとると自分の腕の中に閉じ込め、耳元で「置いていかれたくない」と小さくつぶやくと、初めて見る泣きそうな顔で嶺二の後ろまで戻った。


「あぁあぁ、アイアイも泣かないの。後輩ちゃんが困っちゃうでしょ」

「さっきまで泣いてた奴に言われたかねーよなぁ、美風?」

「ちょっと、それは言わない約束でしょランラン!」


ふっと笑いをこぼせば、そこに居た皆も笑ってくれて、自分は本当に恵まれていると感じる。隣に居る春歌や友千香もそれは同じ様で、先程よりも余程覚悟の出来た顔で笑っていた。


「それじゃ、アタシたちは行ってきます。」

「あの、本当に、今までありがとうございました。」

「またね、皆。…今度は平和な世界に生まれること、祈ってる」









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