「もしさ、この世界のダーカーを全て1箇所に集めて、統治することが出来たら、人間を襲わないように出来たら、それってもう殺さなくてもいいよね、ダーカーを」

「早苗、それってどういうことですか?」

「いや、よくよく考えたらさ、ダーカーって私たちの不幸だと思う気持ちのせいで、あんなふうになっちゃってるんでしょ?だったら悪いのって元をたどれば私達で、出来れば殺さずに封印とか統治ができたら、それって平和だなって思ったの」






【EPILOGUE - 「Darkness Dearest」】






キャンプシップから降り立つと、藍と嶺二、それに蘭丸とカミュの出迎えをうけた。誰もが神妙な顔をしており、カミュにいたっては降り立つ春歌の手をとりエスコートしたほどだ。


「おかえりなさい、後輩ちゃん……ううん、姫」

「嶺ちゃん先輩も、思い出したんですね」

「悪かったな、気づくのが遅くなって」


蘭丸はその大きな手で春歌の頭を撫でながら満足そうに笑った。早くに思い出していた藍はいつもとそんなに変わらぬ様子だが、嶺二の方は大分辛そうだ。


「ごめんね、ついて行けなくて。」

「謝らないで下さい、嶺二先輩。あのあと国を保つためにも、残ってもらうつもりでしたから。」

「もう一度、言わせてくれるかな。ボクは、早苗が好きだよ。今度は身分違いじゃない。でもボクに振り向いてくれなくって良いよ。キミの幸せだけ、願ってるから」

「ありがとう…ごめんなさい。」


嶺二はそれだけいうと、いつものお調子者のテンションに戻って、6人をショップエリアへと連れていき、お気に入りだというカフェでお茶をした。


藍とシュークリームを食べ、嶺二にお茶を淹れてもらい。春歌やカミュ、蘭丸ともいろんな話をして、時間はあっという間に過ぎた。帰りがけには藍が早苗を、カミュが春歌を送ることになり、早苗は藍と手を繋いで自室へ向かっていた。


「そういえば、返事。聞いてないんだけど」

「あちゃー、やっぱ覚えてました?」

「いくら、その後の浮遊大陸での任務が強烈だったからといっても、ボクは忘れてなんかあげないよ」


少し呆れたように言う藍は、繋いでいた手を引いて早苗をしっかりと抱きしめた。暖かい。早苗も藍の肩に額をのせて、全身を彼に任せる。


「言わないと、好きなように解釈するからね?」

「あーそれは困ります、やっぱり自分で言わないと」


そこまで言うと、早苗は顔をあげてしっかりと藍をみつめた。至近距離で見ても、やっぱり彼は綺麗だった。


「私、藍のこと大好きでんんっ……」


言い終わるまえに口が塞がれ、話していたために空いていた口の中へ彼の甘い舌を入ってくる。歯列をなぞって、早苗の舌を吸って、丁寧に絡ませて、たっぷりと堪能してから名残惜しむように透明な唾液の糸を引いて藍は離れていった。


「言い終わってなかったんですけど…」

「嫌、だった?でも恋人どうしって、こういうことしても良いんでしょ?」

「相変わらず本から得た知識で生きてる人ですね、でもそんな藍先輩大好きです」

「ダメ、そうじゃないボクも好きにならないなら帰してあげない」

「なんですか、それ…」


相変わらず我が儘な藍の発言に笑いながら、早苗は藍の背中に腕を回した。耳元でそっと呟かれていく言葉は、きっと寂しがりで不器用なかれの本音で…


「『好き』って良く分からない。自分のことなのに自分のことじゃないみたいで。早苗の側に居たい。全部から守りたい。ボク以外に見せたくない。…でも、人前で、授業や任務で頑張ってるところを見るのも嬉しいんだ」

「私も、藍先輩に教えてもらうのも、一緒に川辺でお昼寝するのも好きです。きっとそれと同じですよ。私は藍先輩大好きです」

「ボクも、早苗が好きだよ…多分これは、恋してるんじゃなくて、愛してる」


首筋に埋まった藍の頭がもぞもぞと動くと、ぺろりと舐められ、そこをまた少し強く吸われて早苗は怖いやら気持ち良いやらで背筋をぞくっと震わせた。その様子に満足したのか、藍はもう一度首筋を舐め上げたあとで、早苗の左手をとった。
そしてその薬指へキスをしてから、ポケットから取り出したソレをはめた。


「夫婦になるにはこうするんだって、博士に聞いたんだ…」

「藍先輩…気が早いですよ」

「どうして?ずっと待ってたのに。早いなんてことないと思うんだけど」


言われて、最初からずっと、そして何度も待たせて曖昧な返事で誤魔化して皆で居られることを優先していた過去の自分に、盛大な平手を食らわせたくなる。
女王という立場上、幾人かの男性を正室や側室に迎えることは可能だけれど、それは相手に失礼だからしたくないと頑なに断っていた。だったら、早く一人の相手を決めなくてはならなかったのに。

藍はもう1つポケットから指輪を取り出し、自ら左薬指にはめようとしたので、慌てて早苗はそれを奪い取って、指輪に口づけてから彼の指にはめた。


「これでずっと一緒だからね。離れたりしたら怒るよ、ボクが守ってあげられる距離から出ちゃダメだから」

「もちろん、手を伸ばしたら触れるくらい近くに居ます」

「ねぇ、これからどうしたい?」


藍は早苗の両手を自分の両手でしっかりと包みこみ、優しく穏やかな目で言った。それはいつも、どんな無茶なことを言っても力を貸してくれる時の顔で、早苗は懐かしいのと同時に涙がこぼれそうになった。


「ダーカーが邪悪な存在であるのは、人が生み出した"不幸"のせい。だったら、悪いのはダーカーだけじゃない。私は、ダーカーの全てを自分の支配下に置きたい。そうすれば彼等も私達人間も出来る限り平和に暮らせます。」

「闇の女王にでもなるの?…正気?」

「知ってるでしょ、藍?私とっても我が儘なの」


諦めたような顔で笑った藍は、早苗の後頭部を右手でぐっと引き寄せるとまたお互いの味を堪能するようにゆっくりと深く口吸をした。




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