「は、春歌…そんなに早く走ったら、ナマッてる体には…辛くない?」

「大丈夫です、魔法使ってますから。早苗も使えば良いのに」


走る様はテクテクなのに、進むスピードはビューンな春歌に、置いていかれないよう結構必死に走る早苗はベロをかまないように叫んだ。不思議と二人の回りにはそこに住んでいるはずの原生種も、そしてチラホラ見えるダーカーも襲いかかって来なかった。
しばらく進むと、記憶に懐かしい…というか、新しいというか、"見慣れた"教会のような建物の前で、二人は立ち止まった。

ところどころ崩れ老朽化が進んでいるらしいその建物の奥へ、春歌は迷うことなく進んでいく。


「春歌、ここが、神殿?」

「場所までは覚えていないんですね…多分、早苗の方がたくさん生まれ変わってますから」


魂も年を取ると物忘れするのだろうか。
その神殿の中は椅子を全て取っ払った教会のような作りで、奥にある一段高くなった場所に、白い大きな繭が安置されていた。
その繭の周囲には、更にクリスタルで作られたような鎖が張り巡らされ、その鎖には一定の間隔で御札がぶら下がっていた。周囲の壁に糸を張り、少しだけ浮いている繭は、既にところどころが破けてしまっており、そのすき間から綺麗な赤い巫女服が覗いている。

巫女服をまとった体は何千年も経過したとは思えないほどに綺麗で、肌が異様な薄紫になっている以外には、少し劣化している程度だ。そしてその巫女の、春歌の腕を食らっていた小さなダーカーは二人の存在に気づくと慌てて何処かへ消えていった。


「これが、"不幸"を吸い取った巫女…」

「はい、この私を食べることで、ダーカーは成長し、この宇宙を襲うのです。」

「そして、不幸を溜める繭の上にかけた私の封印も…」

「既に、解け掛かっています」


言わずとも、二人が二人共、自分が過去に行ったこと、そして、お互いが今再び行おうとしていることはわかっていた。


「春歌、もし同じ封印を施して、どのくらいの時間持つかな?」

「分かりません…でも早苗も私も魔力は強くなりました。昔のように、街人の方々を巻き込んでダーカー餌に、ダーカーの寝床にしてしまうわけにはいきません。やるなら、二人で…試すべきですが、別の方法も考えられませんか?」

「…どちらかが、この世界のダーカー全てを統べる存在に、ダーカーの生きた母になる、とか?」

「相変わらず早苗はアクティブです。…私は、宇宙をもう1つ作ることを考えました」


宇宙創造なんてそんな無茶な意見も、今の彼女の意思の強さならやりかねないだろう。
破れた繭を見るだけで、体の底が冷えていく。また、繭の中からダーカーが這い出てきた。


「ダーカーたちを集めて、彼らしか存在しない世界を作ればそれも解決されるかと思いました。」

「なるほど、"不幸"と"ダーカー"を分離してしまえば、被害はもっと小さくなるし、汚染された魂を持った人間も、ダーカーにならずに済む…」

「でも、これをすると、私たちのどちらかがそのダーカーの世界のトップにならなければいけません。出来ればこれは、最終手段にとっておきましょう…」


二人は繭の上に更に結界を貼ると、指定された素材の回収をして
アークスシップへと戻った。








どんな決着の付け方をすれば良いのか。

早苗は春歌と共に自室への道を歩きながら考えた。



そうだ、それに、彼等に答えも返していない。藍は今世も合わせて、返事をしっかりしなくては。何回も何回も、自分を守り支えてくれた彼等の気持ちに。


けれど、世界はきっちり救わねばならない。

両方を、する、道はないのだろうか…


長い廊下が、終わらないように感じた。



Chapter.10 輪廻の導 END









・・・・・次回最終章、分岐終幕。





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