【Chapter.10 輪廻の導】






早苗は記憶の奔流からようやく開放されると、目の前に立っていたトキヤに抱きついた。


「ごめんなさい、私、とても大切なこと、忘れてた」


トキヤは黙って、そっと頭を撫でるだけで、嫌な顔1つせずに落ち着くまで抱きしめてくれた。


「どうしよう、今こうして、また世界にダーカーが生まれてくるということは…」


早苗は記憶と、現状と、照らしあわせて考えられることを口にした。歩み寄ってきたレンも、同じ様に頭を撫でてくれる。そして同じ様に歩み寄った藍が言った。


「その、女王の記憶が完全に戻ったなら、分かるよね?」

「藍先輩…私………」


藍はお腹を抑えてしゃがみ込んだ早苗の背中をそっと撫でた。早苗は止まらない涙を拭くこともせず、ただただ、言葉を紡いだ。


「お腹に…お腹に、大切な人との子が居たのに…守れなかった!そして封印も完璧ではなかった!!…私は、何も救えてない…生まれ変わった街人たちは…穢れを貯めて…ダーカーになってしまう…!!トキヤも、レンも、藍も!巻き込んで…それなのに……」

「私たちは、貴女を愛していた。…いいえ、愛しています。だからこそ、着いて行った。そしてそれを今も後悔していません」

「ハニーは覚えてないかな?何度も生まれ変わって、一緒の時代を生きてきたこと。例えば、中世の英国で葬儀屋を営むオレと貴族のお嬢様だったハニーのこととか」

「早乙女学園で、キミの担当になって一緒にユニットソングを作ったこととか。あの時は確か、近衛や補佐官が全員同じ時代に生まれ変っていた」

「それと、妖怪の先祖返りが集まるマンションのこと」

「ハニーにはバスケ部のマネージャーもやってもらったね」

「皆…全部覚えてたの…?」


驚いて止まった涙の、目尻に残っていた分を藍が人差し指で掬った。


「いいや、さっき、思い出しのさ。でも、これだけは言える」


藍が、レンが、そしてトキヤが、立ち上がって頷きあった。


「ボクたちは、キミと一緒に生まれられた時、キミだけを愛していた」

「そして、いつも、貴女の側に居られることを幸せに思っていました」

「ハニーと共に封印の儀式に臨んだこと、後悔してないよ。」


早苗は、涙がまた一筋、溢れるのを感じた。
思いが、心に堰き止めきれない程につもり、そして流れだしていく。


「ずっと、待たせてごめんなさい。ちゃんと、こんどこそ、お返事します」







凶暴化龍族の討伐を終えて帰還すると、アークスシップの入り口に、春歌と林檎が待ち構えていた。
春歌のその手には"巫女の榊"があり、そして先日までの弱々しいだけの瞳は、今は控えめながらも強い意思をたたえて、綺麗に輝いていた。


「おかえりなさい、早苗…」

「ただいま、春歌。…おかえり」

「うん、ただいま。……あの、今日、音也くんが何処に行っているかは…」

「一十木は、確か今日はナベリウスの地質調査のはず」

「そう、ですか…ありがとうございます。」


春歌はいつもよりもしっかりした足取りでこちらにかけてきた。
様子を見る限りでは


「春歌も、思い出してる?」


驚いて顔を上げた春歌は、しっかりと頷いた。
トキヤが林檎にいつものメンバーを招集するように伝え、ひとまず今、同じ時代に生まれている近衛や補佐官に記憶の確認と、覚えていない場合には事の説明をすることにした。

そして皆で会議室へ向かおうと歩き出すと、早苗の服の裾を春歌がチョイチョイと引いた。銃剣を持った彼女はクエストカウンターを指さし、他の人には言いたくないのか無言でカウンターへと連行した。
そして、ナベリウスの奥地、遺跡エリアへのクエストを受けると、直ぐにフィールドへと走っていった。




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