実際に、聖殿にあった繭から魔物たちが這い出す様子を目の当たりにすると、早苗はさらに腹が座っていくのを感じて「座っていくってなんだよ、普通直ぐ座れるだろ」と自分の気合を入れなおした。

いつもの豪華なドレスではなく、周囲のフォトンと感応しやすい露出の多い服装で、早苗は神殿へとやってきていた。

ちなみにドレスは1つの部屋に集められて、全てが片付いたらメイドと巫女と共に亡くなった者の家族の女性たちで分けるようにと、嶺二に言いつけて出てきた。辛そうな顔でぎゅっと一度抱きしめてから、指先にキスをくれた。

「身分違いながら、ずっとお慕いしていました」と、いつもと違う真面目な口調に驚いたものの、「ありがとうございます」と「こんな形でお別れしてごめんなさい」をしっかりと言えたのは本当に嬉しかった。


「で、貴方達はどうしてここに?」


早苗は自分が敵を排除しておいた神殿に入ってくる背後に迫る4つの気配に振り向いた。
まず、ひょっこりと顔を出したのは友千香で、その後ろからレンとトキヤ、そして藍が入ってくる。友千香は初めて春歌の繭を見たのか、その場で目を潤ませて、それからこちらへ走りよって抱きしめた。


「ごめんね、ごめんね、早苗…」

「友千香?」

「3人は、どんなに身分が変わっても友達だって、約束したのに……アタシ、一緒に行く決意が付かないのっ!」


その一言に、自分がしようとしていたことを皆に知られてしまったと気づく。ため息ひとつと一緒に3人の方を見渡せば、優しい穏やかな瞳でこちらを見ている。


「本当なら、アタシが全部代わってあげたい…せめてお腹の子だけでも…」


後ろに居た男性3人がギョッと目を見開いた。


「あらら、バレてたか…」

「一応、あんたお付きメイドのメイド長よ?なめないで頂戴!」

「ありがとう、友千香…本当に、ありがとう」


もう一度だけぎゅっと友千香を抱きしめると彼女を神殿の外へとだし、念のために結界を貼る。


「それで、この魔物を生み出すマザーになってしまった春歌を、封印するために私はここに居る。…着いて来てくれると、考えて良いの?」


3人が、静かにその場に跪いた。


「えぇ、私たちは貴女に、そして国に命を捧げるためにここへやってきました。」

「ハニー、一緒に行っても、良いだろう?」

「早苗のこと、放っておけないからね。一緒に行くよ」

「ありがとう、レン、藍、トキヤ……」


早苗は3人を順番に抱きしめて、そして、




「天を我が父と成し、地を我が母となす。六合の中に在り、南斗、北斗、三台、玉女。
 左青龍、右白虎、前朱雀、後玄武。扶翼、急々如律令!!」



神殿を、大きな光が包み込んだ。






Chapter.09 平和の標 END




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