トップクラスの人気者というのは、どんな職業であれ大変なものだ。

早苗は自分のアークスカードを見てため息をついた。総合ランクがA+、前代未聞の速度でランクが上がっていた。ジョブ内ランクにいたっては第4位という成績だ。
そもそも、こんなに過酷な状態に陥るルーキーなんてそうそう居ないはずだ。それを偶然にも乗り切ってしまったのだから、当然と言えば当然のランクかもしれない。


「だからってー!こんな任務よこさないでくださいよー!!」


よー、よー、よー と、遠くやまびこが響く。背後に居たトキヤとレン、藍もその様子に苦笑している。
今4人は、惑星アムドゥスキアの上空に浮く島々、通称「浮遊大陸」にやってきていた。
龍族からこの4人にご指名で、凶暴化龍族の討伐任務が依頼されてきたのだ。

先日の爆弾テロ事件でも何故か一役買ってしまった早苗は自分のランクが実力に見合わず上がっていく事に不満を感じていた。その理由の一つがこれだ。


「だいたい!何でルーキーにこんな失敗すれば即外交問題になるような任務ばっかり与えてくるわけ!?」

「落ち着いて、ハニー。それにここも古い土地だから、何か女王や巫女に関する知識が手に入るかもしれないよ」

「そうだけどー…」


藍はしびれを切らしたのか、まだふてくされたままの早苗の手をとって、ずんずんと進み始めた。

浮遊大陸はその名の通り、島々が大量に浮かんでいるエリアのことだ。こちらには火山洞窟とはまた別の龍族が住んでいる。
早苗はこの任務に、ふてくされついでで"女王の杖"を持ち込んでいた。"巫女の榊"は春歌と林檎に預けられている。

壁画の写真のように、先端のモチーフに色は灯っていないが、まぁ、なるようになるだろう。杖と呼ばれているくらいなのだから当然使えるだろう。という短絡思考で、背中に背負ってきてしまったのだ。


「早苗、まさかその杖で任務にあたるつもりですか?」

「うん、使ってみようかと」

「…まったく、他人の話を聞きたがらないのは研修時代から変わりませんね」


歩き出してしまった藍と早苗に追いついたトキヤは開口一番に不満そうな声で言った。もちろん、今日一番最初に出会ったレンですら同じ態度だったのだから、当然の反応といえばそうなのだろう。


「早苗がそれで良いって言うんだから良いんでしょ。万が一何かあっても、ボクらがしっかり守れば良い」

「おや、美風さんももしや

「悪いけど、キミのように古の執念で早苗の側に居るわけじゃないよ」


早苗が全くついていけない会話が修了すると、後ろから追いついたレンに促されて4人はまた進み始める。
この浮遊大陸には、深い青、ミッドナイトブルーと呼べば良いのであろう鉱物を巨大な立方体、直方体に切り出して作られた遺跡のようなものが多く存在する。


「藍先輩、このトーテムポールみたいなの、何ですか?」

「トーテムポールは知ってるんだね。これは避雷針、というよりもゾンデ系(雷系)の魔法を吸収して増幅するための鉱物だね。」


分からないことは藍やトキヤに聞きながら、時折、レンの質問にも答えながら、初めての浮遊大陸を進んでいく。
"浮遊"大陸と言うだけあって、柵も何もない小さな島は上空の雲と同じ高さに浮いている。落ちればどうなるかは想像したくもないが、下から拭きあげてくる風とその風が発する音でどうしても恐怖心を煽られる。
何が言いたいかというと。


「レン、このエリア、めっっっっちゃ怖い!!」

「おやおや、このオレに助けを求めてくれるのかな?」

「出来れば真斗くんみたいなタイプに助けてもらいたいけど」

「聖川の名前を出してくるとは、プレッシャーだね」


なんてくだらないやり取りをしていると、藍が先程離れてしまった手を、黙って繋ぎに来てくれる。午前中の話がポンと脳内に蘇り、早苗は暑くも無いのに頬が赤くなるのを感じた。
その次の瞬間、


ごっとん


大きな音と共に、体を浮遊感が襲った。


「え…!?」

「落ちますね」

「えええええええ!」


雪山でクレバスに落ちた時の恐怖が蘇り、赤かった頬が一気に青くなるのを感じながら、藍にしっかりと抱きつく。


ごっとん


浮遊感はその直ぐ後に終わった。藍に抱きついて足が浮いていた状態から、そおっと降りてみると。


「な、なにこれ…」


ただいま、地面。人間は陸の生き物だと実感しながら周囲を見渡すと、どうも自分たちの歩いていた島と島を繋いでいた部分だけがそこだけポッカリと下に沈んでしまっているようだ。


「…コレ以上下に下る心配はなさそうだね」


周囲を見回して、藍が小さく呟いた。レンが体の後ろにあったシュトラウスという長銃を構え、周囲に気を配る。


「もしかして、龍族ですか…これを仕組んだの…」

「おそらく、龍族の罠だね。ほら、出てきた。」


言われて顔を上げると、常に飛行しているタイプの龍族「ウィンディラ」にトキヤが切り込んでいくところだった。弱点だと言われている頭部を切りつけるも、特に効いた様子では無い。ウィンディラに続いて4人の周囲には既に目が正常でない、凶暴化してしまった龍族たちが湧いてきた。


「シフタ!」


早苗は4人に攻撃力増大の魔法をかけると、直ぐに周囲のフォトンを吸収し始める。
今日は藍のジョブがテクター、接近戦が得意な魔法職だ。遠距離からの援護は自分一人になってしまう。


「とりあえず、死なないように頑張りましょう」

「それがハニーの望みなら。」

「えぇ、叶えて差し上げましょう」


言ってトキヤが再びかけ出した。向かう先の敵にレンのウィークバレットが打ち込まれていく。早苗もフォトンの吸収が終わると同時に叫ぶ。


「メギト!!」


魔法力の闇にあたる部分を凝縮した追尾性のある球体を、自分の前に3つほど出現させる。それらは割りとゆったりと飛行していき、周囲の龍族たちへ炸裂する。

トキヤが前衛で切り込んでいき、後方から早苗がメギトと補助魔法でサポートする。レンがウィークバレットを打ち込み弱点にした部分へ、前衛職になっている藍が、闇の魔法をまとった短杖で物理と魔法、両方の攻撃を同時に打ち込む。


思いの外あっさり片がつくと


ズゴゴゴゴゴ


また、大きな音をたてて、地面が本来の高さまで登っていった。


「なんだ、案外弱いんだね、浮遊大陸の龍族って」

「えぇ、確かに手応えが無いと言いますか…何時も以上に自分たちが動けていたようにも思います。」

「へぇ、そこまでは、イッチーも思い出していないってことか」

「私とて、完全に全て分かっていれば話してますよ」


また早苗のついていけない話題をしながら、3人は先に進んでいってしまう。


「ちょ、待ってよ」


島と島を繋ぐ部分から、次の島へと一歩踏み出したとき、


ガコン


早苗の足元で、地面の一部が凹んだ。
そう、丁度何かのスイッチのように。






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