惑星リリーパは砂漠の星。
そして打ち捨てられた文明のロボットたちが数多くうごめく土地。その更に地下には当時利用されていたであろう坑道が蟻の巣のように巡っている。


「この坑道のかなり奥の方で、救難信号が発信されているそうです」

「こんな人の居ない場所でか?軽くホラーだな」


今日の任務内容を確認するトキヤに、翔がぼそっと呟いた。
リリーパで任務を受けようと思った今朝方、研究室の藍から任務の依頼をされたのが「救難信号の調査」だった。
既に打ち捨てられた場所であるにも関わらず、その奥地で救難信号が発信されている。放っておく訳にも行かないのでちょっと見てきてくれないか。とのことだった。


「にしても、リリーパはまだ心苦しくないよね」

「なんだ、それ?」

「ナベリウスの原生種とかだと本当に生き物だけど、ここのは機械だから、大丈夫。」

「……そんなこと考えたことなかったな。」


次々と湧いて出てくる4つ足の機械を壊しながら進むうち、早苗はそんなことを考えていた。いくら汚染されて凶暴化しているとは言えども、彼らだってちゃんと生きているのだ

けれどリリーパに出てくるのは機械で、彼らは凶暴化したわけではなく、侵入者に反応しているだけだ。そう思うとリリーパで敵を倒す方がよっぽど気が楽だ。


「そっか、相棒は優しいんだな」

「翔は、優しくないのですか?」

「トキヤに言われたかねーけどさ、俺、とある人を探すためにアークスに入ったんだ。だからその障害になる奴は出来るだけ穏便に倒す!」

「穏便に…倒す?」


早苗がくすくす笑えば翔はちょっと頬を膨らませて、笑うなよなーとつぶやいている。
突然トキヤが手元の端末を気にしだしたので「どうしたの」と聞いてみれば、


「いえ、予め美風さんから受け取った地図には載っていない別の道があるようなので、場所を間違えていないかと…」


言ってトキヤは自分たちの右手にある細い道をさした。


「でもこの道すっげー細いし、ほら、地図って細い道は省いて書いたりするだろ?そういうことじゃねーの?」

「確かに気になるけど…翔くんの言う理由もわかるし、藍先輩の指示だとまだ奥の方だよね、救難信号?」


まだ渋るトキヤに、戻ってきたら見てみようと言いきかせ、どうにか3人は次のエリアへと進んだ。


いくつかの区画を抜けて行くと、頭の上に救急車のランプのようなものをつけたロボに出くわした。


「救急車みたいな頭してるな」

「確か、ギルナッチ、周囲の機械たちの回復をしてまわる、まさに救急車のような機甲種です」

「んじゃーあっちの白い方は?形似てるけど、色違いの奴」

「翔、貴方はもう少し学業に専念した方が良いのでは?」

「んだよ、ちょっと忘れただけじゃんか」


コンテナの影からギルナッチの様子を伺いながら、3人はヒソヒソと話し合っていた。確かにリリーパに住む機甲種については研修生時代に習ったし、トキヤと早苗については学年のトップだ。だから翔が知らない、という理屈は通用しないが…


「確か白い方はギルナス。コアになる部分の機械が手足を操ってる、複数の個体が集まってるタイプの子のはずだよ」

「なるほどー流石オレサマの相棒だな!」


しっ と、トキヤが口に人差し指を当てた。


「良く聞いて下さい」


言われて耳を澄ますと、機械の動く稼動音にまじり、ピタピタという足音とロボたちがあるくのとは違う機械のガシャガシャとい音、それから「リーリー」という甲高い鳴き声が


「あ、リリーパ族!」


その声に思わず早苗はコンテナの上に飛び乗った。するとギルナスやギルナッチの群れの奥に壊れかけのギルナスに捕獲されてしまっているリリーパ族が見えた。

捕獲されている一匹は既にぐったりとしており、もう一匹が必死にギルナスを両手でポカポカと叩いたり仲間の腕を引っ張ったりと泣きながら奮闘していた。

丁度そのリリーパ族の居るあたりの壁に、黄色と黒のラインで囲まれたボタンが設置されていた。恐らく困ったリリーパ族がダメ元で押したのだろう、救難信号のスイッチだ。


「早苗、早く降りないとギルナスに気づかれます」

「リリーパ族がギルナスに捕まってるの…」

「リリーパ族?あのウサギみたいな可愛い奴らだよな?」


早苗は小さく「行かなくちゃ」と呟くと、コンテナの上に立ち上がって周囲のフォトンを吸い上げた。

大気中のフォトンの動きに反応したのか、ギルナッチが頭上のランプを点滅させ、けたたましい音をたててこちらへ向かってきた。


「今、助けるからね」


機械には電気の魔法でショートさせるのが一番だが、ここは床も壁も伝導体で出来ている。下手に使えばリリーパ族を捕まえているギルナスを爆発させかねない。
早苗は正面のギルナッチをロッドで叩いて遠くへ吹っ飛ばすと、その奥に居たギルナスにグランツで光の刃を食らわせながら考えた。イーグルアイなんて素敵な能力は無いが、ぱっと前方を見て状況を把握する。
グランツを浴びたギルナスは、翔がウィークバレットを仕込んでいたらしく一発で鉄くずになった。


「呼び声に答えて…」


早苗は周囲のフォトンを活性化させ、自分の体の回りが光るほどまで純度を高めてからフォトンを体内に取り込んでいく。


「早苗っ!それは駄目です!」


何をする気か分かったらしいトキヤが後ろから叫んでくる。翔は分からないのか止めるきが無いのか、早苗に群がろうとするロボたちを正確に撃ち落としている。


「天を我が父と成し、地を我が母となす。六合の中に在り、南斗、北斗、三台、玉女。
 左青龍、右白虎、前朱雀、後玄武。扶翼、急々如律令!!」


頭の中でイメージした、技が、今日は自らの意思で発動された。

狙った、リリーパを捕らえているギルナス以外の機甲種の頭上に光の刃が降り注いだ次の瞬間には、その場は鉄くずの捨場のようになった。そのままコンテナから飛び降りると、早苗は残ったギルナスの両腕を掴み、慎重に広げていった。
少しの根競べの後、リリーパ族を落としたギルナスを持ち上げ、通路の外へと放って捨ててから、傷ついた彼らに回復魔法をかけてやった。

囚われていたリリーパ族もしゃっきりした顔で立ち上がると3人に小さくお辞儀をして通気口の中へと入っていった。あの先が地上につながっているのだろうか?


「良かった…無事に帰せて…」

「全く良くありません!」


大声にビクリと肩をすくめて振り向くと、眉間の皺が通常の3割増しなトキヤが居た。
その黒いオーラに恐れをなしたのか、翔はこちらを遠くから見ている。


「また無茶に魔法を使って、貴女はどれだけ私を心配させるつもりですか!」

---- また熱なんて出して、どれだけ私を心配させるつもりですか!


遠くに聞こえた声と、目の前のトキヤの顔が被る。と、そのままトキヤは早苗の右腕を引っ張ると一度ぎゅっと抱きしめてから俵のように担いだ。


「ちょ、トキヤ!何を!?」

「無茶をする人には姫抱きだなんて素敵な抱き上げ方はしません。担ぐので十分です」


紳士らしからぬ発言に、こりゃ相当怒らせたなと早苗は諦めて体の力を抜いた。早苗が大人しくなったのを感じたのか、お腹のあたりで、トキヤが小さく付け加えた。


「私はいつも貴女の味方だと言ったでしょう?なぜその私を頼っていただけないのですか、私だって拗ねることはあるのですよ?」

「トキヤ…あなたも…」

「例え貴女が、ミューザのことを忘れていても、クルジスやカザフスタンのこと、早乙女学園のことを忘れていても。」


トキヤは愛おしそうにほっとため息をつくと、
頭を早苗の脇腹にことんとブツケて言った。


「貴女は私の想い人なのですから」





_





_