<何処に居ても、私は貴女の味方で、貴女は私の想い人です。…愛しています、貴女だけを。>




【Chapter.07 追憶の雫】




「真斗くんのお家、すっごい広いし良い感じに古くて好きだなぁ」

「聖川家に養子にくるか?」

「あっは、じゃぁ私がお姉ちゃんだねー」


黒塗りの柱たちに、鶯張りの廊下。お家に仕えているメイドさんや執事さんたちは皆和服。もちろん、時期ご当主で現若様な真斗も当然和服。

その後ろを、いつもの戦闘服ではなく少しラフな私服でてくてくと付いていくのは早苗とレン、そしてトキヤだ。レンは薄いピンクのワイシャツに黒のパンツ、トキヤは薄手の生地で紺色のセーターにベージュの綿パン。さらに早苗もハイネックのTシャツとチュニックにスパッツで休日モード全開、お家への違和感満載で、真斗のうしろを歩いていた。


「俺の部屋に、じぃが書物を運んでくれてある。茶菓子も俺の手製で用意したから、楽しみにしていてくれ」

「おぉ、流石真斗くん!!」


茶菓子と聞いてテンションの上がる早苗に、後ろに居たトキヤがカロリーが云々言っているが、女の子にそんな話は聞こえない、耳に蓋だ。

真斗の自室だという部屋に通されると、板張りの広い部屋に、時代劇で寺子屋においてあるような長机が2つと大量の巻物を含む書物が置かれていた。
更に部屋の片隅には「中世ヨーロッパ」な感じの漂う羊皮紙の巻物やら茶色い革張りの本が山積みになっていた。


「あっちの洋風な本たちは?」

「あれは、オレの家から運ばせたものさ。聖川家に勝らずとも劣らないくらい古い家だからね」

「それでは、聖川さんのお茶菓子も気になりますし、さっそく始めましょうか」


トキヤの一声で、4人は机に置かれたお茶とお菓子を摘みながら、書物の山にとりかかった。


先日の雪山で拾った杖。
武器職人である嶺二の父親に見せれば「古過ぎて分からない」と言われ、仕方なく自力で調査するため、古い資料が多く残る旧家出身の二人に協力を仰いだのだ。トキヤは純粋に学術的興味をそそられたらしい。


「おや、案外簡単に見つかるものですね」


トキヤが読み始めた2冊目の本で声をあげ、早苗は慌ててアグラを解いてトキヤの後ろから本を覗きこんだ。
それは神宮寺家に保存されていた古書で、アークスの元となった地球上の国家の話が載っていた。


「あぁ、このアークスが出来た時の伝説ね、セシルくんが教えてくれたやつだ」

「愛島さんが?」

「うん、最近変な夢を見るんだけど、そのストーリーがこれに似てるって」


トキヤは少しだけ難しい顔をすると、そうですか、とだけ言って、また書物を指でなぞり始めた。


「これに載っている大国家ミューザ、最後の女王が持っていた、魔術を行使するための杖。この写真に似ていませんか?」


言われて女王を描いた壁画だという写真を見れば、確かに、シンプルな白い杖は今日も早苗が持ってきたものにそっくりで。


「だが、こちらに載っている壁画とは、先端部分の色が違うようだな」

「あぁ、それならここに書いてあるよ、『女王は魔法を行使する際に、側近の力を借りることがある。力は杖に宿り、それを女王が行使する』ってね」

「じゃーレンのお家の本だと紫だけど、こっちの真斗くんの方はオレンジなのはその時使ってる魔法が違うってことか」


とりあえず杖の正体とそれの登場するストーリーは判明した。4人はそのまま大国家ミューザに関する資料を読み漁り始めた。
もともと読書の嫌いでない人の集まりなせいか、その後じぃが呼びに来る午後2時過ぎまで4人は書物を読みふけっていた。


その後軽く食事を頂いて、自分が読んだ内容の付きあわせを行った。


「どうやら、私とレンで読んだ方が女王に関する記述は多かったようですね」

「そうだね。女王と対になる巫女という女性についてはろくな記述がなかったけれど…」

「それは俺と白崎で読んでいた方に良く載っていたな」


まとめましょうか、とトキヤがルーズリーフとシャーペンを用意し、まずは巫女についてを聴きだした。


「俺の読んだ書物では、ミューザを政治で治めている女王と、神に仕えることで治めている巫女が居たとあった」

「そこまでは同じだね」

「巫女は"榊"と呼ばれる宝具を用い、神々に豊作や幸運を祈り、魔物を退けることで国を守っていた。」

「女王と巫女の仲が良い代程栄えていたらしいよ。ただ、最後の代で、巫女は自分の近衛と恋に落ちた。それを皮切りに女王と巫女にアプローチする男性が増えて、大変なことになったって…これはあんまり関係ないか…」


心躍る話だね、とレンがわくわくしていたので膝をサワサワ触ってくすぐっておいた。トキヤにジト目で睨まれ大人しくなった涙目のレンが


「で、もしかして最後の代の巫女は、魔物たちを封じるために亡くなった、でお話はおわりかな?」


真斗と早苗がしっかりと頷くのを見て、今度はレンが話し始めた。


「最後の女王は学術・芸術に秀で、魔術も行使し、政治と軍事の両面で国を守っていた。幾人かの近衛に恋心を寄せられながら、彼らの魔力を借りて、国の平和を一番に考える人だった」


早苗は緑茶をすすりながら、素敵な人ねと呟いた。


「ところがある日、国に魔物が満ちてしまった。それを封じるために巫女は魂を投げ出した。少し後、封じたはずの魔物とは別の闇の生き物が巫女の体から出て来て国を荒らしはじめた。」


---- 来ちゃ駄目です!


頭の中に、あの女の子の声が聞こえた。必死に早苗が自分に近づかないようにしている。


---- 私一人で大丈夫なんです!だから……くんを、…守って…

---- ゴメンナサイ…私のせいで……あなたまで…


「女王はその新たな魔物を封じるため、国中に大きな魔法をかけた。彼女は自分自身と着いて行くと誓った近衛や街人の魂にその魔物たちを封じ込めたんだ」


レンが話し終えると、早苗はふっと帰ってきたような感覚に囚われた。先程まで夢でも見ていたような感じで、右の頬に流れた涙もどこか自分のものではないように感じた。

机を挟んで向かいに座っていたレンが一番に気づいて目を見開き驚いた顔をさせてしまった。慌てて涙を拭おうとすれば、それより早くレンの指先が涙を掬っていく。


「大丈夫、ハニー…?今日は魔法を使ったからなんて言い訳は出来ないよ」


レンは自分も辛そうな顔をしながら、しっかりとこちらの目を見てきて、少し緊張する。


「レン、手を引きなさい。女性に対して失礼ですよ」


---- お止めなさい。女王陛下に対して失礼ですよ。


(あぁ、まただ。)


早苗は雪山でレンに感じたのと同じ、あの懐かしいようなそれでいて変だと思わせる違和感をたった今トキヤに感じてしまった。


「泣いている女性を放っておく方が、よっぽど失礼だと思うけど」

「だからと言って、いきなり頬に触れるのは無礼ですよ」


早苗は慌てて大丈夫だよといってレンの手を握ってそっと引かせるとトキヤも満足そうに微笑んだ。


「ここまでで、その杖を持っていた女王のことは分かりました。個人的には"巫女の榊"も是非探してみたいところですね」

「女王の杖があったのが雪山、となると…当時のワープ技術などを考え巫女が封印を行った土地は…恐らくここ、惑星リリーパだな」


惑星の名前を聞いて、レンもトキヤも、もちろん早苗も嫌な顔をしてみせた。先日の黒い人影が居た場所だ。
結局、雪山で連絡途絶していたアークスは発見できていない。それもこの嫌な感じに拍車をかけているに違いないなと早苗は思う。


「分かりました、さっそく明日、リリーパに出れそうなクエストを受けてみましょう」


レンと真斗は既に蘭丸に頼まれた別の仕事が入っているということで、明日はまだ開いているというトキヤと、元々オフ予定に決めていた早苗は早速向かってみることにした。




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