その晩、また早苗は夢を見た。疲れて深く眠っているはずなのに、夢の内容はしっかりと頭に残っていた。


自分と春歌が居た。
二人は祭壇のような、玉座のようなところに二人で腰掛けていた。自分はその国を治める女王で、春歌はその国の巫女だった。
二人にはとても優秀な家来たちが居て、3人の騎士と2人の弓師、1人の魔導師、そして4人の補佐官たちだ。

とても平和な国だった。

ある時、国の穢れを春歌が祓いきれなくなった。国は魔物で溢れ、疫病がはやり、悪天候からくる作物の不作、飢餓と貧困に国は悩まされた。

全ての魔物と不幸を封じるためには、巫女の力だけでは足りず、女王も手をかすことにした。
二人の魂によって国は浄化され、汚れた二人の魂は4人の補佐官たちによって浄化され、輪廻転生の輪に加わった。



「行かないで…」


早苗は呟いた自分の寝言で目を覚ました。とりあえず、何が行かないでなのかは分からないけれど、目尻に溜まっていた涙がとても悲しい夢であったように思わせる。

とりあえずもぞもぞと起きだすといつもの"朝はあっさりアサリの味噌汁"を作り、炊いておいたご飯を温めて中華飯を作り、珍しくしっかりした朝ごはんを食べた。
こういうオカルトちっくなことを相談するのに最適な人を頭の中で探してみる。


「やっぱりアイツかなぁ…やだなぁ…」


早苗は嫌だなを連呼しながら、研究施設へと足を向けた。



無機質な色合いの建物内に観葉植物が並んでいる。研究施設が苦手というわけでは無いけれど、どうしても、こう、気負ってしまうので得意ではない。


「オマタセシマシタ」

「あぁ、セッシー、ごめんね、呼び出して」

「いえ、アナタの頼みであれば、いつでも良い」


愛島セシル。同期の研究員。右の肩にはいつも黒猫が乗っている。いわゆる、そう、電波系だと早苗は認識している。が、その分、こういった話をするのには最適なはずだ。


「変な夢を見たと、聞きました」

「そうなの。ざっくり内容話すから、似たような伝承とか聞いたことないか、教えてほしい」


一通り話し終えると、セシルは満足そうに笑った。どうやら久々に興味のある話に出会えたようで、ニンマリと猫ともども微笑んでいる。


「おそらくですが、"女王"と"巫女"が深く関係する点に着目するのであれば、"アークス創設記"を読んでみると良いです」

「"アークス創設記"?あの分厚い本?」

「はい、序章と前書きだけで大丈夫」


読むのが面倒なことを顔をいっぱいに使ってアピールすると、セシルはまた楽しそうに笑って歌うように語り出した。


「我らが祖国ミューザ、女王、巫女の幸運を賜りし、幸せの国。彼の者、風と共に立ち寄りし時、闇の使者を招き入れる。使者は、女王、巫女を魂吸い、国は闇に落ちた」

「それって…」

「アークス創設記の冒頭、序章の文章です」


相談する相手は正しかったようだ。セシルは早苗の反応が嬉しかったのか、内容としてはこれが一番近いだろうと言い、もしよければ図書室に行くと良いと言い残した。
どうもこの前、藍から受け取った遺物の調査があるそうだ。
早苗は一人たちあがると、図書室でアークス創設記を借り、明日の任務をクエストカウンターで確認してから自室へと戻った。



Chapter.05 そっとあの日を夢に見て END




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