倒れこんだ白崎さんを抱きかかえた美風さんは、
とても大切な、小さい頃からの宝物を扱うように
彼女をそっと抱きしめていました。
その姿はまるで眠り姫と王子のようで、
私は正直焦りを覚えました。


「大丈夫、気を失ってるだけ。
 あんな膨大なフォトンを同時に操ったんだ
 気を失うくらいするさ…」


同時に駆け寄ったレンも同じ様につらそうな顔をしていて、
動くことも出来なかった自分を強く責めてしまう。

ヴォルドラゴンの時も、自分から彼女を危険へと導いた。
今回も都市伝説を目撃した話で彼女を怯えさせた。

こんな自分が、彼女の側に居て良いわけがない。

無力さに白崎さんから視線を逸らすと、翔と目があった。
彼もまた酷くつらそうな顔をしていて、
普段の明るく快活な翔とは似ても似つかない。


「早苗は、大丈夫なのか?」

「とりあえず、キャンプシップへ戻ろう。
 後輩ちゃんも休ませてあげなくちゃね」


寿さんの一言で全員がキャンプシップへと向かう。
その時も白崎さんを運ぶのは自分や翔ではなくて
レンと美風さんで…。

彼女が美風さんのことをとても信頼していることは
同じSクラスで一年間研修をうけた中で知っている。

その中でも彼女は美風さんによく懐き、
彼の指導でぐんぐんと力を伸ばしていた。
また美風さんも優秀な彼女を目にかけて世話をやいていた。

そして、隣のクラスで彼女に憧れの目を向けていた
翔のことも知っていた。良いセンスの持ち主だった。

白崎さんのことをこんなにも知っているのは、
自分が彼女を恋しく思っているからだと気づいたのは
恐らく修了試験が近づいてきた秋の頃。


『トキヤー、試験のペア決めた?』

『いいえ、お誘いもあったのですが、
 如何せん成績の縛りがきついので、なかなか組めていません』

『上下に25位までだもんね。
 トキヤの場合下に25人しか候補が居ないんだもん、大変そう…』


あの時、私はあなたから誘われるのを待っているのですよ、とか
私とペアを組んでみませんか、と声に出せなかったのは何故だろう。

その日の放課後。


『なぁトキヤ、白崎って今居るか?』

『えぇ、用事なら呼びますが』

『いや、その、アイツって確か、学年順位2位だったよな』

『はい。…まさか翔も…?』

『じゃ、やっぱり組めないか…』


悔しそうに、けれど明るく笑った彼は
彼女がアークスになる夢を叶えられれば良いのだと、笑っていた。


彼のように素直に彼女の幸せを願えないまま、
恋人同志という噂を流され、彼女を傷つけ。

そして今もまた、救いに行くことも出来ないままで。

自分は一体彼女に何をしてあげられるのだろう。

ようやくキャンプシップへ向かって踏み出したその一歩は、
とてつもなく重たかった。

幕間、END




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