【幕間:我が姫に、Dolceなキスを】
※藍視点

「急々如律令!」


唱えた瞬間、早苗の体は少しだけ浮いた。
他のジョブの連中は分からないかもしれないけれど、
彼女の周囲に集まり吸収されていくフォトンの濃度は
とんでもなく濃い。
純度が高く、けれどもサラサラと流れるそのフォトンは、
黄金水のようで触れることも躊躇われるほどに美しい。

まるで彼女本人のようだ。

早苗の回りには、フォトンが代文字を描いて
クリスマスツリーを飾るリースのように浮いている。
その文字もライン上をまわっており、
日本という国の神に仕える女性、"巫女"のように見えた。


「早苗…」


美しくてずっと見ていたいのに、
それでもどこか遠くに行ってしまいそうなのが怖くて、
思わず手を伸ばした。

その瞬間、魔法の発動が停止し、
早苗はまた地面へと戻ってきた。
けれど、無茶なフォトンの使い方をしたせいか、
意識が無くそのままボクの腕の中に倒れてきた。


「早苗っ」


早苗を挟んでボクの反対側にいたレンも
普段からは想像も出来ないような必死な顔で倒れた彼女を覗きこんでくる。

あぁ、そうか。

レンにとっても、彼女はとても大切な人で、守りたいと思う人で。
だから彼女に何の躊躇いも無く近づけた砂月のことを苦手にしていた。

だから、七海春歌の記憶を取り戻す協力をした。

全ては早苗の手助けをするために、早苗の側に居るために。


「大丈夫、気を失ってるだけ。
 あんな膨大なフォトンを同時に操ったんだ
 気を失うくらいするさ…」


ひとまずキャンプシップへ戻ろうという嶺二の言葉に
周囲に少しだけ残っていたダーカーを倒していた
真斗と音也も戻ってきて、テレポーターから帰還した。

目を覚まさない早苗をボクとレンで運ぶ。
ボクたちの手つきは、本当にガラスの人形を扱うそれで、
お互いに、お互いが早苗を大切に思っていることに気づいていた。

もちろん、負ける気は無いけどね。


幕間、END




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