「笑わずに聞いていただきたいのです」


そんな出だしだった春歌の話をきっかけに、
早苗、レン、トキヤ、藍、嶺二の5人と、その補助に呼び出された
翔、那月、音也、真斗、友千香はキャンプシップで丸くなって座っていた。

昨日、龍族の長ヴォルドラゴンの暴走をどうにか食い止めることに成功した
早苗、藍、レン、トキヤの4人は、その後報道陣から逃れるために
一晩は自室に戻らずにアークスの施設に寝泊まった。

どうも本人たちの知らないところで大きな外交問題にまで発展しており、
この騒動が上手く収まらなければ龍族との全面戦争になりかねないほど、
話は大きくなってしまっていたようだった。


「んで、もうちょっと細かく話してもらわないと、
 あたしたちサーッパリ事情が分からないわよ」


補助組の意見をまとめましたと言わんばかりの勢いで、
友千香がジュースパックを握りしめて言う。


「僕達だって、全部分かったわけじゃないんだよ。
 でも、こっちの5人だけ知ってるっていうのも嫌だろうから…
 アイアイ、話しちゃって!」


嶺二の盛大なリアクションのせいで背中を
バシバシと叩かれた藍は痛いのかちょっぴり涙を浮かべながら
仕方ないなまったく、とでも言いたげな顔で、それでもしっかり
座りなおして話し始めた。


「まず、修了試験から話したほうがいいよね。
 早苗と翔のペアと音也・真斗のペアが、記憶喪失の少女を保護した話は聞いてると思う。
 話はそこから始まっている」

「まってまって、それってあの時の女の子だよね?七海春歌ちゃん、だったっけ?」

「一十木、先輩の話の腰を折るでない。
 失礼しました美風先輩、質問は話の最後にまとめてさせますので」

「ありがとう。蘭丸の言っていた通り、
 気持ち悪いくらいに礼儀正しいよね真斗って」

「お褒めに預かり光

「褒めてないから」


藍は盛大なため息を1つついてドリンクを口にすると、
今度こそ誰にも邪魔させないという顔で再開した。


「で、その春歌の記憶を取り戻すために、早苗やレン、トキヤが行動していた。
 そんな中で、アムドゥスキアの凶暴化龍族鎮圧の際に手に入れた
 "とある杖"を見て、春歌が砂漠の奥へ進んでほしいと言い出した。
 総帥であるシャイニング早乙女はこれを重要な事項ととらえ、
 新人アークスの特訓も兼ねて出動させた。OK?」

「つまり、七海のお願いを叶えてあげようってことだよね!」


音也よ、それは説明した意味が無い。
いっそ手持ちのハリセンで叩いてやりたい気もしたが、
その手をぐっとこらえてスポドリを喉に流し込んだ。

新人アークスの特訓って何考えてるんだろう、シャイニー。
こんな大所帯でどう探索しろというのか。

そもそもアークスにはペア制度があり、
修了試験のようにペアで任務に臨み、万が一の事態に備えるのが常で、
ソロ活動というのは珍しい。
そしてそのペアを2つ合わせてパーティ、
パーティが4つあつまるとマルチと呼ばれるらしい。

この場に居るのは10人で、どう分散するのかも不明だ。
企画だけして運営しないあたりが流石シャイニングだとも思う。


「ということでー嶺ちゃんがペア決め用のおみくじ作って来ましたー!」

「さっすが嶺ちゃん!かっこいい!」


音也よ、これの一体どこがかっこういいのだ、ただのヘタレだぞ。
そう突っ込みたい右拳を握りしめ、早苗はくじの詳細を聞いた。


「同じ色が出たらペアな感じですか?」


嶺二が持っている15cmくらいの紐の束の先端は
カラフルに色が塗られている。お手製なのか若干塗りが雑だ。


「そゆこと、後輩ちゃんの言う通り。ってことで……はい、引いてちょ!」


レディーファーストとか言い出した音也のせいで、友千香、早苗の順に引く。
友千香はピンク、早苗は水色だ。

続いて、音也が赤、真斗が青、那月が黄色と、それぞれの
トレードカラーのような色を引いていく。

早苗は、皆が引いた色を見ながらメモをしていた藍の手元を覗きこんだ。
というか、覗こうとしたら見せてくれた。案外優しい。

┌───────────────────────┐
│**/** ペア(惑星リリーパ 砂漠)
│桃・友千香、翔
│水・早苗、
│赤・音也、嶺二
│青・真斗、トキヤ
│黄・那月、


「あぁ・・・・」


最後から2番目に引いたレンがガックリと肩を落とした。
何事かと手元を見ると、黄色に塗られた紐が握られている。

無表情で藍はメモを書き足した


┌───────────────────────┐
│**/** ペア(惑星リリーパ 砂漠)
│桃・友千香、翔
│水・早苗、藍
│赤・音也、嶺二
│青・真斗、トキヤ
│黄・那月、レン
└───────────────────────┘






キャンプシップから転送装置の水面に飛び込み、
惑星リリーパへと降り立った早苗は、


「ぉいこら、オレの先を進むとはいい度胸だなぁ…」


怯えていた。


道は最初直ぐに3つに別れ、赤と桃のペアが右に、
青のペアが正面に、水色と黄色のペアが左に進んできたのだが。


「何ボサっとしてやがる、ダーカーが居るんだぞ、撃てよ」


眼鏡を外し、無表情というか"不敵な笑み"と呼ばれるのはコレか!
と思わせる素敵な笑顔で、四ノ宮那月----否、四ノ宮砂月は
ナハトと呼ばれる黒に赤いラインが入ったような銃を両手に、
楽しそうにダーカーたちを撃っていた。


「H10ミズーリT/ナハト レア度は星7、
 なんでアイツあんな武器持っているの?」

「アイミー!そんな考察してないでシノミーを
 どうにか止めることに専念すべきだと思うけどな」

「砂月に怯えて岩陰に居る人に言われたくないよ」


4人は、砂月を先頭にサクサクと敵を倒してすすむ。


「ところで、藍先輩。双機銃なんて射撃職は使えるんでしたっけ?」

「いや、あれはレンジャーの上位職、ガンナー。
 双機銃を扱えるジョブはガンナーだけだよ」


射撃職については詳しくない、
というか自分の職業以外にあまり興味がない早苗は
砂月に聞こえなさそうな声量で藍に問いかけた。

ところが、そこで先頭を歩いていた砂月がクルりと振り向き、
ずいずいとこちらに近寄ってきた。
息がかかる程顔を近づけられて


「てめぇ、オレに興味があるのか?」

「は?なんでそうなった!?」

「いいぜ、来いよ。たっぷりその体にオレのこと教えてやる」

「待て!だから何でそうなった!?…楽しそうに武器を構えるな!!」


そのまま肩を組まれ彼に半分担がれるようにして歩くと、
つま先がなんとか地面につき、ヨタヨタと付いていく。
確か那月の身長が180ちょっとのはずだ。
平均身長の早苗との身長差は20cm近くなるわけで…


「待って砂月くん!足つかない!首しまる!!」

「ぁぁん?気合でどうにかしろ」


横暴だと叫びたくても、酸素が足りない。
早苗は諦めて、砂月に引きずられるように砂漠の奥へ奥へと進んでいった。



少し右へカーブする緩やかな道を進んでいく。
砂漠に生息しているダーカーたちや
機甲種と呼ばれる機械仕掛けの兵器を倒しつつ進む。
といっても、右手で早苗を抱えたままの砂月がほとんど倒してしまい、
藍はその砂月の補助、レンにいたっては付いてくるだけの状態だ。
余程砂月が苦手なのだろうか?

周囲は砂漠というだけあって、火山洞窟ほどでは無いにしろ
直射日光で暑いし、砂埃が酷い。

藍がゴーグルをつけていたのでジーっと見ていると
やっぱり持ってないんだね、とちょっと手荒に付けてくれた。


「おい、分かれ道だ。どっちに行くのか決まってるのか?」


砂月の言葉に立ち止まり砂嵐の間から前方を見ようとしていると、
風は大分弱まり、視界が徐々に開けてきた。

目の前には十字路で、全てを調べて回ることは出来ない。
早苗はペア制度って厄介だと初めて思った。


「進むなら、2つに絞って進まないと行けないね。
 アイミー、どうするんだい?
 この砂嵐じゃぁ、他のパーティとも連絡は取れないよね?」


レンに言われて、藍が再び通信機をいじり始める。
インカムタイプのそれに手を当てて、ダイヤルやボタンをカチカチするも、
駄目だと言うように首を横に振った。


「とりあえず、この道がどこに続いてるか分からない。
 もしかしたら他のメンバーがここに来るかもしれない。
 だから少しだけ待ってみよう。」


藍はそう言うと適当な大岩に背を預けて座り、
ロッドを膝に乗せると、こちらを見上げて自らの隣をポンポンと叩いた。
早苗はおとなしく従おうと一歩足を前に出すと、


「おい、てめぇ逃げるのか?」

「ぐえっ」


首が締まった。
砂月の想像以上に逞しい腕がおもいっきり首を締めて
藍のとなりに向かうことを阻止している。


「なんで砂月くんはそんなに私に執着するのさ」

「那月がお前を大事に思ってるからだ」

「はぁ?」


それにお前は関係ねぇだろ、と思いつつも、
那月は確かにガラスのハートしてそうだなとも思ってしまい、
結局藍のところへは向かわせてもらえなかった。


しばらくすると、自分たちのやってきた道の反対側から、
赤い頭がひょこひょこと走ってきた。
赤色の戦闘服に扱いやすい大剣を背負った音也が、
こちらに手を振りながら歩いてきた。
こちらの姿を認めてからソワソワしていたのか、
そのうち耐え切れなくなって走ってこちらにやってくる。


「早苗!それにレンたちも!道、繋がってたみたいだね」


自分を捕まえている砂月を指さして


「何で?おどろかないの?」

「だって研修のクラスメイトだもん!
 研修期間中に嫌ってほど見てるよ、ね!」


音也にキラキラと微笑まれた砂月は面白くなさそうに舌打ちすると、
握っていた早苗の手を離すまいとより一層握ってきた。
こいつ、純粋に寂しがり屋なだけかもしれないなと、
将来自分に息子が出来たりしたらこんな気持ちかなと思い、
目一杯背伸びをして砂月の頭をポンポンと撫でてやった。

砂月はちらりとこちらを見たものの、
嫌がる風も見せずにされるがままになっていた。
オレサマ気質なゴールデンレトリバーのようで可愛い。


「良かった、後輩ちゃんたちと合流出来て。
 ここって大型のダーカーも出るからさ、心配だったんだよね」

「嶺ちゃん先輩、心配するなら青組を心配してください、
 私達と違ってペア2人っきりなんですから!」


嶺二、翔、友千香もやってきて、青組の二人を残して全員が合流したことになる。
本当に大型のダーカーに出くわしてしまったのであれば、
青組が一番困ったことになるだろう。


「あの二人なら大丈夫だよ、トッキーもマサヤンも
 めちゃくちゃ強いから。」

「嶺二、それ本気?
 聖川真斗、研修生の総合順位55位、ジョブ内ランクは20位。
 一ノ瀬トキヤは学年トップだったから良いとしても
 真斗の方は心配だよ」

「アイアイったら相変わらず厳しいなぁ、もう」

嶺二はプクっと頬をふくらませ、どこから取り出したのか
マラカスをシャカシャカしながら続けた。


「マサヤンはね、ジグさんっていう武器職人のおじいちゃんから
 イクタチを授けられるほどには、腕あげてるんだよ?」


友千香と翔も嶺二の後ろで目を丸くした。
砂月はちょっと関心したように「ほぅ」と笑い、
一人訳がわかっていないのか音也はニコニコしているだけだ。

そんな音也の様子を見かねたのか、砂月から離れていたレンが
こちらにやってきて、砂月と反対側から早苗の肩を抱き、
イクタチについては任せをと言わんばかりに話しだした。


「イクタチ。圧倒的な年を重ねた樹木の幹を用い、
 長い時間を掛けてフォトンをなじませた珠玉の名刀。
 日本神話に登場する刀から名前をもらっていて、
 見た目は…まぁただの木なんだけど、
 フォトン感応力が高く、その分とても扱いにくい。」

「もしかして、マサってすっごい武器使ってるの!?」

「そういうことになるわね…マサヤン、そんな凄い子だったの…」


赤と桃のパーティはリアクションが良いコントな面子のせいか、
レンの話から脱線しまくりながら盛り上がり始めてしまった。
早苗は大男二人に挟まれて、あっちに混ざりたいと心から願った。




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