お名前変換




そのためには、まず自分が落ち着くことが先決だ。
早苗はそう思いゼウスに礼を言って退室すると、背後からトトもやってきているのに気がついた。気づいたが特に何を話しかければ良いかも分からず、そのまま保健室へと戻る。トトも入ってきたことは分かったが、早苗はトキの使い魔であるトッキーを抱きしめると、ソファに倒れこんだ。


「早苗」


呼びかけに答えることも出来ず、少し迷惑そうな顔をしているトッキーを抱きしめる。ゼウスの手前、気丈に振る舞わなくてはと思っていたが、いざ明日の午後には死ぬのだと分かると、恐怖で手足は動かなかった。
箱庭に突然呼び出されて、やったこともない教師になれと言われ、そんな中で常に最善だと思う行動をとってきたのに、その全てが無駄だったのだ。


「貴様は、人類が滅ぶと聞いて嘆いているのか」

「違い、ます。ただ、自分の力が及ばなかったことと、お別れが辛いだけです。」


その言葉に、トッキーが擦り寄ってくる。頭の良いトッキーには人間の心も理解出来たのかもしれない。
ソファに崩れ落ちたままで居ると、ソファの空いている部分にトトが腰掛けたのか隣が少し沈んだ。ろくに会話もしていないのに帰ってしまわないことに違和感を感じていると、早苗の頭にポンと手が乗った。


「大丈夫です、もう少ししたら、動きます」

「…好きにしろ」


結局トトの手は早苗が動き出すまで頭にのったままで、早苗は幾分エネルギーを与えられたような気がして、トッキーを伴い結衣の居る女子寮へと足を運んだ。流石にトトは図書室に戻ってしまったが、去り際に「頼んだぞ」とトッキーの頭を撫でていた。

女子寮の前につくまでに結衣にどういった説明をすれば良いかは検討がついたが、励まして穏やかな心で消えていけるようにスべきなのか、はたまた残り時間で何か行動を起こせば良いのか。結論は出ないままで扉をノックした。


「はい」

「草薙さん、矢坂です。少しいいですか?」


名乗った途端、部屋のなかからドタバタという音が聞こえ、紙の束が落ちるような音が聞こえ、最後に痛い!という悲鳴が聞こえてから扉が開いた。少し涙目になっている結衣は早苗を見ると半身で避けて部屋に招き入れてくれる。
座ってくださいと言われた机の上には、黄色と白の布で作られた人形がいた。左胸のあたりにハートマークが縫い付けられており可愛らしい。


「あれ、草薙さん、これは…」

「お前さん、矢坂早苗だな!保健室の先生なんだってな!」


気前の良さそうな喋り方で口を開いた人形に、早苗は一瞬目を丸くした。が、すぐにここは箱庭であることを思いだし、何が起きてもおかしくないなと気を取り直した。


「えっと、私は矢坂早苗です。お名前を伺っても?」

「オレはメリッサだ!くたなぎの同居人だ。」

「メリッサさん。素敵な…格好良いお名前ですね。名は体を表すとはよく言ったものです」

「お前さん、何言ってやがる!照れるじゃねぇか、コノヤロウ!」


同居人であるらしい人形の好感を得ることに成功した早苗は、結衣の出してくれた緑茶に口をつけてふうっと1つ息をはいた。


「実は、人類を滅ぼすことが決定したそうです」

「え?」


結衣から聞かされたきょとんというに相応しい声は、先ほど早苗が零したものとは全く違っていた。早苗のように現状をさっと飲み込めたわけではないその様子に、早苗はゼウスの言葉を1から10まできちんと説明してやった。
最後まで聞いてまずは結衣がそんな馬鹿なというようなことを呟き、一緒になって真剣に聞いていたメリッサもまた困ったような顔を見せた。


「くたなぎ、矢坂、お前ぇさんたちは一体どうするんだ?」

「それは…でも、人類滅亡は避けられないんですよね?」

「ご存知の通り、神話の中では何回も人類は神様の手によって滅ぼされています。ですから、今回が特別ということはありません。でも、だからといって何もしないのは愚かだと思います」


言えば結衣は何か希望を見出したような目をしたが、次の瞬間にはすぐに萎れた花のようになってしまった。それから、何やらゴニョゴニョと神様には敵わないだとか、人間にできることなんて限られているなどと呟く。
ここにアポロンや尊のような者がいたら、もっと色々と言葉をかけてあげられたのだろう。そのことを少し申し訳なく思いながら、結衣にゆっくり考えようとだけ提案すると部屋を後にした。










第14話、終。








2014/07/08 今昔
アニメの結衣は監督が「強い女の子」として描いているそうなので、多分迷わず抗う方を選ぶんだろうなと思います。そして監督のコメントにEDは全部実在する場所なので是非聖地巡りを!って書いてあって吹き出したのも記憶に新しい…どなたか一緒に聖地巡りしましょう←
ということで、ロキのアニメ版キャラソンめっちゃ良い!次回、最終回。




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