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図書室でひたすら泣いた日から、少しだけトトが優しくなったような気がしていた。早苗に日直のような雑用を言いつけるのは変わらなかったが、宿題を回収して持っていけば褒められるし、時折夕食を一緒に摂らせてもらえることもあった。
ロキも月人も休み時間に教えを請われることはあったが、放課後は色々と察して「早く図書室行かなくて良いのォ?」と促してくれるようになった。クラス公認のようなものであることは少し恥ずかしいが、どうどうと会いにいけるのは嬉しい。
問題があるとすれば、


「別に付き合ってるわけじゃないんですよ…」

「えぇ!?そうなんですか!?」


早苗は結衣と二人で保健室のテーブルをはさみ、それぞれにパフェをつついていた。購買で貰ってきたパフェはコンビニにあるようなプラのケースに入ったもので、結衣は苺がたっぷりのったものだ。スプーンを口で運ぶ途中で叫んだので、中身はカップの中へ落ちてしまった。


「てっきり、お二人はもう付き合ってるか結婚しているものだと」

「結婚って…あのトト様がそういうこと言うと思います?」

「トト様だからこそというか、大事なものは他人の手が触れないようにしそうなイメージがあるので」


間違ってはいないと思う。アヌビスのことも同じ神話の神として、そして同僚として大事にしているからこそ面倒を見ているのだろう。では早苗はどうだろうか?
確かに困った時には助けてくれるし、抱きしめるだとかキスをするだとかいうことはした。けれど肝心の「好きだ」という言葉は言っていないし言われていない。


「そうねー、態度で何となく察しても、男ってよく分からないじゃない?」

「……矢坂先生って、なんというか、とても大人ですよね。特に恋愛に関して」

「痛い目けっこう見てるの!…前はロキさんみたいなタイプが好きで、色々あったんです。…結衣さんもお気をつけてって言っても、アポロンさんなら大丈夫だとは思いますが」


ちょっとからかうように言えば結衣はぽっと頬を染めて、誤魔化すように慌ててパフェを口に運んだ。若いなぁと年寄りじみたことを思いつつ、早苗もスプーンを口に入れる。運悪くクリームばかりすくってしまったようで甘ったるい。
早苗ももう少し前にここへ呼ばれていれば、無理だったり無謀だったりする恋に全力投球出来たのだろうか。今度はちゃんとフレークも一緒に食べると、程よい甘さのはずなのに、何故かほろ苦く感じた。







【14:世界の終わり】







結衣が寮へと帰っていったあと、早苗は一人でペンを走らせた。思いつきだったが、パフェのケースを使って箱庭にタイムカプセルを埋めようと思い立ったのだ。もちろん、開ける日は来ないが、それでもちょっとだけ学生のようなことをしてみたくなった。
神々に宛てた手紙、結衣への手紙。それからトトへの手紙。未来の自分への手紙。今思っていることを全部詰めるのは気恥ずかしかったが、どうぜ読まれることはない。ボールペンのインクがぐんぐん減るのを面白く思いながら思いを綴った。



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