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神様1つだけ、願いを叶えてはくれませんか。

そんなよくある言葉で本当に願い事が叶うとしたら、今のシャナは何を願うのだろうかと考えた。季節は既に冬。残りの神々の枷を外して欲しいと願うのか。はたまた別の何かを願うのか。
いっそのこと、想い人と結婚したいとでも願ったら、色んな悩みから解放されるのだろうか。もっとも、その想い人が神である場合に願い事が有効であるかどうかが問題だ。
シャナは絶望とも諦めともとれる感情を抱いて、ベッドにダイブした。





【 13:愛の烙印 】





翌朝、重たい体を必死に起こして着替えをし朝食を摂る。顔を洗っている時に気づいたのだが、どうも首筋に跡が残っている。幸いにも昨日から制服で過ごすことになったため隠れるが、この絶妙な位置には悪意さえ感じる。
そして教室での両隣は、真面目だからこそ観察力の高い月人と、悪戯のために周囲をよく見ているロキだ。気づかれないだろうかという不安もある。ファンデーションやファンデーションの入ったベースで隠せるだろうか。
制服で化粧をするという細やかな罪悪感を押し殺して化粧をし、首元の跡をどうにか隠す。ネクタイをしっかりと締めたら問題なさそうだ。


「さて、それじゃぁ行って来ます。後のことはお願いしますね」


トキの使い魔であるトッキーたちに声をかけて、シャナは鞄片手に保健室を出た。昨日の今日でトトに会うのが気まずくないと言ったら嘘になるが、授業をさぼりたくはないし、休んでしまえばそれこそ何があったのかと他の神々に疑われてしまう。

全身が痛い。恋人でもなんでもないのに、容赦がなさすぎやしないだろうか。それともただ気まぐれだったからこそ、荒っぽかったのだろうか。…それとも、処女でないとバレて嫌がられたのだろうか。
遠足の時に感じた今この箱庭には居ない人間の男の顔を思い出し、シャナはイライラとしながら教室の扉を開いた。


「矢坂先生!ご無事でしたか!!」

「あ、えっっと、草薙さん、お早うございます」

「あの後矢坂先生戻ってこなくって、トト様も何も言わないし意味深に笑われるしディオニュソスさんには『気づかなくてもいい』とか言われるし、本当に大丈夫ですか!?」


教室に入った途端、息を継ぐ間もなく言った結衣に、シャナは目を白黒させた。どうやら何が起きたのか察していたらしいディオニュソスが、妙な言い方をして結衣を炊きつけてしまったらしい。視界の隅っこで頭をかいているディオニュソスが見える。
完全に「犯罪に巻き込まれた娘を持つ母」のようになっている結衣を、いかにして収めるか。シャナはアポロンを手招きすると、彼にこそっと耳打ちをした。


「草薙さんに何があったのか教えてあげてください」

「大丈夫だよ、妖精さん。昨日の先生に何があったかは、僕が責任を持って丁寧に、丁寧に教えてあげるからね!」

「「「!?」」」


バルドルとロキ、ディオニュソスが愕然とした表情でこちらを見たが、知ったことではない。結衣だって高校3年生になる年なのだから、そのくらい経験したって問題ないはずだ。シャナは無理に納得すると二人に微笑みかけた。


その日もロキも月人も昨日と同じように話しかけてきてくれたが、トトの機嫌が異様に悪くなるということはおきなかった。自分のものだと認識したら少し安心できるなどとても人間らしい…などと言えば怒られるので言わなかったが、この一年で変化しているのは何も生徒だけではない。
もちろん、シャナとて様々な考え方が変わったと自覚している。神話について学ぶうち、その国の古い情勢が見えてくる。その国が他国を蹴落として上へ行くのか、自分たちの神を持ち上げて持ち上げて上へ行くのか。神話には国民性がよく現れているのだ。



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