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バルドルが窘めてくれるもののロキはとことん気に食わないようで、アヌビスの弁当箱からタコさんウインナーを1つ奪っていく。


「ほら矢坂先生も、マアトにだけ作っているのには理由があるんでしょう?」

「えっと、はい…一応」

「それに先生が一番好きなのは誰?きちんと言わないと、ロキは引き下がってくれないと思うけどな」


アヌビスに弁当を作っているのはトトに面倒を見ろというようなことを言われたからで、早苗が一番男性として惹かれているのは…トトと答える他ない。ロキもとても魅力的だとは思うが、感じる好感は庇護欲でありあくまでも年下の男の子でしかない。


「駄ァ目!オレにもわけてよ!」

「バラバラ!!(だめー!これはアヌビスのお弁当!!…でも卵焼きなら少しあげる……)」


早苗がロキのお弁当依頼をどう回避するか考えていると、教室の扉がガラリと開いた。当然のようにお昼をとっていた全員の視線がそちらへと向く。視線が集中した先にはいつも以上に不機嫌そうに眉をひそめたトトがおり、早苗と目が合うと盛大に舌打ちした。


「矢坂、すぐに来い」

「は、い!」


ピシャっと稲妻か何かのような音を立てて閉められた扉に、教室の中は一瞬にして冷めきった。何を怒っているのか知らないが、神々が少し可哀想だ。早苗は食事の途中で抜けることを謝罪すると、慌ててトトの居るであろう廊下へ飛び出した。


「しっかり言わなくては駄目だからね!」


バルドルの声が後ろから聞こえたので、ひとつ手をあげて了解の意を伝える。
トトは少し教室から離れたところに居て、早苗が出てきたと気づくと図書室の方向へ歩き出してしまう。小走りに追いついて斜め後ろの位置で着いて行く。並んで歩かないようにするその位置に、トトの雰囲気が和らいだような気がした。

トトに続いて図書室に入り扉を閉め、室内に向き直ったところで、顔の真横にトトの腕が伸びてきた。耳が痛い程に扉が盛大な音をたてる。図書室の入り口横のカウンターとトトの腕に挟まれて、視線を逸そうにも逸らせずばっちりと目があってしまう。
トトは先ほどと同じく、いつもより不機嫌な顔で口を開いた。


「貴様は一体何をしている」

「わ…私の箱庭での任務は、神々に人間と愛について伝え、卒業へ導くことです」

「ほう?では何故あのように慣れ合う必要がある?」


何故そこまでトトが怒っているのかという疑問よりも、目の前で睨まれる恐怖が上回ってしまい、上手く口が動いてくれない。今すぐしゃがみこんで泣いてしまいたいが、それではトトにあまりにも失礼だと、早苗は足にぐっと力を入れた。そうしなければ本当に座って泣き出してしまいそうだった。


「枷の外れていない神々について、よりよく知る必要があると感じ、教室で共に学ぶことを決意しました。これも卒業のためです」

「…昼食を分け与えることも、か?」

「え?…いえ、あれはロキさんが勝手に言っていただけで、私は作るともなんとも


作るなんて言ってない、と言おうとすれば、顔の反対側にも手をつかれた。両サイドを塞がれて、早苗は顔を少しでもそむければ首が飛ぶのではないかと思った。


「愚かな貴様のために質問を変えてやろう。何故、あの場ですぐに断らなかった?あの餓鬼に好意でもあるのか?私にも好意をよせているのに?人間とはとんだ移り気な生き物だな、矮小で頭の悪い救いようのない生き物ということだな」

「いえ!まさか!ロキさんはただ教え子というだけです。アヌビスさんは確かに面倒を見なくてはと思っていますが…ロキさんにに恋愛感情などありえません!」


いつになく饒舌なトトに、驚きと申し訳無さとが合わさった恐怖が胸を支配していく。トトに嫌われたいわけではない。むしろ神々を卒業に導くことはトトやゼウスの最終目標であり、早苗はそれを叶えるために頑張っているのに。
何がどう気に食わなくてトトを怒らせてしまったのか、何か間違いをしてしまったのか。自分が今何を考えたいのかも分からなくなって、目尻に涙が伝うのが分かった

トトは早苗が泣いてしまったのを見ると一瞬躊躇う顔を見せ、それからすっと顔を寄せると触れるだけのキスをされた。触れただけですぐ離れ、けれど顔はまだ鼻がぶつかるような距離にある。
真っ青な瞳に覗きこまれて、早苗の全身がびくりと震えた。今までトトに対してここまでの恐怖を抱いたのは始めてだ。溢れる涙に、早苗は目をぎゅっと瞑った。


「泣くな。泣いて解決できる場面でもあるまい?」

「でも…一体私の何がトト様の気に障ったのかが分からないのです。学校の勉強というものも限界があります。私はずっと、トト様が教室で教えられないところを補おうと神々に接してきました。」

「…それはよく分かっている。」

「今回も、ロキさんたちの枷を外すヒントが欲しくて教室に来ました。人間は一緒に食事をすることで親睦が深まると言われています。だから神々とも…そう思っただけなのに、どうしてトト様は怒るんですか?どうしてロキさんが好きだなんて思うんですか。」


目の前で、トトが息を呑んだのが分かった。


「私は…私はトト様のことを……」


両側につかれていたトトの手が、早苗を壁から引き離すように背中に回される。そのまま苦しい程にキスをされ、舌で嬲られる。早苗はうっかり言いそうになった言葉の続きも言えないまま、その言葉への答えも聞けないままで、トトに体を任せた。
早苗の背後で、図書室の扉の鍵が閉められる音がした。














第12話、終。






2014/07/01 今昔
よくいただく感想が「トト様と大人な恋愛が楽しみ」とのことなんですが…大人ってどっち方面に大人を期待されているのでしょう……。エロ?それとも職場恋愛風?




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