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ロキは自分の腕の中で眠る早苗の額から髪の毛をどかしてやり、それからそこにキスをすると全身の疲労感に負けてベッドに身を任せた。まさか真面目で職務熱心な彼女がこちらの世界へ来ることを選んでくれるとは思っておらず、いっそ自分が人間の世界に行こうかとも思っていた。
もちろん弱い小さい人間は嫌いだったが、早苗のおかげで認識は改められつつあったし、自分を好いてくれている彼女が辛い思いをするくらいなら、神という肩書を捨ててついていこうと思ってしまったのだ。


「シャナ」


自分だけが呼ぶ愛称で彼女を呼び、掛布の下で一糸まとわぬ彼女の腰を撫でる。すると少し身じろぎし、早苗はロキの胸元へと擦り寄ってきた。この世界へ来てから何度も体を重ねたのに、何度見てもこの寝顔が愛しくて仕方がない。

イドゥンの林檎は人間である早苗にも作用し、彼女はここへ来てからの数年も年老いる様子はない。これでずっと一緒に居られると分かった時、ロキは避妊をやめた。もちろん早苗も承知のうえで、笑顔で「ロキの子供がほしい」と言ってくれた。
そもそも北欧神話の神と同じ半永久的な寿命を手に入れたとはいえ、早苗は人間だ。他の神話ならいざしらず、この世界で神と人間の間に子供が出来るかどうかは分からない。


「愛してる。二人の時間も楽しいケド、オレは…シャナがオレを愛してる形が欲しい」


なんて贅沢な願いなんだという自覚はある。それでも、人間の女性にとって「子供ができる」というのは大半が幸せなことだと箱庭で知ってしまった。もちろん、それは神であるロキにとっても同じで、愛する人との子供が生まれればとても嬉しい。
早苗に似て東洋風な顔立ちでも良いし、自分に似ても良い。出来れば自分のような悪戯好きではなくて、早苗に似て貪欲な知識欲を持った子の方が良いかもしれない。

そんなことを思っていると、ふと早苗の気配がいつもと違うことに気づいた。


「シャナ?」


人間と神は纏う雰囲気が違う。早苗の纏うその雰囲気というか空気というか、とにかく彼女の何かが確かに変化しているのだ。
もしかして、とロキは早苗の下腹部に手を添えた。彼女は人間であり、妊娠しやすい日しにくい日があるらしい。もちろんそのルールが完全に当てはまるわけでないと分かっているが、つい最近まで誘っても拒否していたということは、つまり今は絶好のチャンスだ。


「まさか、ね」


ロキはそのまさかが本当であることを祈りつつ、早苗をぎゅっと抱きしめると自分も眠りについた。
愛するひとが腕の中に居る幸せを噛み締めながら、新しい命を夢見る。とても満ち足りた夜だった。









FIN





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