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日本という国は確かに四季がはっきりしていて、地方によっては雪も降っていた。けれど国のある位置の関係で氷点下に気温が下がる地域はごく一部だった。
何が言いたいかと言うと、


「寒い!!!」

「えぇ〜、今日はまだあったかい方だと思うけどォ?」


卒業後、神々が元の世界へと戻る時、ロキは一番最初に北欧神話組が帰ると宣言した。そして早苗の手を引いて行こうとするものだから、その時まで何も知らされていなかったバルドルとトール以外の神々は、たいそう焦って声をあげた。
特に尊に至っては「やっぱりあにぃの方が先生に相応しい…」などと言って泣きだしたほどだった。月人は早苗が託したウーサーを抱いて「体に気を付けて、お幸せに」と言うと、北欧組に早く行くようにと言った。
もう二度と会えないかもしれない神々と結衣に目一杯の笑顔でお礼を言うと、全員の笑顔を胸に刻んで、早苗は北欧神話の世界へとやってきたのだった。


「故郷に比べたら寒いの。…もっとこっち来て」


こちらの世界へ返ってくると同時に神の姿に戻ったロキは、相変わらず小悪魔的で露出の多い寒そうな服装だ。寒くないのは彼が炎の神だからだろうか。
早苗はロキが用意してくれた服に箱庭から持ってきた白衣を重ね着しているものの、肌寒さを感じてロキにすりよった。ロキは後ろから早苗を抱きしめて、楽しそうに鼻歌を歌っている。


「今日はバルドルさんたちも一緒なんでしょ?ずっとくっついてるわけにもいかないから、上着がほしい…」

「…ねぇ、シャナってオレたちのことなんて呼んでる?」

「ん?ロキさん、バルドルさん、トールさん」

「駄目ェ〜。オレ以外はいいけど、オレに『さん』付け禁止ィ!」


言うとロキは早苗の脇から腕を回して腰を引き寄せると、あまり精神衛生上よろしくない体勢で抱きしめてくる。更に首筋に顔を埋めるようにして、ロキは耳元で囁いた。


「クリスマスの時みたいに、呼び捨てしてくれなくちゃヤダァ」

「え、今更!?」

「今更でも駄目なものは駄目なの!他の二人と同じ呼び方とか絶対嫌」

「ひぁっ!」


耳たぶをパクリと甘咬みされ、早苗は弓なりに背中を反らせた。それでもロキの腕から逃げ出そうとは思わないのだから、相当な末期症状だ。
呼ぶまで離してあげないと言い張るロキに微妙な抵抗を続けていると、雪の上をソリが走る音が聞こえてきた。ソリは二人のすぐ側で止まると、ソリからバルドルとトールが降りてきた。
二人もこの世界に帰ってくると同時に神の姿へと戻っており、バルドルは白い髪の毛に白い服、トールも髪色こそ変わらないものの服装が変わっていた。


「あれ、駄目だよロキ。あんまり早苗さんをいじめたら…わたしが横から取ってしまうからね?」

「あ、二人とももう来たの?もうちょっと空気を読んで遅く来てくれてもよかったのにィ」


ぶーぶーと唇を尖らせながらも離す様子の無いロキのことは諦め、苦笑いのままで早苗はトールとバルドルに顔をむけた。


「こんにちは、バルドルさんトールさん。この子、どうにかなりません?」

「二人に助け求めるのは反則!っていうか、呼び捨てにするくらいしてくれればいいジャン!」

「今更恥ずかしくて無理!」


まだ文句を言い足りないらしいロキに早苗が言い返せば、バルドルは嬉しそうな笑顔を見せた。


「あぁ、そういうことなんだね。じゃぁわたしたちのことも呼び捨てにしてくれたら、不公平感がなくて良いんじゃないかな?」

「……そうだな、俺もそれを提案しよう」

「ちょっとぉ、二人とも!!」


言い合いをはじめてしまったロキの腕から逃れると、終わりそうにないなと言うトールと苦笑いをかわす。そして頃合いを見計らってロキの腕を引くと、ソリを指さして言った。


「ほら、早く行こう?本物のオーロラ見せてくれるんでしょ、ロキ」

「っ〜〜!! 行く!」


すっかり機嫌をよくしたロキは、ソリでも早苗を膝に乗せたがり、わたしも呼び捨てにと言い始めたバルドルに文句を言い、便乗してくるトールにちょっかいを出し、そして最後には早苗の頭を優しく撫でてくれる。
そんな細やかな幸せを噛み締めながら、早苗は生まれてはじめて見る本物のオーロラに思いを馳せた。

願わくば、彼の幸せのため、永久に共にあれますように。









【 Bambina 】







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