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※ ロキ残留END





【15:恋愛END2「Bambina」】






矢坂早苗はその日も朝早めに目を覚まし、そしていつものように窓を開け放って驚愕した。


「すごーい、雪積もってるー!!」


比較的日本に近い季節の流れ方をしていると思っていたが、まさか豪雪地帯になるとは思ってもみなかった。一階にある早苗の私室から見て、窓の10cm程下まで雪が積もっていた。同じように起きだしてきたらしいウーサーと白兎は窓から外へ飛び出して行き、そしてトッキーは寒いのが苦手なのか早苗が片付けたベッドに勝手に潜り込んでいる。

この箱庭で過ごす最後の季節、冬。ロキと早苗が仲直りをしてから、他の神々の枷も続くように外れ、今は全員枷のない状態だ。せっかくなら自分のためにそして結衣のために、何かカップルが楽しめる行事をとり行いたい。
その上で、クラス全員が何か楽しめる行事になれば良いのだが…生憎と日本のクリスマスは多宗教国家であるが故に地味だ。何か日本以外のクリスマス行事をと入りれてみたい。となると、日本神話以外の神々にたずねてみるか、図書室でそれらしい書物を漁らなくてはならない。


「善は急げ、図書室行ってくるね」


早苗はトッキーに声をかけると窓は開けたままで図書室へ向かった。丁度出くわした結衣と合流し話を聞いてみると、彼女もまた何かクリスマスの行事を行いたいと思っているところだったらしい。
二人で図書室へ向かうと、各国の文化に関する書籍が並んでいるコーナーに足を運び、いくつかの本を選び出した。ノルウェーにロシア、中国、アメリカと様々な国の冬の行事を見ていく。ただ、なかなかしっくりくる行事は見つからない。どれもクリスマスにご馳走を食べたり花火をあげたりすることが多いようだ。


「クリスマスに立食パーティーとか…どうでしょう?」

「それだと、なんというか、盛り上がりに欠けるというか……」


二人はもんもんと、あれでもないこれでもないと言い合いながら本をひたすらめくっていく。しばらく唸っていると、アヌビスが一冊の本を持ってやってきた。お休みのためか私服姿の彼はとても可愛らしい。


「カーバラ?(シャナ、これ読んだ?)」

「これですか?いえ、まだ目を通していません。ありがとうございます。」


尻尾があったら低い位置で左右させていそうな雰囲気で、アヌビスは早苗たちのテーブルに手をついて覗きこんでくる。見せてくれたのはドイツ観光用の冊子のようで、冬用のものだった。冊子の拍子にはイルミネーションを施した樅の木と、綺羅びやかな屋台が並んでいる様子が描かれている。
中を開いてみるとドイツ語だったが、「Weihnachtsmarkt」と書かれているのを見て、早苗ははっと息を呑んだ。


「なるほど…ヴァイナハツ・マルクト。これなら秋にできなかった文化祭も回収できますね!」

「ヴァイナ…矢坂先生、それは一体…?」

「ヴァイナハツ・マルクト。英語で言うとクリスマスマーケットです。簡単に言うと、クリスマスの装飾品やクリスマスに関連するものを売る市場ですよ。」


写真をゆびさして説明すると、結衣も早苗が何を言いたいのか理解したようで、あっと声を上げた。有志で屋台を出せば、なかなかの盛り上がりを見せるのではないだろうか。日本でも東北や北海道の方ではクリスマスマーケットを行う場所もあるらしい。
ふたりはその冊子を元に、どのようなスケジュールで行うべきか検討し、企画書の作成に専念した。





クリスマスマーケットの開催が決まると、神々は各国ごとに別れて店をだそうという話になり、結衣は日本組を、早苗はエジプト組を手伝うことになった。アポロンとロキは盛大にブーイングしてみせたが、同じ店では休み時間が被らないという早苗の指摘に、はっと息を呑んでこの組み合わせで構わないと息巻いた。
そして開催日まで残り一週間程となると、学園で行われる最後の行事ということも手伝って、神々だけでなく精霊の使徒たちも準備の追い込みに入っていた。


「アヌビスさん…これってもちろん、レプリカ…ですよね?」

「バラバラ!(中身は空っぽだよ!)」

「良かった…」


早苗はエジプト組の手伝いをしながら、当日使う通貨の準備をしていた。この箱庭ではお金は必要ない。が、屋台を出して物を売買する以上臨時の通貨が必要だ。当日は各自に一定量のコインを配り、それで買い物を楽しんでもらうことになっている。
価格設定や購入するものを見極めるなど、細かなところで人間らしさを学んでもらうのも良いだろうと結衣が言っていた。早苗としても、クリスマスプレゼントを限られたお金の中で選ぶというのは楽しそうだったので賛同した。


「馬鹿め。中身が入っているわけがなかろう」

「分かってはいるんですが、どうしてもその…イメージとういうか、ちょっとホラーな感じがするので聞きたくなってしまって」


エジプトのミイラを発掘しにいった人間が散々な目にあったという他愛もない話をしていると、図書室の扉が何の前触れもなく勢い良く開かれた。


「シャナー!!居るんでしょー!!」


バーン!と効果音が背景に見えそうな勢いで飛び込んできたロキに、早苗はびくりと両肩を震わせた。彼がこういった性格であることは承知しているが、よりによってトトの居る図書室でそれを発揮せずとも良いのに。


「ほらほら〜、オレたちの準備したツリー見に行くよ〜」

「え、私まだ準備が…」

「行って来い、矢坂。その餓鬼が居ては準備の邪魔になる」

「センセ流石!じゃ、シャナ借りてくよォ〜」


早苗が呆れて盛大なため息をついているうちに、ロキは早苗の腕を掴むと無理やりに立たせて歩き出した。本当に良いのかとトトを振り返れば「最後の行事だろう?楽しんでこい」と存外に優しい声が返ってくる。
アヌビスもミイラ作りに夢中になっているので問題は起こさなそうだ。早苗はお礼を言うと、はしゃぐ子供のように先を急かすロキの後に続いた。





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