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はっと目が覚めた時、一番に感じたのはふくらはぎ辺りに砂があるということだった。上半身は草が生えているあたりにあるようで、汚れている様子もない。
ただそんな事より問題なのは、目の前に人間離れした美しさの寝顔があることだ。
腕枕をされて、反対側の腕は早苗を覆うように乗せられていて、要するに早苗を抱きまくらのようにして眠るロキが目の前に居る。あどけない表情のロキに、早苗は心臓が止まるか飛び出すか、はたまた破裂するかと思った。


「ろ、ロキさん…起きてください……」


太陽の位置を見るに、いつも起きている時間よりほんの少し遅い気がする。慌ててロキを揺さぶると、一瞬目があい、そしてすぐにイタズラな笑みを浮かべた。


「おはよ、シャナセンセ。昨夜は楽しかったねェ♪」

「意味深な感じに言わないでください!何も、何もなかったんです。お話してそのままちょっと寝ちゃっただけなんですから、皆さんには言わないでくださいね!」

「あっれー、言っちゃ駄目だなんてェ、後ろめたいことでもあるの?」

「っ〜〜〜!ともかく!急いで戻らねば!」


昨日の元気の無さはどこへやら、悪戯っ子全開のロキに真面目に取り合っては身がもたないと、早苗はがばりと起き上がった。昨日は急いでロキを追いかけてきたので時計やら何やらは持っていない。しまったなと思いながらロキを見れば、彼はどうやら時計を持っているようで、文字盤を確認するとニヤっと笑った。


「え、そんなに不味い時間ですか……?」

「そーだねェ、これはこのまま、二人でサボっちゃうのが良いかも☆」

「だ、駄目です!そんなことしたらトト様にぶっ飛ばされなす!」


青くなって両手をブンブンと左右に振ると、ロキはまた声をあげて笑い出した。昨夜から笑われっぱなしの気もするが、とりあえずロキが元気なのでよしとしよう。


「大丈夫、まだ授業始まるまで20分くらいあるから」

「20分しか無いじゃないですか!ここから戻るのにどれだけかかると……」

「空、飛べばいいジャン。」


ロキがそう言うと、突如彼の周りに真っ赤な炎が渦巻き、そしてそれはまた突如どこかへ消えてしまった。炎が消えた後に見えたロキの姿は、頭に黒色の羊の角のような物をはやし、髪の毛は毛先に行くにつれて黄色がかっている。服装も制服ではなくて、黒いパイロットスーツのようなものになっている。赤いラインが入っていたり黒いファーが首の周りについていたり、体の形がよく分かる服装はある意味ロキらしい。
瞳をきらっと輝かせたロキは、あぁ神様なんだなと思わせるだけの威厳があった。ただ少し、内腿がばっちり見えるデザインなのはいただけない。早苗は照れて赤くなる頬に気づいて視線を逸らした。


「ほーら、行くよ」


ふわっと重力を無視して空に浮かび上がっていってしまったロキに、慌てて早苗は呼びかけた。


「わ、私は飛べません…!」

「え、なんで?シャナ、飛べないの?」

「なんでって……生まれつきといいますか…私は飛べないように出来ているんです!」


神様の感覚は本当によく分からない。そう内心焦っていると、ロキはすっと降りてきて早苗の隣に立つと、片腕を膝の裏へ、もう片腕を背中に添えてぐっと早苗を持ち上げた。横抱きにされた体勢に一瞬驚いたが、思ったよりも安定しているようで、早苗は安心して体をロキに任せることにした。
ロキは早苗に腕を首に回しておけと言い、早苗がそれに従ったことを確認すると、白兎を早苗のお腹の上に乗せてもう一度すっと空へと飛び立った。

風が冷たい。ジェットコースターのような浮遊感に、早苗はぎゅっとロキにしがみついた。


「と、飛んでる…」

「あったり前でしょー。なんでこの程度出来ないのさァ。…まぁ、出来ないお陰で、シャナセンセを抱っこ出来たから許してアゲル♪」

「…それはっ、どうも……」

「さぁて、二人っきりの空の旅、楽しんじゃお〜☆」


こんなにも密着出来る口実が出来たことを嬉しく思いつつ早苗は「出来るだけ時間に間に合うようにお願いします」と伝え、ロキにぎゅっとしがみついた。すぐ側にある温もりに、やっぱりロキのことが好きなんだと再確認させられた気がして、頬が染まっていくのを感じた。












第12話、終。




















2014/06/17 今昔




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