お名前変換




【10:とある使い魔+@の苦悩。】



我輩は使い魔である。名前はまだない……と言いたいところであるが、我らが早苗嬢からウーサーという名前をいただいた。全く文句も不平もないし、ちょっと格好悪いだとか、狙いすぎだろうとか、そんなことは断じて思っていない。因幡の白兎もどきのヤツなど、名前すらもらえていないのだ。まぁ、まがい物の分際で名前をいただこうなど恐れ多い話ではあるが…。

ともかく、私はウーサーという名前で主である矢坂早苗殿のお仕えしているわけだ。
彼女は保健室の先生というものをしておって、私のように医術に長けた使い魔を使役しているわけだが、この部屋には悪いものが呼び寄せられるらしい。例えばこの悪神。


「失礼しまーす。…ってあれ、シャナセンセ居ないじゃーん」


真っ赤な髪の毛をオナゴのように伸ばし結っているロキとかいう男だ。こいつはけしからん。早苗嬢に必要以上に関わってはお嬢を困らせている。私が神々に通じる言葉を話せたのならば、この世に存在する全ての罵詈雑言恨み辛みを使って罵ってやるというのに。
ロキはそのまま因幡の白兎もどきを抱き上げると、無礼なことにもお気に入りである窓際の椅子に腰掛けてお嬢を待ち始めた。


「ちょーっと顔見ようと思っただけなのにねェ。待つなんて何してるんだか…」


自分で自分をけなすとは…。こういうのをマゾヒスティックというのだったか?見ればトキの使い魔であるトッキーも呆れたような顔で彼奴を見ているではないか。こんな奴に好かれてしまったお嬢が可哀想でならない!




◇ ◇ ◇




私はトッキーという名前を気に入っているのです。なにせ我らが早苗嬢がくださった名前なのですから。ウーサーなどという名前とは違い、崇高で偉大な名前なのですよ。お分かりいただけましたか?
そうですね、「らしさ」を出すために全て語尾を「トキ」にしてみましょうか?何事も挑戦ですトキ。頑張るトキ。悲しいトキー…そうではないと、分かりました。話を戻しましょう。

私達使い魔は式神とは違い、1個体で生存していくことが可能な神霊であったり妖魔であったりします。ですが、こうして能力のある者に使い魔として仕えることで、普段以上に快適な生活を送ることが可能です。
私はもともとトト神の元にいたのですが、女性の一人暮らしを心配された我が主はこの部屋に私を置いたのです。なんと美しいお心でしょうか。我が主トト様には早苗嬢こそふさわしい。


「失礼します。矢坂早苗…いらっしゃらないのですか……」


む、愚鈍が保健室へやってきたようです。生徒の中で一人だけ目に光がなく、早苗嬢もとても気にされている生徒ですね。…しかしながら、私には分かります。戸塚月人ことツクヨミもまた、早苗嬢に思いを寄せているだろうことが!
あぁ、なんと嘆かわしい。このような愚鈍に好かれてしまうなど、早苗嬢が美しい心の持ち主であるが故致し方のないことではありますが…私は納得出来ません。


『つーきとー!あーそーべー!』


あぁ…ウーサーがじゃれついています。全く、いくら兎は月に住むという伝承があるからと、何もあの愚鈍に懐かなくても良いと思うのですが……


「お久しぶりです、ウーサー。それにトッキーと因幡の白兎もどきも。彼女が帰ってくるまで…少しだけ待たせていただけないでしょうか。…どうしても、矢坂早苗…彼女の声が聞きたいのです」


ふむ。確かに我らが早苗嬢は良い声をしているからな。そう思う気持ちは分かりますよ、愚鈍。仕方ない。今日だけは待たせてさしあげましょう。




◇ ◇ ◇




どーも、因幡の白兎モドキだよ☆
いや〜日本っていう国には「付喪神」っていう文化があって、ただの道具にも心が宿るっていう文化があるらしいけど、まさかボクにまで心が宿るとは!流石ミステリアス大国にっぽん!!
そのことに気づいてないのか、気づいてて意地悪してるのか分からないけど、とにかくうちの早苗さんはボクに名前をくれない。まーモドキっていうのが名前みたいなものだよね。世の中前向きに行かなくっちゃ!

最近は使い魔二人組ともそこそこ上手くやってるし、不便のない生活を送ってるよ。早苗さんは可愛いし、放課後にはボクの製作者のロキも来るし!
お、噂をすれば保健室に誰か来た!ロキかな?


「……なんだ、居らぬのか。全く、用のある時に限って外出中とは、良い度胸だ、あの馬鹿め」


げええええっぇぇぇぇぇええぇ。トトじゃん。
しかも早苗さんのこと普通に馬鹿とか言いましたよ、こいつ。いやそりゃね、叡智の神様に比べたら誰だって馬鹿でしょうよ、ええ。でも言わせて。今の気持ちはこの顔文字。

工エエェェ(´д`)ェェエエ工

トトの奴は早苗さんが居ないと分かるとロキのお気に入りでもある窓際の椅子に座って、どうやら早苗さんを待つことにしたようだ。文句言うわりに待つとか、健気だな意外と。可愛いぞこら。
いや、だがボクは惑わされない!だってボクが応援してるのはロキだから!


「私を待たせるとは良い心構えだ。…相変わらず、予測の出来ない場所とタイミングで私を惑わすのが上手い」


トッキー撫でながら何言ってるんですかね、この人。
早苗さんはあげませんよ?絶対にあげませんからね?ボクが応援してるのはロキですから。ロキですから!大事なことなので3回目、ロキですから!!




◇ ◇ ◇




「さーて、ロキまだかなー」

「何を言うのです。早苗嬢とお話すべきはトト様でしょう」

「えぇーあんなののどこが良いのか分からないよ!」

「そうやって2人で言い争っていれば良い。早苗嬢に相応しきは月人ただ一人…」

「これは戦争だね……」

「戦争、ですか。早苗嬢に迷惑はかけられません。口論…早苗嬢の良いところをより納得させた者の意見が正しい、ということでいかがでしょうか?」

「のりました」

「おっけー!」


「それでは、早苗嬢の美点は…












2014/06/13 今昔
次回からルート別。




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