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「バルドルー!あ、シャナセンセも居るじゃーん」


遠くから呼び声が聞こえて振り返ると、砂浜に足を取られる様子もなく駆けてくるロキは、バルドルに勢い良く抱きつくとこちらにも手を振ってくれた。ロキを追いかけるようにトールと尊、ハデスとディオニュソスもやってきて、なんだかんだ不登校組も仲良くやっているようだ。


「ところでシャナセンセ、なんでそんな無粋なもの着てるワケ?」

「え?」

「そうそう、早苗センセもパーカー脱ごうぜ?草薙さんも着てないんだから」


やってきてそうそうにパーカーを脱がしにかかってくるディオニュソスに抵抗するも、反対側からロキまで手を伸ばしてくる。他の神々も特に反対ではないようで、というよりも唯一反対してくれそうな月人は「女性は慎ましくあるべきです」とだけ言うと、くるりとどこかを向いてしまった。


「若い子のピチピチな肉体を前におばさんの体を晒すわけには…!!」

「だーいじょうぶ、オレたちより若いでしょ?」

「そういう問題では!!!」


神々に比べればそりゃー当たり前のように短い時間しか生きていないが、それでも見た目若々しい皆々様の前に20そこそこで人間としては若い方だが、水着を晒すのは抵抗がある。胸元は空いているがお腹はばっちり隠れるデザインだが、恥ずかしいものは恥ずかしい。


「バラバラ…(アヌビスが選んだ水着、嫌?)」

「っう、嫌じゃ…ありません…」

「ほらー、アヌアヌもパーカー脱ごうって言ってるんだよね?言ったんだよね?」


だからアポロンは結衣の水着にだけ興味を示していてくれ!と思いつつ、早苗は観念してパーカーを脱ぎ去った。幸いにもアヌビスのセンスが良く早苗に似合わないデザインではない。
パーカー脱いで畳んで持っていたトートバックにしまうと、ロキがヒュウっと口笛を鳴らした。


「シャナセンセの水着もやっぱ最高っ!」

「……よく、似合っているな」

「っ〜! あまり見ないでください!」


慌てて一番近くに居たトールの背後に隠れたが、いとも簡単にロキに引きずり出され、バルドルには美しいものは愛でるべきという理論で説き伏せられる。そんな、自分の学生時代に出来なかったようなちょっぴり嬉しいが気恥ずかしいことをしているうちに、夕飯であるバーベキューの準備に取りかかる時間になってしまった。


「アポロン・アガナ・ベレア。そろそろ、夕食の支度を始めなければ間に合わなくなってしまいます。」

「ツキツキ、ありがとう。それじゃ夕飯の準備を始めよう、皆で始めよう!」

「矢坂早苗、君も手伝っていただけますか?恐らくバーベキューの経験があるのは、草薙結衣と君だけですから」

「分かりました、お供いたします」


散々見られたせいか特に羞恥を感じることは無くなり、早苗は生徒会メンバーに続いてバーベキューの準備に取り掛かりに向かう。アヌビスが後をついてくるのは想定の範囲内だったが、その後ろからディオニュソスたちも全員が付いてきて、早苗は目を丸くせざるをえなかった。
ディオニュソスは葡萄酒の神らしく自分で持ってきたのか、ご丁寧に「Juice」と書かれたボトルを掲げて言った。


「俺たちも手伝うよ」

「シャナセンセの水着も見れたしィ〜、これくらいなら手伝ってあげても良いかなって」

「おう!先生のために一肌脱ぐぜ!」


ハデスだけは遠くの方で小さく俺もだと言っただけだったが、神々全員が何か1つのことをやろうとしてくれているのがとても嬉しかった。最初は不平不満を漏らして雷に打たれたというのに、なかなか成長してくれたではないか。


「ありがとうございます、皆さん!一緒にバーベキュー、しましょうか!」


言うと神々はレシピ…ではなく、「キャンプのいろは」という本を持った月人の指示で、器具を組み立て、炭を用意し、それからキャベツに人参、玉ねぎ、肉と忘れてはいけないトウモロコシを食べやすいサイズに切り分けた。甘味が好きらしいハデスがこっそりとマシュマロを紛れ込ませたことに気づいたのは、きっと早苗だけだろう。
甘いモノが苦手だと言ったアヌビスには、塩胡椒と七味を効かせた肉と野菜を用意してやった。

それから早苗は準備がひと通り落ち着いてくると、残りのことは神々にまかせて一旦自室へと戻った。食後にやろうと思いたち、購買で各種花火を入手しておいたのだ。悪神ロキが居る場所で火薬を使うのには抵抗があったが、そのあたりはバルドルとトールがどうにか止めてくれるだろう。
水を入れる用のバケツとともにバーベキューの片隅に花火を用意して、完成しつつあるバーベキューの輪に戻ると、アヌビスもすっかり神々に馴染んだ様子で笑っていた。


「よーし、一般生徒も集まったことだし、バーベキューを開始だ、開始しちゃうよー!!」













第7話、終。












2014/06/10 今昔
夏曲、良いですよね。
基本的に現実世界の季節とリンクして更新しようと思っていたのですが、追い抜いてしまいましたw
予想以上にこの連載の感想をたくさんいただいており、ロキから順番に平日更新を目標に書いていきます。




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