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早苗と結衣は臨海学校の内容について話し合うと、早速内容をまとめてトトの元へと提案を行いにいった。いくら神々の教育について結衣や早苗に任されていると言っても、一応担任には伝えるべきだろうと早苗が提案したのだ。

図書室にノックして入っていくと、まず例の耳のような跳ね方をした髪型の少年がこちらに気づいた。


「キシャー!」


早苗と目が合うと一瞬嬉しそうな顔を見せたが、すぐに背後から入ってきた結衣に気づき、早苗との初対面の時のように警戒心を露わにしてしまった。よく図書室へ出入りしている早苗には慣れてきたようだが、やはり初対面の人間は駄目らしい。


「こんにちは、アヌビスさん」

「カー!バラバラッ!!」

「草薙さんは人間だけれどここの生徒で、悪い人ではありません。あまり大きな声を出さないようにしてあげてください。草薙さんもアヌビスさんにあまり近づかないでくださいね」

「えっと、分かりました」


流石にこの警戒っぷりを見て納得したのか、結衣は素直に頷くと早苗の後ろにそっと隠れた。肝心のトトを探して顔をあげると、彼はアヌビスが吠えているのもどこ吹く風と言った様子で、焼きトウモロコシを食べていた。


「あの、トトさ」

「ストップ草薙さん!」


早苗の背中から出てトトに近づこうとした結衣に、早苗は慌てて後ろから口を塞いで歩みを止めさせた。人間同士でも食事中に話しかけるのはあまり良くないというのに、それをトト相手にやろうものならどんなお叱りが飛んでくることやら。
はぁ〜っと盛大に聞こえたため息に、これはまずいかと早苗がトトを窺い見れば、トトは手にしたトウモロコシに視線を落とし、早苗が知る限りでも滅多ないほどに嬉しそうな顔をしていた。


「粒に多く含まれるデンプンがもたらすモチりとした食感、つややかな見た目、色合いからは想像も出来ないような甘み、そして旨味。トウキビはやはり至高の食べ物だな……」

「「………トウキビ…」」


そもそもトトが食事をしているということにも違和感があるのだが、にしても「トウキビ」という呼び方とあの幸せそうな笑顔。いったいどうしてしまったというのか。
ふとトトは早苗と結衣が居ることに気づいたらしくこちらに視線を向けると、トウモロコシをお皿に戻した。怒られる前にとすかさず早苗は前に出ると、丁寧にお辞儀をする。


「お疲れ様です、トト様。お食事中に申し訳ございません」

「構わん、何事だ。草薙を連れてくるとは珍しいな」

「はい、実は夏の行事について、念のため許可を頂きたく伺いました。」


結衣から夏季休暇を利用した自主参加型の臨海学校についての説明を行うと、やはりトトは勝手にやれというようなことを言ってトウモロコシの続きに取り掛かろうとしてしまう。早苗はもしやと思い立つと、とりあえず言ってみるだけとあまり期待せずに口を挟んだ。


「トト様、参加人数によっては私一人では見きれません。宜しければご一緒いただけませんか?臨海学校ならバーベキューも行われるでしょうし…」

「バーベキュー…」

「もちろんご存知とは思いますが、お肉や玉ねぎ、マシュマロやトウモロコシなんかを焼いて食べる人間の文化です。」

「……」


トウモロコシの単語が出た瞬間にトトの両肩がピクリと小さく跳ね、そしてしばし無言を貫いた。早苗がもうちょっと押した方が良いだろうかと思い始めた時、


「人数によっては考えてやらんでもない」

「ありがとうございます!!」


内心ガッツポーズをしたいくらいの喜びを隠してどうにかお礼を言うと、背後でも結衣が驚愕の表情で早苗を見つめていた。これは勝った!と思った瞬間、トトはただし、と付け足した。


「アヌビスの面倒も見てやれ。貴様の料理は気に入っているらしいからな、大人しく着いて行くだろう」

「え…え?アヌビスさんを、私がお連れすると……?アヌビスさん、よろしいですか?」

「カー!」

「問題ないそうだ」


尻尾をブンブンと振り回しそうな雰囲気のアヌビスに、早苗は承知しましたと答える他なかった。言葉が通じない、というよりアヌビスの意思を汲み取れないのが怖いが、ジェスチャーやらである程度どうにかなるだろう。
トトの許可も条件付きだが得られた2人は早速生徒会のメンバーに共有し、日程と段取りを決めるために寮へと移動した。





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