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「貴様がその生命を差し出すというのならこの世界は残そう。貴様が助かりたいと思うのなら、この世界を消滅させ貴様だけは生かしてやる。」


早苗はトトの言葉に絶句した。絶望した。激しく、後悔した。
今まで彼の側にいて、心を解かし、理解しあえたと思っていたのは早苗だけだったのだろうか。神々と人間の尺度が、考え方が違うことはとっくの昔に気づいていたはずなのに。
それこそ、何年も前から気づいていたはずなのに。

何年も前、から。

もう間違えない。
何度も繰り返し、学んだのだから。

何度も?

早苗は己の思考に戸惑いながらも、触れれば消えるという光にそっと手を伸ばした。一歩、もう一歩と足を踏み入れる。少しずつトトに近づくたびに、体が消えていくのが分かった。
細胞単位で分解されるような、痛みと開放感のあるそれに、早苗は出来るかぎり微笑んだ。


「早苗!」


呼ばれて伸ばされた手に、そっと自分の両手を伸ばす。







−−−−---- トト様、お慕いしていました。







【08:全てはあなたのため】






世界を作り直すトトの光に満たされて、早苗は様々なことを思い出していた。恐らく体が消え、魂が消える瞬間だから走馬灯を見ているのだろう。普通の人間と少し異なるその走馬灯には、何回も繰り返した箱庭での記憶が巡っている。


「トト様はきっと、今度こそ幸せになる。」


そう呟いても、声にはならない。
もう繰り返す必要は無いと早苗も分かっているけれど、それでも少し心配になってしまうのだ。だって、もう何十年も、普通なら年老いて死んでいてもおかしくない程の時間、トトだけを愛し続けてきたのだから。トトだけが、早苗がここまで生きてきた理由で、トトだけが、早苗の全てと言ってしまいたい。

欠けた魂と肉体に、可愛がっていた使い魔たちが充てがわれるのを感じる。もう会えなくなってしまうけれど、ずっと一緒に居ることを選んでくれたようだ。
トトやゼウスなど最高神が与えてくれた神獣が体に取り込まれた場合、それはまだ人間なのだろうか?人間でなくなってしまった場合、早苗はどこに帰ることになるのだろう。


「トト様の側が良いなあ」


早苗はぐっと近づいた温もりに手を伸ばし、意識を浮上させた。

今度こそ。彼を幸せにするために。




2018/09/13 今昔




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