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早苗は深い夢の中に居た。暖かいものに包まれて、とても幸せな気持ちでいるのだ。背中に回った強い腕、すぐそばで聞こえる鼓動。そして優しく自分を呼んでくれる声。どれもが安心させてくれる。


「トト様…」

「目が覚めたか」

「っ!?」


夢のつづきだと思って呟いたところで、早苗ははっと目が覚めていたことに気づいた。何やら暖かいと思っていたのはトトが抱きしめてくれているからで、ここは夢の中ではなくて布団の中だ。しかも保健室の自室の。電気はついておらず、窓から月明かりが差し込んできている。
確か、トトの光に自ら足を踏み入れて消えてしまったはず…と思考が働いてくると同時、何故生きているのかと混乱のあまり思考がうまく働かなくなった。


「落ち着け。貴様は生きている。使い魔たちの尽力でな」

「トッキーとウーサーの?」


トトの話によれば、ウーサーは肉体を、トッキーは心臓を復活させてくれ、元通りとなった肉体にトトが魂を呼び戻したから生きている。という突拍子もないことが起きたらしい。そして肉体と魂が馴染むまでの間、早苗は3日ほど眠りこけていたと。なんとも信じがたい話である。
ただ確かに、肉体に違和感とも言えない程度の何かおかしな感覚はあり、トトの言うことは本当なのだろうなと思うことが出来た。

トトは早苗が落ち着いたのを見てとったのか、早苗の額にキスをするとぎゅっと抱きしめてきた。早苗は遠慮がちに両手を彼の胸元へ持っていくと、自分が消えてしまうと思って口にした言葉を思い出して頬を染めた。聞こえていたかは分からないが、我ながら大胆なことをしてしまった。


「貴様の心臓になった使い魔は、私の神獣だ」

「トッキーはトト様にお仕えしていたのですか?」

「あぁ。つまり、貴様の体はすでに人間ではない。恐らく、人間では出来ないことも出来るようになっているだろう。人間界へ帰すことは出来ない」


トトの言い分に、早苗ははっと目を見開いた。人間界へ帰るどころか、そもそも人間を滅ぼすか世界を潰すかという話をしていたはずだ。それは一体どうなったのだろうか。


「トト様、この世界は…どうなるのですか?」

「…お前の行いによって、世界の終焉を示す砂時計の砂が逆戻りした。下から上へと流れた砂が示すのは世界の延命だ。」

「私が…トト様の光に飛び込んだことで、世界の寿命が伸びたと?」

「あぁ。そこでアマテラスが連絡を寄越し、うちの国の者が尽力したのだから世界を潰すな人間を滅ぼすな、と言った。」


天照大御神。まさか日本でもかなり力のある神も噛んでいたのか。早苗は驚きを隠せず息を呑んだ。


「そして、貴様は人間ではなく神に近い存在となった。力の根源である心臓に私の力の一部をもった神獣が宿ったのだ。神と言っても問題はあるまい」


トトの顔が早苗の首筋に埋まり、耳のすぐした辺りの首筋が吸い上げられた。何をされたのか一瞬分からなかったが、おそらくキスマークになっているだろうそれに、頬に熱が集まるような気がする。
トトはそのまま首筋から胸元へと舌先を這わせると、そこにもちゅうっと吸い付いた。撫でられる背中に、そわそわと下半身が落ち着かない。


「トト様…あの……」

「貴様が大きいと言っていた『神と人間の壁』はもう存在しない。ならば、躊躇うこともあるまい?」


今度は口が塞がれ、浅く唇の感触を楽しむようなキスから、次第に舌を絡めう濃厚なキスへと。吐息が交じり合うような場所で囁かれた言葉に、早苗はトトの背中に腕を回した。


「これから嫌というほど愛してやる。覚悟しておけ、早苗」







【 優しい両手 】












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