お名前変換


シャナは別段自分の体重に関して気にしていない。神なのだから多少の自由は効くし、そもそも人間のように他人と比べてどうこうということもない。そもそも体型の好みというのは時代によって大きく変わる。
だが流石に、


「おいトト、一体これはどういうことだ?」


他人の膝の上に座らせられていたら、気になるというものだ。







【 羽根一枚ほど 】






「調度良い肘置きがあったのでな、使ってやっている。ありがたく思え、無頓着」


無頓着、とはトトがシャナを呼ぶ時に使うあだ名のようなものだ。エジプトではその人の本質にあった単語をニックネームにするらしいので、まぁ許してやらなくもないとシャナは思っている。日本神話からきたシャナには全く理解出来ないが。
トトは父親が子供を抱くように、自分の膝にシャナを載せると後ろから抱きしめるようにしている。そして顎をシャナの頭に乗せて、シャナの両肩を使って本を読むための台に使っているのだ。


「決してわたしは無頓着などではない。私にだって気にかけるものはある。」

「では言ってみろ、手始めにクラスメイトのフルネームを」

「む…戸塚尊、戸塚月人…………トール・メギンギヨルズ。後は知らぬ」

「ふんっ、己が机を並べる者の名前も把握しておらぬとは、そんなことだから箱庭に召喚されるようなことになるのだ」


ずしっとわざと体重をかけられて、シャナはぎゃっと可愛らしくない悲鳴を上げた。元より人間を神格化した神であるシャナは、他の五行を司ったりするような神々ほど強くはない。まして男神と女神で力の差があり、更にトトは特に力のある神でもある。少しは手加減してほしいと思うのだが、それを言っても聞き入れてはくれないだろう。


「余計なことを覚えたくないだけだ。わたしにはこの学園で学ぶことが苦痛でならぬ…教師がトトというのは良いだろう。聞いていた通り知識豊富で理知的で話の分かる男神だったからな」


こんなにも皮肉屋で腹黒くて意地が悪いのは想定外だったが、と心のなかで付け足し、シャナははぁっと溜息をついた。


「では貴様は何に対してなら頓着するのだ。それすらも分からぬか?己にたいして無頓着とは相当な阿呆だな」

「そんなことはないぞ!人間の書いたハーリポテー?とかいう書物やなんとかの守り人という作品はは面白かった!」

「どちらも児童文学だな。ふん、貴様の精神年齢が疑わしい」


トトはそう鼻で笑うと本を傍らに置き、シャナの両脇を掴んで持ち上げると座る向きを半回転させた。顔を顔が向き合う状態に、さっと頬に熱が集まる。


「何をする!トト、降ろせ!!そもそもわたし、重たいだろうに!」

「ほう?羽根一枚ほどの重さしか感じぬが…どうやら私に対しては無頓着ではないようだな」

「だ、だから…分かったから、もう降ろせ!授業も真面目に受ければ良いのだろう?降ろせ!」

「貴様の成績が良かったところで、私がこうすることに変わりはないだろう」


こいつただの腹黒教師だ。
などとは口が裂けても言えるはずがなく、シャナはトトから顔をそむけて抵抗するしかなかった。が、顔を他所へ向けているが故に晒されていた首筋に、トトの顔が埋まりちゅっと音をたてて何かが触れた。
嫌ではないがくすぐったいようなソワソワするような感覚に、シャナはびくりと体を揺らした。


「何をするトト!」

「私はどうやら、貴様に頓着しているらしいな、シャナ」

「知ったことか!だから先ほどから私も言っていたであろう!私だって全てに無頓着なのではないと!」


そこまで勢いで言ってから、ハッとシャナは我に返った。今、とんでもないことを口にしてしまった。トトは叡智の神、少し口を滑らせただけで、少し態度が変わっただけですぐにこちらの意思に気づいてしまうのだ。
きっと、今のシャナの失言で…いやもしかするともっと前から気づいていたのかもしれない。


「まぁ良い。シャナ、貴様が気にかけるべきは私だけということだな」

「っ〜〜!!うるさい!離せ!そう気恥ずかしくなるようなことを言うなぁ〜!!」


トトの愉快そうな笑い声に、シャナは全身を包む倦怠感を感じながらどうにか逃げ出そうと抗うのだった。







FIN







2014/06/23
アンケートのコメントより、トト様に強制的に抱っこされる女神ちゃん。トト様は誘導尋問で相手に告白させるタイプだと思います(真顔




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