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「やめて下さい、この変態!!」

「えぇ〜、だって、男子高校生のロマンといえばスカートめくりだってこの本に書いてあったよォ?」

「どこの漫画だ!出版責任者出てこい!!」

「ほーらほら、神様の言うこと聞かないとォ、バチがあたっちゃうよォ♪」

「誰が悪神の言うことなんぞ聞くか、ボケェ!」


矢坂早苗、この度人生最大のピンチを迎えた。










【 騎士のKiss 】










手っ取り早く人間について学ばせたいと思った早苗は、真面目に部活動に取り組む結衣とは対になるような行動を心がけていた。図書室に各国の児童文学を入れてもらったり、はやりの週間雑誌の単行本を入れてもらったりしていた。
まさかそこで入れてもらう作品を指定しなかったせいで、とんでもない事態に陥るとは夢にも思わなかったのだ。何か少年漫画にハマってしまったらしいロキが「スカートめくりこそ男のロマン」などと言い出したのだ。
流石に良識のある他の神々は止めてくれているが、そこは稀代のトリックスター。あの手この手でくぐり抜けて早苗に手を出してくるのだ。


「っていうか、何で結衣には手出さないんですか!」

「リアクションがつまらない!」

「真顔で言うな!!」


教室の外に飛び出すと同時に後ろ手に扉を閉めながら走りだす。小学生かと言ってやりたいのはやまやまだし、精霊の生徒たちが驚いているのも申し訳ない。だがしかし、好きでもない相手にスカートをめくられるなんてゴメンだ。いや、好きな相手でも嫌だ。
早苗は華麗に突き当りをコーナリングし、おっしゃ逃げ切れる!と思った瞬間、誰かに正面から勢い良く衝突した。ただ、跳ね返されて転ぶことも、ぶつかった相手を巻き込んで倒れこむこともなかった。


「すみません!急いでて…!」

「……いや、構わない」


抱きしめるようなかたちで受け止めてくれたのは、どうやらトールだったようだ。胸元にぎゅっと押し付けられて、まだ視界ははっきりしていない。早く逃げないとまたロキが追いかけてくると分かっているのだが、トールの腕の中から抜け出したいとは思えなかった。
どうしたものかと様子を伺っていると、後ろの方から「シャナー!!」と叫ぶ声が聞こえ、直後にキーっと廊下で急ブレーキをかける音がした。


「み〜つけた…ってトールちん、何してんのさ」

「……矢坂の保護だ。お前が年甲斐も無く虐めるようだからな」

「だからって、そんな風に抱きしめる必要、ないんじゃないのォ?」


ロキの指摘はごもっともだと思うが、こうでもしていなければ何かされるのは確かだ。やっばいなーと思いながら、早苗はぎゅっとトールにしがみついてチラりとロキを見やった。予想以上に不機嫌なロキに、背中に冷や汗が伝っていくのが分かる。
これは絶体絶命だと血の気が引く思いで居ると、頭上からトールの深い溜息が落ちてきた。トールはぎゅっと早苗を抱きしめ返すと、静かに口を開いた。


「……矢坂を好きならあまり虐めるな。好きじゃないなら、俺のものに手を出すな。」

「べっつに好きじゃないし!バルドルからかうのと同じだってェ!トールちん、目が怖い……」

「……本気だから、当然だろう。彼女に手をだすなら、いくらロキでも許せない」

「わかったてばー!もうしない、遊ぶのは草薙にするよ」


それで良いのだろうか。すまぬ、結衣。
心の中で謝ってから、早苗はふうっと息を吐いた。どうやらここ数日の大戦争からようやく解放してもらえるらしい。お礼を言おうとトールを見上げると、ばっちりと目があった。
真っ直ぐにこちらを見てくる緑色の瞳に、まるでメデューサに出会ったかのように動けない。早苗ははっとして視線を逸らしたものの手持ち無沙汰で、自分の制服のネクタイをいじった。


「その、ありがとう、ございました…」

「……いや、構わない。俺が勝手にしたことだ」


庇ってくれたことにも驚いたが、突然「俺のもの」宣言をされたことも驚いた。早苗はあれがロキを追い払うための言葉なのか、それとも今もまだ背中に回された腕が主張するように本気なのだろうか。
握っていたネクタイを離してトールの胸元に手を当てると、もう一度ぎゅっと体が密着した。額がぶつかって気づいたが、彼の鼓動が早い。


「……さっきの言葉に、偽りはない。」

「それは…、その、自惚れても良いということですか?」

「……矢坂を…早苗を手に入れる、そして誰にも触れさせない。これだけは、ロキやバルドルにも譲れない。」

「私も…」


トールの片手が頭の後ろに添えられて、軽く上を向かされる。すっと寄せられた唇は、なんの抵抗もなく受け入れられた。恥じらいと緊張から目を瞑って、ただただキスを受け入れることしか出来ない。


「……好きだと…いや、愛していると言ったら、受け入れてもらえるだろうか、早苗」

「勿論です。私も、トールさんが大好きですから」


お互いの吐息がかかるような距離で囁かれた愛の言葉に、早苗は全身が喜びに打ちひしがれるのを感じた。






【 騎士のKiss 】







「あ、私がどれくらい好きかというと、トールさんにならスカートめくられても良いくらいに

「……まて、それ以上言うな。俺までロキと同レベルだと思っているのか…?」

「されないって分かってるから安心なんです。」








Fin



2014/06/20 今昔
アンケートにトール夢も!といただきましたので。トールちん好きです。FDでは攻略対象になると良いのですが…あとディディと陽さんも!




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