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※日本神話の女神ヒロイン
※苗字は戸塚固定
※トト宿命ENDで結衣の発言がなかったらIF
終わっていく世界を眺めていた。
北欧神話ではラグナロクという大きな戦争によって世界が一度滅びているが、今回の人類の滅びはトト一人の力によって引き起こされたものだ。シャナは草薙結衣の隣に立ち、一緒に人類が消えていく様を見守っていた。繋がれた右手に、結衣の震えが伝わってくる。他人が苦しみ死んでいく姿を見るのも辛いというのに、更にこの後同じように自分も消え行くと聞かされているのだ。普通の人間の子供なら泣きだしてもおかしくない。
シャナはそう思い、結衣の手をぎゅっと握り返した。
「これで終いだ」
トトの冷たい声に、結衣が一瞬ビクリと震えた。
この学園にやってきて一番に枷が外れたのは、日本神話からやってきていたシャナだった。戸塚早苗という名前を結衣に貰い、結衣と喧嘩したりしながら一緒に居る内、本当にあっけなく枷が外れたのだ。その時にはもう二人は親友で、神と人間という垣根は関係なかった。
他の神々も少しずつ枷が外れて全員が卒業出来るだろうと言われていたのに、神々の審議はいつだって人間にとって残酷だ。玉依姫命と同列の巫女が神格化した神であるシャナには、人間の痛みはよくよく理解できる。結衣の辛さも、今滅んでいった人間たちの辛さも痛いほど伝わってきた。
「最後は貴様だ、草薙」
「トト様…草薙結衣を、何か別の存在に転生させることで救えはしないのですか?教師として見守られていたトト様なら、人間が全て悪しき存在でないこと、そして結衣は良き心を持ち天叢雲剣に選ばれた人間であるとご存知のはず…」
<…それは赦されぬことだ。諦めなさい、シャナ。>
ゼウスの持ち物を通して、日本神話からのアマテラスの声が響いてくる。確かに一度決めた規則を守らないのは悪いことだが、ロキだって元は巨人から神になっている。人間からそれ以外になるのはこの非常事態でも赦されないのだろうか。
「そのような辛そうな声で言われても、説得力がありません!トト様もゼウス様も…アマテラス様も……皆様のお心が痛むのは、私も見ていて辛いのです。」
この一年、トトの傍に居て教えを受けてわかったことだ。彼は決して弱みを他人に見せず完璧であろうとし、余程信頼する者にしか頼み事すらしない。
そして彼がものを言いつけるのは決まってシャナと結衣だ。他の男神たちには何も頼まないし、黒板を消すくらいの雑用も罰としてでさえさせていない。それに最初に気づいたのはバルドルだっただろうか。人間でいうところの日直のしごとを毎日任されている二人に、信頼されていて羨ましいと言ってきたのだ。
「少なからず信頼している人間をその手で消し去るなど…トト様も同じように人間について更に知識を深めていらっしゃるのであれば、心が痛むのではないかと、私は心配なのです」
「シャナ。心配は無用だ。私がそんなに弱く見えるか?」
「…どんなに強いお方でも、大切な者の死が辛くないはずありません。トト様であれば完璧に平静を装えてしまうでしょうから、私には図りかねますが…。」
「……」
「早苗ちゃん、大丈夫。私も…あんまり庇われるとお別れが寂しくなっちゃうよ」
言って抱きしめてくる結衣の背中に、シャナもまた腕を回した。震えている彼女の頬にはきっと涙が伝っているのだろう。一緒に逝けたら、結衣は救われるのだろうか。シャナもまた人間の信仰心によって生まれた神。その人間が居なくては存在の意味も半減するというものだ。
「では、私も共に消えましょう。旅路も一人では心もとないでしょう?」
「駄目!!だって早苗ちゃんは神様で…
「私を信仰してくれる"人間"はもうどこにも居ません。これから新に人類が生まれたとしても、私を敬う者が居るとは限らない。それであれば、私も共に逝きましょう。」
「駄目なの…早苗ちゃんを消すなんて、トト様には出来ないから」
「え?」
結衣の口から飛び出した予想外の言葉に、シャナは少し体を離して結衣を見た。ほんのりと紅く染めた頬で、彼女は言って良いのは悪いのか少し悩んだ後、気まずそうにトトを見やった。
「私もロキさんやバルドルさんも気づいていたんだけど、多分トト様は、早苗ちゃんのことが好きだから…」
「…え?」
「だから、本当に大事な人を消すなんて出来ないって、さっき早苗ちゃんが言った通り。トト様には早苗ちゃんを消すなんて出来ないと思う。人間は神様を模倣して作られた存在。だったらトト様にだって私たち人間と同じような心があるはずだから」
だから私一人で大丈夫。そう言った結衣は、ゼウスに早く私を消しされと言い放った。
【 せめて優しい終止符を 】
草薙結衣は、ゼウスとトトの能力によって人間ではなく作りなおす世界の一部となることで残酷な死を免れた。それも神々の尺度ので「残酷さ」を回避しただけであり、結衣にとっては辛いことのはずなのに、最後に結衣はありがとうと楽しかったと伝えてシャナの目の前を去った。
どこにも居ないけれど常に一緒。そう分かっていてもシャナの目から零れ落ちる涙は止まらない。盛大にしゃくりあげ、人間の体のままでは過呼吸になるのではないかと不安になってきた時、そっと暖かいものに包まれた。トトに抱きしめられていることに気づくまで、そう時間はかからなかった。
「泣くな、と言っても泣くのだろう。せめて部屋に戻れ、そして思う存分泣いたのならあの愚鈍とペケと共に帰るのだ」
「いっ…いや、ですぅっ…」
この人の前では優等生でいなくてはと思っていたが、こんな泣き顔を見られてはもう我慢する必要もないだろうと、シャナはぎゅっとトトの服を握りしめた。首筋に顔をうずめてどうにか息を整えると、頑張って言葉を紡いでいく。
「はじめての友達だった結衣さんが居なくなって、これ以上寂しいのは、嫌です」
「…同じ世界の神々が居るだろう」
「嫌ですっ……っぅ、トト様と一緒に行き、ます」
ぎゅっと抱きしめられる力が強くなった。きっと難しい顔をしているのだろうなと、顔が見えなくても分かるトトの様子にシャナは目をつむった。
「戻っても…私の仕事は無い、のです。人間の願いや行いという情報を、正しい神々に送り届けるという仕事が…」
<トト、私からも頼もう。シャナを連れて行ってやってはくれないか。定期的に寄越す文からは、お前さんをとても尊敬している様子が伺えた。神としての役目が果たせなくなるのであれば、せめて女として生かしてやってはあげられないか?>
聞こえたアマテラスの声にどんどん涙がこぼれてくる。
頭上からトトのため息が聞こえ、同時に膝裏に腕を回されるとシャナはいとも簡単に抱き上げられた。トトはゼウスとアマテラスに断りを入れると学園長室を出て、それから寮の方へと歩き出した。
抱き上げられたまま泣き続け、トトの服が濡れるのも気にできずに縋り付いてひたすら声を堪えた。このまま寮に戻されてしまえば、きっとツクヨミやスサノオと共に日本神話の世界へ戻されてしまう。無情にも、トトは日本神話の寮の部屋を無遠慮に開いた。
「トト・カドゥケウス…それは戸塚早苗ですね。」
「お前たちに伝達だ。シャナは私が連れて帰る」
「は?鳥頭…どうしたんだ?早苗を連れて帰るって…エジプト神話の世界にか?」
寮の入り口でスサノオたちに捕まると、トトはそっと早苗の足を床に戻した。それでも同室の彼らに顔を見られたくなくて縋り付いたままで居ると、トトの手が優しく髪の毛を梳いていった。
「そうだ。お前たちには話しておかねばな。」
トトは簡単に人類を滅ぼしたことと、それからシャナの神としての役目について語り、アマテラスの許可があることをを伝えた。二人が驚いている様子が伝わってきたが、さんざん泣いて声を堪えていたシャナはなかなか声を出せずにいた。
よく頑張ったなと気遣ってくれるスサノオと、ただ優しく頭をなでてくれたツクヨミの暖かさにまた涙が出てきて、シャナは今度こそ声をあげて泣いた。
二兎を追う者は一兎をも得ずということわざがあるが、唯一の友達と好きな人を天秤にかけるなんて、神様はなんと残酷なことをするのだろうか。いったいどこの世界の神が私にこんなことをさせたのだろう。シャナはそう思いながらトトに手を引かれ、アヌビスと3人でエジプト神話の世界へと旅だった。
2017/06/02 今昔
トト様のあれば演技らしいので、普通の時は貴様らとか言わないのかなーと今回は「お前たち」で書いてみました。
こういう暗いだけの内容も好きです。というか、トト様が好きです。
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