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卒業式、というものは、こうも涙腺が緩むものらしい。
「許さんぞ、草薙ぃ。」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を見られまいとハンドタオルに顔をうずめて、シャナは空いた片手でばしばしと草薙の背中を叩いた。
「す、すみません…神様でも卒業を悲しんでくれるんですね」
「それを教えたのはお前だろう、世話になったな。」
ハデスの手がぽんと頭にのり、わしゃわしゃと撫でられているのが分かる。
無事全員の枷が外れ、二度目の春がくる直前に箱庭の卒業式が執り行われた。これで、他の国に住まう神々とは別れなくてはならず、国境を超えるほどの用事がなければ会うこともない。ロキに散々悪戯をされたことさえも懐かしく、これで終わりかと思うと寂しく感じてしまうのだから不思議だ。
校庭には桜が咲き乱れており、時折吹くあたたかな風に花びらを飛ばしている。空気もどこか明るいようで、箱庭からの卒業を祝ってくれているようだ。
「冥府にも、桜を植えたいな」
「…そうだな」
冥府に持って帰ろうものならすぐに枯れてしまうだろうが、ハデスは肯定しただけだっった。優しい彼の態度に、シャナの涙腺はまたどんどんと緩み始める。
「嬉しかった。ここに来れて…そして楽園へ送られなくてよかったとも思えた。ハデスに会えた。草薙のような悪くない人間にも出会えた。もう、人間を恨まなくてもいいんだ。」
「シャナ、お前は少し気に病みすぎる。今みたいに、時々でいいから俺に聞かせてくれ」
「あぁ。嬉しいも悲しいも半分こだぞ、ハデス!」
薄い色の桜と蝶々が舞う中で、額にそっと唇が触れた。
信じたい未来を今この手、掴みとるから
もっと、もっと輝けるわ…
「おお、お、おい。シャナ、どうすればいいんだ?首がぐにゃっと…わっ」
冥府の奥底、暗い場所。シャナはくすくすと笑った。
ハデスの腕には幼子が抱かれていて、上手く抱っこが出来ないようで奇妙なポーズになっている。その腕を上手く調節してやると、ようやく安定感がでたのかハデスもふぅっとため息をついた。
「ただ抱き上げるのも難しいのだな」
「ハデスが不慣れすぎるだけだ、もっと、こう…感覚でだな」
二人の間に生まれた娘もまた冥府の住人らしくハデスによくにた髪色と、シャナと同じ色の目をしていた。まだどちらに似ているとも分からないくらいに幼いが、ハデスに抱かれている間だけ髪の毛をひっぱるヤンチャっぷりは、おそらくシャナに似たのだろう。
父親に抱かれて安心したのか眠ってしまった娘の額から、邪魔そうな前髪をわけてやる。するとハデスは見えた額にキスを落とし、それから隣に居たシャナの額にも同じように唇を落とした。
「この子は、どんな風に育つだろう。出来ればシャナのように、自力で不幸をはねのける強い子になってもらいたいな」
「弱くてもいい。誰か…私がハデスに出会えたように、背中を任せられる人に出会える子なら、それで十分だ。弱くても構わないさ」
「…そうだな」
冥府の奥には咲かないはずの、桜の香りがしたような気がした。
FIN
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