お名前変換



「今日はね、シャナに大事な話があって来たんだよ」

「大事な話?」

「そう、お前、成仏しそうだね」








【宿命END:果てしなく遠い明日へ】







「お前、成仏しそうだね」


アフ・プチの言葉に、シャナはただ目を見開くことしか出来なかった。
成仏?神にまでなったというのに、いまさら成仏?アフ・プチが何を言っているのか、さっぱり理解できない。


「シャナ、お前は人間が好きになってきただろう?お前が神になれたのは『人間に制裁を加えたい』という思いからだ。ある意味では怨念が形になった悪神だね。そんなお前が、人間への恨みを忘れたらどうなる?」

「神として……存在する理由が無くなるというのか…?」

「そのとーり!!」


アフ・プチは大げさな仕草で両手を広げて見せた。ニッコリと嬉しそうに微笑むアフ・プチに、シャナは更に混乱させられた。
彼はシャナが成仏してしまうことを喜んでいるのだろうか。人間として輪廻転生の輪に戻っていくことを、喜んでいるのだろうか。

ただ、ここで神でなくなってしまえば、人間に戻り成仏してしまったら、ハデスと共に生きて行くことが出来なくなってしまう。


「嫌だ」


ハデスと同じように、神として半永久的な時間を生きることができなくなってしまう。


「嫌だ…」


ハデスの不幸の半分を、引き受けることができなくなってしまう。


「絶対に……」


一緒に居ると言ったシャナが居なくなったら、ハデスはどう思うだろうか?シャナを嫌ってしまうだろうか?


「人間になんて戻りたくない…ッ」

「人間に戻るんじゃないさ、成仏するんだから何に生まれ変わるかなんて分からないよ?」

「そういう問題じゃない!!私はまだここに居たい!」


両目から涙が零れそうになったシャナを、アフ・プチはすっと冷めた目で見返してくる。冥府の神らしく、冷たく凍えるような目だった。


「それは、お前の想い人と共に居るためかい?」

「…そうだ、私はまだハデスと一緒に居たい。」

「よりによって他国の冥府の王に恋したのか。…しょうがないなぁ、生まれ変わりの順番はちょっと遅くしてあげるから、お別れくらいちゃんとしておいで」


アフ・プチはそう一人で納得すると、シャナの背中をグイグイと押して学園長室から追い出してしまった。背後でバタンと閉まった学園長室の扉は、中から鍵でもかけられたのかいくら押しても開かない。引いても、横にスライドしても開かなかった。

シャナは突然降って湧いてしまった成仏し、生まれ変わるという事態に頭がついていかなかった。ただ学園長室の扉に手をつけて、呆然としゃがみ込んだままでいると、遠くで授業開始のチャイムが鳴った。






「いいのか?」

「何がだい?」

「生まれ変わりを後回しにするとはいえども、そう長い時間はこの箱庭に居られまい。あの様子ではハデスに会いに行くことは…」

「ゼウスは随分とシャナに肩入れしているみたいだねぇ。僕はね、シャナが幸せになればいいと思ってここへ送り出した。その結果、まさか人間を理解してしまうなんて想定外だったんだよ。」

「…ハデスの影響か」

「そうだねぇ。僕は…生まれ変わっても、ハデスがシャナを見つけて幸せにしてくれると思ってる。今のマヤではギリシャ神話の神々も信仰されているから、死んで運が良ければ、ハデスの冥府に行けるんじゃないかな」

「生まれ変われるかも分からぬだろう。随分とひねくれた愛情だな、アフ・プチよ」

「ゼウスぅ、お前に言われたくないよ」



_




_