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シャナは翌日から普通に教室へと通うことにした。夜にハデスは来てくれなくなったが、それでも毎日顔を見て同じ空間に居ることが出来る。
憎き人間・草薙に教室へ来るようになった理由を問われたが黙秘していると、今度は草薙に頼まれたらしいディオニュソスが聞きに来た。が、彼の軟派な雰囲気が苦手で再度黙秘を貫いた。次にロキが誰に頼まれるでもなく自分から聞きにきたので教えてやると、ニヤニヤと笑って「頑張れ」と言ってくれた。シャナにはまったく意味が分からない。







【 4:不幸の満潮 】







教室で受ける授業は退屈だった。シャナは死者の魂を直に読み取って、楽園へ行くべきでない者を誘っている。人間の生き様はいやというほどみてきたし、文化もそれなりに分かっている。知っていることを格式張った言葉で再度教わるというのは、退屈以外の何者でもない。
特に教師を務めているトトは叡智の神であるせいか、噛み砕いた説明というのが苦手らしい。いちいち授業を止めて質問をするのも面倒なので、シャナはひたすら黒板という板に書かれたトトの解説をノートに書き写す作業を続けるばかりだ。


「よって、このXにYを代入することで解を得ることが可能である」


今日は数学なのでまだマシだが、時折人間の文化についてよく分からない奇妙な角度から授業を行う。トトの頭のなかは本当に訳がわからない。

シャナは退屈になってきて、そっと視線をハデスへと向けた。真面目に授業を受けているらしいハデスは、黒板とノートとの間で視線を行き来させてペンをひたすら動かしている。やはり彼は真面目だなと、シャナは心のなかでふうっとため息をついた。
ハデスを眺めることにも流石に飽きてきた頃、頭になにかがカサリと打つかった。落ちていくそれを反射的に拾うと、何か書き込みがされているプリントのようだった。授業中なのであまり音をたてぬように開いてみると、ロキからの手紙のようだった。


『はぁーい、恋愛初心者のシャナお嬢様♪
 オレから特別にイーコト教えてアゲルよ。
 デスは、多分しっかり言わなくちゃ駄目☆ シャナの好意に気づいても「自分の側に置いたら不幸になる」って思って遠ざけちゃうから。本当にデスと幸せになりたいなら、直球コミュニケーションでいかないとネ!
 面白い展開、期待してるヨー(*ゝv@*)゚+.*:*☆

     親愛なるシャナへ XXX 貴女の王子ロキより』


「…………」


シャナは困惑した。
ハデスの「ハ」が足りていないのはわざとなのか分からないし、文章の最後についている星マークやら音符マークやらは何を意味しているのだろう。それに手紙の最後にある記号の羅列は…顔に見えなくもない。×がたくさん並んでいる意味も分からないし、それにロキは王子ではなくてただの悪神だ。
ともかく、シャナは芸術的で先進的なその手紙を丁寧にたたむと教科書に挟んだ。記号を置いておいて考えると、つまりロキはハデスに直接「会いたい」と言え、と言ってきている。それを実行すべきなのかどうか、考えなくてはならない。


(しかし、ハデスに突然「夜も会いたい」などと言っては困らせるのではないだろうか…。そもそもロキの言うことを信用してもいいのかどうかも分からぬ。思った以上に難題だな、これは…)


シャナが真剣に悩んでるうちに午前の授業が終わりチャイムがなった。チャイムが鳴り終わる頃にはすでに教室に居なくなってるトトに驚きつつ、シャナは昼食を仕入れるべく購買へ向かおうと席をたった。
するとどうしたのか、ロキがぴょこぴょこと跳ねるようにしてやってきて、シャナの手をとってニンマリと笑った。


「ほーらほら、さっさと行かないと購買のパンなくなっちゃうよォ?」

「え、ちょっと、引っ張るなロキ!」


何故かテンションの高いロキに腕を引かれ、半分転がるようにしてシャナは購買へと連行された。お昼にはハデスに声をかけてみたいと思っていたのに、これでは話が出来ない。とはいえロキがこうして気にかけてくれるのは嬉しく、どうしたものかと困惑のため息が溢れる。
こういうタイプには気が済むまで一度付き合ってやるのが一番だろうと、シャナは大人しくロキに従うことにした。



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