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ハデスが帰った後、何をどうしたのかよく覚えていないが、よく朝目が覚めたシャナは昨日の慣性で制服に着替え、授業に十分間に合う時間に外へと出てきてしまった。自分でもどうしてこんなことをしているのかよく分からない。
昨夜の言葉を思い出す限り、「自分と居ると不幸にしてしまうからもう来ない」ということだ。つまり教室へ言っても関わりを持ってくれるかは分からない。それでもシャナの足は勝手に学校の校舎へと向かってしまう。

朝の学校へ来て驚いたのは、生徒の数だ。神々が10人程居ることは知っていたが、視界にはその何倍もの生徒が居るように見える。


「魂がない…まがい物の人間?こいつら精霊を人間の形にしているだけか」


ゼウスが何かの理由で創りだしたのだろうなと納得し、シャナはソロソロっと怪しい足取りで教室を目指した。その様子が面白いのか、時折精霊たちがこちらに視線を投げてくる。
と、背後から大声が響いた。


「あ〜、シャナじゃん、何やってるのサ!」


背後からの大声に両肩をびくりと持ち上げると、驚愕のあまりカチカチになりながらぎこちなく振り返った。


「ろ、ロキか…おはよう……ございます」

「おはよ。で、何してるワケ?シャナだけはずっと反抗続けてくれるのかと思ってたんだけど、オレの読み違い?」

「や、私はただ…散歩に…」

「ま、どーでもいいや♪さーて、教室入ろうヨ!」


ロキは何やらにやりと意地悪く口角を持ち上げると、シャナの両肩をがっしりとつかんで教室へと連れ込んだ。すでに教室へ来ていたらしい金髪の男神が二人と、紫色の髪の毛をした男神はロキの前に立たされたシャナを見て目を丸くした。
金髪の男神二人の方は、シャナはどうも受け付けない感じがする。明るくて輝かしい感じが、どうも肌に合わないような感じがした。逆に紫髪の男性は静かで冷たくて清らかな雰囲気に好感が持てた。


「あれ、ロキロキ?もしかしてその子が、その子が噂の女神さまなのかい?」

「ロキがずっと話をしてくれていたけれど、聞いていたよりもとても素敵な女性だね。私はバルドル・フリングホルニ。よろしくね」

「あ、僕はアポロン、アポロン・アガナ・ベレアだよ。よろしく!」


明るく自己紹介してきた二人は、やはりシャナには眩しいし関わりづらく感じてしまう。ロキが付け加えるように、金髪で長髪の男性がバルドルで北欧神話の神、アポロンはギリシャの神であると教えてくれた。シャナはこちらも自己紹介を返さなくてはと、どうにかこうにか喋る。


「私は、シャナだ。マヤ神話の冥府の神に仕えている。」

「俺は戸塚月人です。よろしくお願いいたします。」

「戸塚兄は日本神話の月の神様なんだって〜」


紫髪の自己紹介にまたも補足を入れてくれたロキにお礼を言うと、シャナはもう帰りたくて心細くて涙がこぼれそうだった。知らない神ばかりに囲まれるのはこんなにも心細いのかと、シャナはとりあえずロキの背中に回って制服をしっかりと握って固定すると盾にした。


「あーらら、シャナってば怖がってるのォ?かーわいいじゃん♪」

「うるさいっ!だいたい、お前が私を無理に連れてくるから悪いんだろう!私は帰るからな!」

「オレは別に構わないけどォ、せっかく教室へ来たのに何もせずに帰ったら、デスが可哀想じゃナイ?」

「デス…?ハデスのことか?」

「そうそう。デスってばいくら他の連中に言われたからって、毎日説得しにいくの、骨が折れたと思うのよ?」

「何!?骨折したのか!?私のせいでっ?」


シャナが慌てる様が面白いのかお腹を抱えて笑い出すロキと、それを笑顔で宥めるバルドルと、同じように笑い出すアポロンと見守るだけの月人。居心地がいいとは言えない。
その居心地が良くないはずの空間が、すっと気温が下がったような気がした。途端に心地よくなるその感覚に出入り口を振り返ると、シャナの視界にハデスが入った。あぁ、場の空気が変わったのは彼のおかげなのかと、シャナは嬉しくなって頬を緩めた。
ハデスも教室にシャナが居ることに気づいたようで視線があう。驚いた顔の後に安心したような顔を見せてくれて、少しだけ教室へ来てよかったかもしれないと思うことができた。


「ハデス」

「俺に近寄るな、不幸になる」

「私をこれ以上不幸に出来るというのならやってみればいい。私はハデスが近くに居ないほうが居心地が悪くて不幸だぞ?」


シャナが教室へ来て感じたままのことを言うと、ハデスはこの世のものではない物を見るような目でこちらを見てくる。
どんな顔であろうと、シャナにはハデスがこちらをしっかり見てくれていることが嬉しくて、頬が緩んでしかたがない。によによとしていると、ロキに頬を摘まれたが許す気持ちになれた。


その日のシャナは結局、「絶対に帰らせてあげなァい☆」と豪語するロキに捕まり、空いていた席に座って授業を受けさせられることになった。




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