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トトは登った月を見上げて考える。
己の司る月は毎夜形を変えていく。移ろいゆく神秘的なものとして信仰を集めていたり、暦として利用されたりしている。しかしながら月の実体は常に球体であり、地上から見える形が太陽と地球のいち関係が生み出す影によって変わっているだけだ。
まるでシャナのようだな、とトトは柄にもなく憂鬱なため息をついた。

彼女は元は人間だ。悲惨な死を遂げた魂は救済される本来のルートから外れ、死者の生前の罪を咎める冥府へと流れ着いた。それは偶然ではなく彼女を殺した者たちが引き起こした必然で、シャナはそのことを知って人間を恨んだ。
それがなければ、ただ生贄としての人生を全うしたのだと心穏やかに楽園へと向かうことが出来ただろうに。


「死者を愚弄する者は裁かれるべきだが、国が違えば手は出せぬ。やはり国境を超えていても冥府同士は手を取り合うべきだとは思わぬか、アヌビス?」


背後に居た少年に問いかければ、少年は全くであるというように深く頷いた。


「カーバラバラ?カバラ、バラバラ!!(シャナは何も悪いことしてないのに地獄行き、シャナを殺した人間は神官だからって楽園行きでしょ?これだから人間は大嫌いだよ!!)」


鼻息あらく返された言葉に、今度はトトが全くだと頷いた。
シャナの真実を知る者はトトとアヌビス、それからゼウスのみだ。この事実に気づき彼女の手を差し伸べる者が現れれば、魂の救済になるのではないか?生前行えなかった年頃の女の子としての生活をすれば、少しでも気が楽になるのではないか?そんなゼウスの考えから呼び出された少女は、他の生徒の巻き添えでゼウスの雷をくらい、引きこもってしまったらしい。
トトが直接出向いても良かったのだが、はじめから事情を知る者が手を差し伸べても意味はないだろう。それはただの同情に見えてしまうだろうから。


「『救い』とは難しいものだ」


トトはカーテンを閉めると、就寝すべく身支度を整えるために窓を離れた。この箱庭の月がシャナという小さな神を見守ってくれるようにと祈りながら。













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2014/08/07 今昔
アンケで圧倒的人気を誇っていた神あその新連載です。
魔法科高校と平行で進むので速度はゆっくりめですが、保健室の方ではお相手でなかったハデスをお相手に進めていきたいと思います。
どうぞ、こちらの作品もよろしくお願いいたします。




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