癸の祭りから一ヶ月。相変わらず里内でのみCランク任務をこなしながら過ごしていた。
なにやら担当上忍であるクシナの理由で里から出る任務はしないらしく、ヨナガもこの一ヶ月で一度だけ里から出たが、それは癸の一行を隣の国まで送るという護衛任務だった。勿論ネギマやウマイも居たが、クシナは居らずミナト班との合同任務だった。
道中に食べたお団子が美味しかったな、なんて考えながら、ぷらぷらと木ノ葉の町を歩いていると、前方からオビトが歩いてくる。何やら荷物を持っていて、隣りにいるおばあさんと話し込んでいるようだ。
「オビト!」
「お、ヨナガじゃん!」
近寄ってお婆さんにこんにちはと声を掛けると、お婆さんはずいぶん驚いた様子で声をあげた。
ヨナガが戸惑っている間に両手をあわせてナムナムしたかと思うと、うっすら目を潤ませて続ける。
「まさか癸の姫さまに会えるとはねえ。長生きはするもんだ」
「ヨナガ、お前お姫様だったのか!?」
それって火影とどっちが偉いんだ!?などと喚くオビトと、ナムナムし続けるお婆さんにヨナガはため息をつきそうになった。
癸のお祭り以降、何やらヨナガたちつぼみ組の面々がやたらと売れるようになったのだ。
やはりヨナガを中心に考案したあのゲリラライブが良かったのだろうか。大人たちも褒めてくれるし、何よりまだ若い世代の一軍「花組」が負けられないと気合を入れてくれたのが嬉しい。
「それはこの前のお祭りでついたアダ名だよ。私は確かに当主の娘だけど、それだけだから」
「当主の娘って…それスゲーじゃん!いいなー!」
うちは当主と比べたらそれほどでもないように思うのだが、オビトのテンションはすっかり上がってしまっている。
「お婆さん、どこか行く途中だったんじゃありません?私も一緒に行きますよ」
「ありがたいことだねえ、オビトちゃん、三人で行こうかねえ」
「はい!」
町中を歩いていて聞こえてくるのは、先日の癸の祭りのことや、任務で長く外へ出ていた自来也様が帰ってきたことだ。
お婆さんを無事に送り届けたヨナガとオビトは二人で煎餅を食べに行くことにした。同世代の子供は勿論、大人にも大人気のお店でヨナガは海苔醤油を、オビトはざらめを買う。
「そういえばよ、オレ、癸の祭りで花組の舞台見れたんだぜ!」
「そうなの?警備がそのあたりだったのかな?運が良かったね」
「ああ、美人なねーちゃんがたくさんですごかった!」
頭の悪そうな感想だな。
と思いはしたものの、思考が回らないくらい魅了されてもらえるのは、演じる側としては嬉しいことだろう。花組のお姉さんたちに伝えるねと言えば、オビトはなんだか楽しそうだった。
オビトが先に煎餅を食べきる頃に、オビトは前方を見てあっと声をあげた。そして何やら焦ったように煎餅の包み紙をポケットへしまう。
「リンだ!」
「ああ…本当だ。」
オビトがそわそわと前方とヨナガを見比べる。
その様子に、ヨナガはうなずいた。
「オビトってば、やっぱりリンのこと好きなんだね」
「っ!!お、おれ…おれは!」
「恥じることじゃなあないでしょ?誰かを大切に思えるのは大事なことだよ」
今まで一緒に居たヨナガを置いてリンのところへ行くのが躊躇われるのだろうか。オビトはそこまで言っても動こうか動かまいか悩んでいるようだった。
好きな人と友達を天秤にかけてくれるのは嬉しいが、こちらの罪悪感も大きい。
「リンのところ、行っておいでよ」
「いいのか!?」
「いいよ
「ああああああああ!!!!!」
オビトの大声にびくっと両肩をあげると、忍具店の前に居たリンが店頭に駆け寄り、そして店内からカカシが出てきた。
大声に気づいたらしい二人が顔をあげ、カカシは軽く手をあげてくれる。リンの方もにこりと微笑んで手を振ってくれた。
どうやら癸の祭りのおかげでヨナガに対してのちょっとした敵対心のようなものは抜け落ちたらしい。やはりそれだけ一座の演技が素晴らしかったのだろうなと、ヨナガはちょっとだけ誇らしかった。
「リン、カカシ。二人とも忍具の補充?」
「まあね。私はクナイを見たくって。支給されるものより投げやすいもの、ないかなって」
リンの女の子らしい小さな手では、確かに支給品よりやや小さいものが持ちやすいのかもしれない。
「そうだヨナガ。このあと癸へ入っても良いか?」
「カカシは何を探してるの?」
「傷薬。小さい使い切りで、この前買った薬が一番良かったから」
「ああ、この前のね!」
癸の町で一緒に見た薬種問屋を思い出し、確かあそこの技術は水の国のものを応用しているから、木ノ葉のとは少し違っているんだろうなと、内心でだけ納得した。いくら子供同士でも癸の持っているものを披露するのはよろしくない。
癸が披露して良いのは演技だけだ。
「オビトとヨナガは何をしてたの?」
「オレたちはサトコお婆さんの荷物運んであげて、そんで煎餅食べてた!」
ヨナガの持つお煎餅を見て、リンは美味しそう!と歓声をあげた。ヨナガが一口勧めて食べてもらうと、更に美味しい!と声があがる。
隣でオビトが「どうして女の子って分け合いっこが好きなんだろう」と呟いて、「女の子ってのは独自の文化があるからね」と答えたカカシがなんだか面白かった。
オビトとヨナガが歩いていた理由が別にデートだとか、二人でお出かけで無いと説明できたのが嬉しいらしい。オビトはいかに自分が手伝いが好きでうまくやっているかをリンに語っている。
リンはそれを穏やかな顔で聞いていて、それでも意識はカカシにも向いているし、ヨナガのことも視界に入っている。
カカシはそんな二人を眺めながら優しい目をしているし、きっとそれはヨナガも同じだろう。
戦が絶えない時代に何を言うのだろうと自分でも思うけれど
「三人とずっと一緒に大きくなりたいね」
「…そーね」
カカシが否定せずに居てくれたことが嬉しかった。
2019/05/25 今昔
加筆修正
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