カカシと買い物をした翌日。
ヨナガは班員のウマイとネギマと共に訓練場へ来ていた。クシナが遅刻するタイプではないということと、三人の息をあわせるために、いつも任務や訓練前には集まってお喋りをするようにしていた。
些細なことでも良い。いつか一緒に任務へ出ることになった時には、どの班よりもチームプレイを華麗にするための施策だ。
「で、昨日は例の中忍になったカカシと一緒だったってわけか」
ネギマの黒髪は今日も艶やかに揺れている。俺のシャンプーも癸で買ったんだよな、と続けたネギマに、ヨナガも今度自分の町でシャンプーを買おうかと唸った。それほどに、男性であるにも関わらず、否、男性であるからこそネギマは美容にうるさい。
「噂をすれば、来たぜ」
ウマイに言われ訓練場の出入り口に目を向けると、カカシが先輩二人を見つけてひょこりと頭を下げるところだった。
「白い牙の息子か…今は大人たちからの風当たりが強いみたいだから、俺たち同世代と居る間くらいは、子供っぽく振る舞っててても良いのにな」
ぽつりと言ったウマイに、ヨナガは顔をしかめた。確かに、アカデミー時代よりもカカシはなんだかちょっと厳しくなっているような気がする。
寄ってきたカカシも交えて話していると、ミナト班のリンもやってきた。カカシの方を向いてにっこりし、先輩たちには頭を下げ、ヨナガの方にはきりっとした目を向ける。誰から見ても分かるくらい、リンはカカシが好きだ。同じ班になれてよかったねーと以前言ったこともあるのだが、リンはヨナガを恋敵のように見ている節もある。
「おはようございます」
「おはよう、リン。あとで紹介があると思うけど、私と同じ班で一期先輩のネギマとウマイ。二人とも、私の同期でリンです」
駆け寄ってきたリンは先輩二人に「のはらリンです」と頭を下げた。
集合時間の五分前に担当上忍の二人がやってきて、今日は三対三での模擬戦闘をすると聞かされた、どちらの班も組んでからの期間が同じなので、腕試しにはもってこいということだろう。
「クシナ班のみんなには突然で申し訳ないね。カカシの中忍昇進の話を聞いたよその班に断られちゃって…」
頭をかいたミナトにヨナガは苦笑した。負けるものかと焦ったのか、はたまた模擬戦闘で負けるのが嫌だったのか。その断った他所の班というのは、どちらなのだろう?
「大丈夫、私の教え子たちならそう簡単には負けないってばね!」
「クシナさん…それ結局負けるって言ってるようなものなんじゃありません?」
ネギマに言われたクシナはうぐっと詰まった後に、ま、負けないってばね…と尻すぼみに続けた。どうやらクシナとしてもミナト班はそこそこ強いということになるらしい。
ところが問題はミナト班の最後の一人であった。
集合時間の一分前の時点で、訓練場に現れない。カカシが苛々しているのか、指先が時折トントンと時を刻むように動いている。
「あと二十秒ですね」
「オビトのやつ…」
時計を見て言ったヨナガに、カカシが苛々を隠さずに続けた。
そして時計の針が六秒前を指した時、訓練場の入り口にドタバタと砂埃を巻き上げて、全然忍べていない様子のうちはオビトが顔を出した。
「ギリギリセーフ!!」
そう言って叫び、開け放たれた訓練場の扉には入らずこちらを見て誇らしげに笑い、
カチッ
「集合時間の九時になりました」
「間に合ってないから!何回目だ!!集合時間くらい守りなさいよ!」
本気で怒っているカカシに、苦笑いのリンとミナト。それを見て更に苦笑いはクシナ班にも伝染し、ヨナガだけは大きくため息をついた。同期だからこそ知っている。オビトは入学式にも遅刻している。
卒業しても一切成長していないことに、もう一度大きくため息をつく。
「いや、途中に木から降りられなくなってるネコとその飼主の女の子が居たからさぁ」
「オビト、良いことしてるからしょうがない。これは訓練だからまだ良かったけど、任務に出るようになったらそれじゃ駄目よ?」
「ヨナガの言う通り。忍たるものルールや掟を守れ」
カカシがなにか言う前に穏やかに伝えて止めたはずだったのに、ヨナガのことはお構いなしにむしろきつく言うカカシに、今度はミナトがため息をついた。
「二人とも、今日はそこまで。せっかく同期が居る班の中で成績トップのクシナ班と合同訓練できるんだから、時間を無駄にできないよ」
「……」
「ほら、クシナさん、さっそく始めましょう。こっちだって、同世代の班に負けたくないんですから!」
カカシがオビトへ追撃する前にヨナガはクシナを見上げた。
今日は広めの訓練場をまるっと使って対戦形式で行うらしい。百メートル四方の敷地内での班総力戦だ。
「こっちから戦闘不能の判断を下すか、参ったの一言で退場だ。まずは一回対戦してみて、決着がついたら集合して反省会だよ。さあ、左右に別れてまずは作戦タイム!」
ミナトの掛け声で両チームは左右へ散って、額を突き合わせた。
「ヨナガ、あの子たちの能力を簡単に教えてくれ」
「リンは医療忍術が中心になってくると思います。チャクラコントロールは得意なので、小技をうまくハメられないように注意。カカシは何でもできるので正直相手にすべきか悩みます。オビトは…うん。ね?」
「はっきり言えよ」
「ウマイ落ち着いて!オビトはもう言うことないくらい、成績ドベ!根性だけはあるから面倒なタイプ」
ネギマが目を閉じて戦略を練り始めたらしい。
完全に肉体派で火遁をベースにした体術が得意な近距離タイプのウマイ。幻術と火遁が好きなネギマ。そして…
「ヨナガ、あっちに血継限界を見せたことは?」
「直接はありません。単に、剣術が強いと思われていることでしょう」
ヨナガは腰に持っている脇差に手を載せた。本来この歳の子供が扱うには重たすぎるだろう刀剣も、チャクラコントロールができる忍ならば扱える。癸(みずのと)の家紋が彫られたそれは、癸一座の一人として仲間入りを果たした印のものでもある。
「よし、ヨナガの血継限界『抜剣乱舞』を中心に策を練る!」
「俺はどうする?」
「できればオビトとリンちゃんを払い除けてくれ。追って俺が幻術をさくっとかける。そのスキを作るために、ヨナガはまずカカシとやりあいに行ってくれ。上手に剣術と体術が絡めば、お得意の『舞』に持ち込めるだろう?」
ネギマにウマイとヨナガが大きくうなずくと、三人は立ち上がった。
「よし、クシナ班。優雅に華麗に行くよ!」
「清く正しくだ」
「緻密に素早く、です」
バラバラだけど大丈夫?というミナトの言葉を背後に、三人は拳をぶつけあった。
2019/05/24 今昔
加筆修正
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