「今日からしばらく、他班との合同訓練を交えるってばね!」


自分の担当上忍であるクシナに言われ、ヨナガを含む班員は「はあ?」と気の抜けた返事をするしかなかった。
アカデミーを卒業してしばし。ヨナガは一年先輩である下忍の少年二人とともに、うずまきクシナという上忍の元でフォーマンセルを組んでいる。担当上忍はヨナガもよく知るうずまき一族の人間だそうで、彼女を見るたびに自分の忍服にも描かれているうずまきの印がなんだか意味の深いものに感じられてくる。あの真っ赤な髪の毛も、少しだけ羨ましい。以前これを言ったら「ヨナガの髪の毛も羨ましいわよ。無いものねだりだってばね」と口癖とともに言われたので、恐らくは彼女の言うとおりに無いものねだりなのだろう。


「他班、というと不特定の班と対戦をしていくということですか?」


幻術使いの見習いである鳥野ネギマが言えば、クシナは人差し指を振って否と答えた。ネギマが小首をかしげ、きれいな黒髪が揺れる。


「ミナト班と一緒に訓練になるわ。うちには医療忍者が居ないことと、あっちの班員が一人中忍になったから、良い機会だと思ってね」


ネギマと共に、ネギマの同期である牛島ウマイがうなずいた。
ヨナガだけはその中忍になった人というのが誰なのかはっきりと分かっていたため、なんとなくリアクションに困ってしまった。

はたけカカシ。
アカデミーの同期でひとつ年下。同時に下忍になったのに、彼はもう中忍になってしまったらしい。アカデミー時代は日に一回は喋る程度の仲だったこともあり、なんだか置いてけぼりのように感じてしまう。
けれどここは負けているわけにも行かないので、一拍遅れてヨナガも大きくうなずいた。


「よし、それじゃあひとまず今日は解散!明日はさっそくミナト班と合同訓練だから、遅れちゃだめよ!」


野生の動物から畑を守る、という今日の任務の報告書をペラペラと振ってクシナは案内所の方へ去っていった。ネギマとウマイは二人で同期の男子で集まるというので、ヨナガは一人であるき始めた。

木の葉の里の片隅。正確には里の所有地から外にはみ出した場所に、ヨナガの自宅がある。一族の中でも忍になったものは木ノ葉隠れの一員となるが、基本的にヨナガの一族は木ノ葉の者ではない。
一族のものが住まう場所へは塀と門があり、門には家紋の旗が掲げられている。門番代わりに置かれているのは、初代の当主であった女性が化の術でよく化けていたという尾に鈴のついた蛇だ。うちは一族の土地にも同じような入り口があるが、あちらよりもこちらの方が少々おどろおどろしい。

今日はその蛇の横に影に馴染むように立っている少年が居た。


「おかえり」

「ただいま。どうしたの?中、入ってても良いのに」

「俺は一族じゃないし、どうかと思ってね」


朗らかに言うカカシに、ヨナガもにっこりと返した。


「癸の一族って開放的だけど内向的な感じがするから、ヨナガが居ないと入りづらいよ」

「そう?私のお父さんだってうちはからここへ来たわけだし、内向的ってほどじゃないと思うんだけどなあ」


重力に逆らう髪の毛をひょっこり揺らして、カカシは門をくぐるヨナガに並んだ。中央の大きな通路の先に、同じく大きな屋敷が見える。あれがヨナガの自宅でもある癸の一座の座長が暮らす家だ。
ただし、帰っても家事手伝いの女性が数人居るだけだ。ヨナガの母も父も公演のために他所へ出ている。


「今日はどんな用事だったの?」

「薬が買いたくて。」


カカシに言われ、途中で道を曲がる。
火の国に定住しているものの、癸の一族の本業は「芸人」である。つまり、様々な土地に出向いて芸事を披露することで生計を立てているのだ。他の国の情勢は手に入りやすいし、物流や技術についても同じだ。恐らく火の国のどこよりも、様々なモノが手に入るだろう。
それ故かカカシは勿論、同期でカカシの班員にもなったリン、オビトなども稀に来るらしい。

町中を歩いていくと、どこかしこから楽器の音が聞こえてくる。練習中の子供たちであったり、客寄せのために大人が練習していたりするのだ。まばらだったその音は誰かが有名な曲を演奏しはじめると、それにあわせて他の者もその曲に切り替える。
そして町を巻き込んで大きな合奏となるのだ。
ヨナガはそんな町が大好きだった。

薬種問屋に着くと、カカシは傷薬の棚を見ている。
ヨナガは特に欲しいものもないし、カカシも一人でじっくり見たいタイプらしいので、別の棚を見上げた。「くノ一御用達!!色香をあげるにはコレ!癸イチオシの媚薬香水♪」のポップが揺れている。色っぽいデザインの瓶が並び、赤、紫、ピンク、白で香りが異なるらしい。気になったので一つレジへ持っていくと、店番をしていた女性に微笑まれた。


「デートでコレを買うだなんて、お嬢も大きくなりましたねえ」

「……ちょっと気になっただけだし、デートじゃないって!…でも母さまには内緒よ?」

「はいはい」


紙袋に入れてもらったタイミングで背後の棚を回り込んできたカカシに、ヨナガは辛うじて見られずに済んだとほっと息をつきそうになり、どうにかこらえた。けれどきっと、優秀な彼にはなにかあったんだろうな、とバレているのだろう。


「カカシは決まった?」

「ああ、これ。家に置いておこうと思って」

「それ、人気なやつだよ」

「そうなんだ」


カカシの会計も済ませると二人はふらっと、癸の町へ歩き出した。
何をするでもなくおやつを買い歩き、町の人達とおしゃべりをする。ただただ、二人で過ごす時間は何をしていても楽しかった。







2019/05/24 今昔
加筆修正
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