クシナ班は中忍が二人になったことで、請け負う任務のランクが少しだけあがった。ウマイも戦略が練れれば中忍と言われたくらいなので、クシナも遠慮なくCランクを持ってくるし、時折Bランクが交じるようになった。

しかしながら、クシナには「とある理由」があるそうで、里の外へは出られない。
今回のBランク任務は忍具の商人を川の国へ送り届けることだ。取り付けてきたクシナからは、またしてもミナト班との合同任務だと言われている。

またか、と思いはしても、そもそもクシナは外へ行けないし、商人の数が多いのでこれくらいの人数でちょうど良いらしい。無事に往路を終えて人数のちょうど良さ、そして指揮系統がミナトに集約されていることの良さを認識できた。このまま復路も終えれば無事にBランク任務完了となる。


「じゃあ、帰りもよろしく頼むよ、みんな」

「「「はい!」」」


さっそくお祝いにもらった忍服に癸の羽織、それからカカシにもらった口布を着用して任務に来てみたものの、残念ながらリンはいつもの忍服だった。同じ女の子からみても綺麗な足だなあと思うくらいなので、あの忍服が似合うから特に気にすることもないか、とヨナガは任務に頭を切り替えた。


「それじゃあ女の子二人は隊の後方を頼むよ。ネギマとカカシはそれぞれ左右前方で周囲の警戒にあたってくれ」

「「はい」」


二人が出ていくと商人の隊列も進み出し、遅れながらリンとヨナガも歩き出した。


「大雨とかじゃなくてよかったね。」

「…ああ、うん、そうだね」


ひどく適当な返事に、ヨナガはびっくりしてリンを振り返った。


「リン、なにかあった?」

「別に、何でもないよ。…それに何かあったのは」


何が言いたいのかいまいち要領を得ないが、リンにだって気分の乗らない日くらいあるだろう。聖人君子のような子だと人気だけれど、でも彼女だって一人の人間なのだから。

その復路で襲ってきた盗賊団を上手いこと退けたばかりでなく、カカシとヨナガが生け捕りにできた相手が頭領だったそうで、二人は報告後に珍しくハイタッチで喜びを分かち合った。このせいですっかりリンの違和感は頭から抜け落ちてしまっていた。
ところがそれはとんだ思い違いだと、ヨナガはこのしばらく後に思い知ることになった。




季節流れ、ヨナガが十二歳になる年にリンとウマイ、そしてオビトも中忍になった。
勿論いつもの六人でお互いにお祝いを贈ったが、ヨナガたちの同期はそれどころではなかった。
その翌年に入ると、あの盗賊団を捕らえたことをはじめ、今までの功績が認められたカカシが史上最年少記録であろう十二歳で上忍に昇進することになったのだ。

大婆様から呼び出されたヨナガとカカシは、何事かとびくびくしながら行ったものの、単にカカシの昇進を聞きつけただけであった。お祝いにとお昼ご飯に和食を一式食べさせてもらって、癸製品のクナイをもらって解散になった。
私からのお祝いは何が良いか考えておいてね!とヨナガがカカシを見送って癸方面へ戻る途中、花屋でオビトを見つけた。


「オビト!」

「お、ヨナガ!」


赤い花束をちょうど店員から受け取ったオビトは、慌ただしくお金の支払を済ませてこちらへ走ってくる。落ち着いて良いよーと叫ぶと歩調は緩まったけれど、それでもやはり駆け足と呼べる速度だった。
オビトは変に律儀だよなあと思っていると、眼の前にやってきた彼が満面の笑みで言う。


「なあ、女の子だったらこれ貰って嬉しいかな?」

「うーん、一般論で言えば喜ばれると思うけど、それ私に聞いちゃ駄目じゃない?リンにあげるんでしょ」

「うっ…いやでも、ほら、やっぱり気になるっていうか…」

「もしかして…」


いつも以上にもぞもぞしているオビトを見て、ヨナガはぴんときた。無事に中忍になって緑のベストももらえたことだし、きっとオビトは


「それを渡して告白でもするの?」

「実はな………そうなんだよ!この後公園に呼び出されてて…」

「あれ、それって…?リンってばてっきりカカシが、あ、ごめん」


オビトもリンがカカシをよく見ていることには気づいているようで、苦笑いが帰ってきた。


「いや、いいんだ。それに肝心のカカシはずっとヨナガのこと見てるからな」

「あー…そうなの?」


実は癸の掟で…だなんて言うことはできず、ヨナガは知らなかったことを聞いて気まずいというようなリアクションでごまかした。


「カカシのことはおいといて、告白するなら、頑張ってね。緊張しても噛まないように!」

「おう!応援しててくれよな!」



ヨナガはオビトを見送ると、カカシに贈る上忍の昇進祝いを考えるべく町中をうろうろすることにした。
きっと実用的なものをほしがるだろうし、もしかしたら本なんかも喜んでもらえるかもしれない。プレゼントを考える時間はなんだか楽しくって、口元を覆う布に自然と手が伸びた。

ある程度目星をつけたところでお団子とお茶を楽しんでいると、ハッとオビトのことを思い出した。告白はうまくいっただろうか。なんとなく気になったヨナガはオビトが言っていた公園へ足を向けた。

オビトが言った公園は入ると、オビトが一人で座り込んでいるのが見えた。その様子からして成功したようには見えない。ヨナガは近くの自販機で飲み物を適当にふたつ買うと、オビトの近くへ向かった。


「はい、お疲れ様」

「ヨナガ…ありがと」

「その様子だと…」


隣に腰掛け飲み物を開けるために顔をあげれば、ゴミ箱に入った花束が見える。
あちゃーとヨナガが思っていると、オビトから一枚の紙切れを渡された。手書きらしきそれは「同期メンバーでカカシ上忍就任を祝うプレゼント企画(極秘任務)」と書かれている。


「もしかして、今日の呼び出しはこれ…?」

「ああ…オレだけじゃなくて、アスマやリー、紅やみんな居た。オレ舞い上がって馬鹿みたいだ。それで……ちょっとだけ嫌になって聞いちまったんだよ、『ヨナガはなんで来ないんだ』って」

「そうだねえ、私も同期のはずだもんね。あとで言おうとしてたとか?」

「違う…リンは最初からこれにヨナガを呼ぶつもりが無いみたいだった。」


えっという声さえでなかった。


「それで…オレ訳がわからなくて、悔しくて、バカみたいで…走って逃げちまったんだ。で、今になって戻ってきたけど、やっぱり誰も居なくて」


舞い上がっていたのはヨナガも同じだったのだ。妹みたいに思って可愛く思って、大事に思っていたはずなのに。どこでリンを傷つけていたのだろう。
頭がうまく働かなくて、ヨナガとオビトは日が暮れるまでずっと黙って座っていた。隣に誰かが居るというだけで、少しだけ落ち着くような気がした。










2019/05/28 今昔
加筆修正
…していて気づいたのですが、漫画の回想シーンだとカカシの中忍合格の半年後にオビトももう中忍になっているようにも見えますね。
時系列がよく分からないことになっていて、申し訳ございません。





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