忍具を取り扱う店は木の葉のどこにでもあるといっても良いけれど、忍服の店というのは案外少ないようだ。ヨナガはカカシに連れられて歩きながらそう思った。
正確に言えば、ヨナガの隣にカカシ、その前にはネギマとウマイ、ヨナガたちの後ろにはオビトとリンも居る。
「ねえヨナガ、私もひとつお揃いで買っても良いかな?」
「もちろん!これからも合同でやれますようにっていう祈願で!」
後ろからの声に振り返りながら答えると、リンも嬉しそうに微笑んでくれた。
何を隠そう、今日は無事に中忍試験を合格したヨナガとネギマの合格祝いに出てきたのだ。残念ながら不合格となったウマイは、次回はオビトたちと組んで試験を受けると今から意気込んでいるので、心のダメージはうまくバネにできているようだった。
ネギマには癸で美容品を贈り、この後は木の葉へ戻ってきてヨナガに忍服をプレゼントするというのが本日の内容だ。
「でも、それにしても何で私は忍服?ネギマは好きなもの選んだのに」
「あ〜僕はまあヨナガにだって美容品で良いと思うんだよ?…でも、ね、カカシ!」
「何でそこでオレにふるのよ。」
「カカシが言い出したんだろ!」
ネギマに促され、オビトにトドメをさされたカカシは面倒そうにため息をついている。リンとウマイは苦笑いで、ヨナガにはさっぱり意味がわからない。
でも中忍以上に支給されるあのジャケットに合わせた正規の服以外にも、やはり癸の着物以外も持っていたかったでちょうど良かったと思うことにする。
「さて、僕のおすすめはここかな。僕のこの着物もここで買ったんだ」
どどーんと百合の花があしらわれた看板に、上品な服がたくさん並ぶ2階建ての建物。リンとヨナガはおおおおおっと感嘆の声をあげた。
「ここの二階が忍服売り場なんだ。普通の布より丈夫なものを売ってるし、隠しポケットや鉄板が入った服、それに要望があれば仕込み武器ようにオーダーメイドもしてくれる。」
「至れり尽くせりなんだね」
ヨナガよりはしゃいでいるリンに引かれ、一行はいらっしゃいませーの声を背景に二階へとあがる。
リンとお揃いでというリクエストだったので、二人に似合いそうな忍服を探していく。もっとも何でも似合うリンは試着をしてみても何でも着こなしてしまうが、ヨナガには問題があった。
(子供サイズだと胸が苦しい…)
最初にオビトが似合いそうだと持ってきたピッタリとした服を試着してみたのだが、それを見た男性陣のリアクションには困るものがあった。
「却下。美しくない」
「ヨナガって…ヨナガって…」
「オビト、落ち着け」
「これはこれで良いんじゃないの?」
テンションがあがるオビトを抑えるウマイの後ろで、氷点下の真顔のネギマが怖い。カカシだけは及第点と言ってくれたが男子の感性はよく分からない。
隣の試着室から出てきたリンにも聞いてみようと声をかけると、リンもまたピタリと止まってしまった。
「う、羨ましい…!ヨナガってセクシーだもんね………」
自分の胸元を見て止まってしまったリンを見て、ようやく男子たちのリアクションの意味を悟り、ヨナガはじとーっとオビトを睨みつけた。
「大丈夫だよ、私のほうがリンよりひとつ年上だし。こればっかりは遺伝もあるだろうから、最終形態がどうなるか分からないよ」
「そうかなあ…」
「それにスレンダーな子が好みって男の子も多いだろうし」
うんうんと必死に頷くオビトに、ヨナガは着替えるねと次の一着を手に試着室へ戻った。
次はカカシが選んでくれたものだ。なお、ネギマのものは綺麗なのだが柄が大きく入っているのでやめた。多分美しさだけで持ってきたのだろうそれは、戦場で着るには少々どころではなく目立つ。
ウマイのものはオビトとどっこいなので論外だ。
「あ、これ良さそう」
ぴったりとした合わせ襟のノースリーブに、セットで肘上まである手袋。腰はぎゅっと薄手の帯で締めて、下は短い丈で太ももが少し膨らんだズボンに、前と後ろに長い布がたれている。
ひょこっと試着室から顔だけを覗かせると、店内を物色していた男子たちの中でカカシが振り返った。
「どう?」
「良さそう。私これにする」
「…そう」
カカシの前に姿を現すと、少しだけ目つきが柔らかくなった。口布の上からでは分からないけれど、もしかしたら微笑んでいるのかもしれない。
「私もちょうど良さそうだよ」
ヨナガとは色と形が少し違うそれを着て出てきたリンは、ヨナガから見てもとんでもなく可愛い。こんな妹が居たら休日のお買い物も楽しいだろうにと、ついそんなことを思ってしまうくらいに可愛い。
「リン、可愛いね!妹にしたいくらい!」
「本当?嬉しい!私もヨナガと姉妹だったら楽しいだろうなって思う!」
二人はによによと笑いあいながら、一旦私服に戻り、揃いのそれをリンは自分で、ヨナガの分は周りの皆が割り勘で支払いをした。ヨナガがお礼を言うと、誰もが嬉しそうに微笑んでくれたので、ついつい楽しくなって夕飯を食べて帰ろうと提案した。
ちょうど忍服を買っていたのが木の葉の中心地だったので、このあたりで食べれば誰でも帰りやすい。
最近ウマイがはまっているという焼き鳥屋で色々と楽しんだ後、六人はそれぞれの家路についた。リンとオビトが同じ方向へ、ネギマとウマイが同じ方へ。
そして皆を見送りながら歩きだしたヨナガの横にカカシが並んだ。
「カカシ、こっちだっけ?リンたちと同じ方じゃないの?」
「ちょっと冷たいんじゃない、ヨナガ」
「いや、純粋に謎で」
止まったヨナガに、カカシは小さな包を取り出した。先程買い物をした忍服のお店と同じ袋だ。百合の花の印刷がしてある小さな紙袋。
「オレから、中忍昇進のお祝い」
「えっ!だって皆からって忍服買ってもらったのに!」
「いーの、受け取りなさい。ま、将来のお嫁さんかもしれないんだから、先行投資しても良いでしょ」
「およめ…さ…」
カアっと熱をもった頬をごまかすように、ヨナガは開けても良い?と尋ねて了承を得るとそっと紙袋を開けてみた。
重量はそんなに無いと思っていたが、開くと黒っぽい布が出てきた。片隅に小さく癸の紋にも似た蛇と、それから雷のような模様が刺繍してある。
「これって」
広げると、口布のようだった。カカシがしているようなタイプとはまた違う、金具が上部に取り付けられていて、頭の後ろで縛れば口元にカーテンがかかるようなタイプだ。
「可愛い」
「…使えるもので、柄が似合いそうだったから」
「ありがとう、嬉しい。今度の任務からさっそく使う」
誰かから、自分個人を見てもらったプレゼントは初めてな気がした。
癸の芸人である以上、贈り物はかなりの量が届く。けれどどれも、誰かが「自分が贈りたくて贈るもの」がとても多いのだ。清楚な香水、可愛い簪、綺麗なネイル。
今までのプレゼントだって嬉しかったけれど、これは格別で、ヨナガはもう頬が蕩け落ちそうで眉尻を下げるしかなった。
「大事にするね」
「ああ」
結局、カカシと別れて帰宅した後もにやにやは収まらず、何があったと楽しげな母親から追求されることになった。
あまりに舞い上がっていたヤヨイは、背後で一人、カカシとのやりとりを見ている人が居ただなんで気づきもしなかった。
2019/05/28 今昔
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