ヨナガの修行内容はこれまでと少しだけ路線変更されていた。
カカシから受け取ったチャクラは消えることなく、むしろ寝て起きる度に増え続けているように感じる。能力に関する資料はろくすっぽ無いため、全てが手探りなのだ。

クシナにその増え続ける感覚を説明すると、睡眠という肉体活動に余計なチャクラを使わなくても良い間に、カカシのチャクラを少しずつ増やしているのではないかということだ。こればかりは、クシナが持っているうずまき一族の情報を持ってしてもわからなかった。


「それじゃあ、明日は頑張って来てね!最終試験まで残れたら見に行くってばね!」


そう言い残したクシナが去ると、今日は班単独での任務だったネギマとウマイがほっと息をついた。今日は里内に入り込んだ害獣の駆除。男手だとこき使われた二人はずいぶんとつらそうだ。


「二人とも、明日は中忍試験の日だし、ご飯食べて帰ろう?」

「そうだな、ヨナガもたまには僕らのことをよく見て良いこと言うね。たまには」


そんなに先輩二人に対して冷たくしているつもりはないのだけれど、ヨナガは笑ってごまかすと二人を急かして最近よく皆で行く定食屋へと急いだ。

中忍試験はスリーマンセルで受けることになるし、最後に三人で食事をしておくことは大切だと思ったのだ。
受付所から木の葉の町中へ歩いていくと、大通りより少しアカデミーの方へずれた場所に、最近のクシナ班お気に入り和食屋がある。まず白米が美味しいのが特徴で、旬の食材をつかった料理はどれも捨てがたい。クシナが居ればシェアができるのだが、流石に男性相手に互いに注文したおかずシェアの申し込みはしがたい。

のれんをくぐり戸をあけると、「っらしゃいせー」といつもの声が聞こえる。店員の男性がもはや顔を覚えたぞと言わんばかりに微笑んでくれたので、三人は意気揚々と中へ入った。
チャクラもそこそこに使っているので早くご飯が食べたい。今日は焼鮭かサンマの定食にしようか。


「あれ、ヨナガ!」


店の奥からの声に三人が振り返ると、並んでテーブルに座るミナト班の四人が居た。
手前の窓際にリン、隣はカカシ。リンの向かいにオビトで隣がミナトという席次に、ヨナガは「リンもオビトもわかりやすいなあ」と心の中で呟いた。

離れて座るのも変なので、クシナ班の三人はミナト班の隣のテーブルへと腰を落ち着けることにした。
カカシのすぐよこにヨナガ、反対側のミナトの隣にネギマとウマイだ。クシナと仲良く甘味をはんぶんこするために、女性陣は隣同士というのがこの班のモットーなのである。


「クシナ班の皆もお疲れ様、任務帰りかな?」


ちょうど運ばれてきた定食を受け取りながらこちらを見るミナトに、ウマイが大きくうなずいた。どうやら一番にオビトとリンの生姜焼き定食が届いたらしく、カカシの前だけはまだお冷が主役をはっている。


「俺たちクシナ班は里内任務ばかりですが、その分数が多くて…」

「だろうね。その分下忍の班としての成績は一番上の方だって言うじゃないか。」

「そのうち、僕らも外に出て任務したいんですけどね。それにしても空腹だ…美容によくないな。」


ネギマが炭火焼き親子丼定食、ウマイがおろしポン酢牛丼と旬野菜のサラダ、ヨナガが結局サンマの定食を注文した。
そこへ残りのカカシの分のお盆が運ばれ、ミナトがちらりとカカシへ目をやった。釣られたクシナ班が目を向けると、


「あれ、ヨナガってばカカシと食の趣味、あうんだな」

「ネギマ、そういうツッコミ要らない」


ヨナガの血継限界については他言されていないからこそ、からかわれるのは恥ずかしい。別にヨナガが狙ってカカシと同じものを注文したわけではないのだ。だからきっと、二人揃ってサンマの塩焼き定食を頼んでいるのは偶然だ。
もしかしたら、体内にあるカカシのチャクラで食の好みまで変わるのだろうか?なんて根拠も無いことを思ったけれど、元からサンマ好きだし!と慌てて脳内の考えを打ち消した。


「それにネギマ、私とカカシじゃなくてさ、オビトとリンだって同じメニューじゃないの」

「でもあれはきっとオビトがリンちゃんに合わせたんだろう?」

「べ、別に!別にそういうんじゃなくって!!!今日はオレも生姜焼きが食べたい気分だっただけだ!」


慌てるオビトにネギマがニヤニヤと追い打ちをかけようとする。
これで難は去ったが、リンはオビトの好意には気づいているのだろうか?これだけ分かりやすいオビトのことに気づかないということはないだろうけれど、まさか自分が誰かに好かれているだなんて思わないものだ。眼の前に居る人が自分を好きかもしれない、だなんて、そうそう考えることではない。

やがてクシナ班の分も食事が運ばれてくると、七人で気軽にできる適当なことを喋りながら食事を楽しんだ。
基本的に任務の話題はできないため、内容はもっぱら食べ物や恋愛の話になりがちだ。





翌朝、中忍試験の会場へ向かうべくアカデミーへ赴いたクシナ班三人は、階段の途中で人だかりに気づいた。集合である301号室へ行こうとしているのだろうか。


「お前たちは入れる必要ないな」

「なんでだよ!!」


二階にある「301号室」の前で先輩らしき忍が、集まった下忍らしき人たちをからかっているようだ。


「アホくさ」

「ネギマそう言ってやるなよ。幻術が苦手な連中だって居るんだ。」


二人はその場にかけられた幻術を解の印で解くとさっさと行ってしまう。どうやら助けてあげる気はないらしい。
かくいうヨナガも相変わらずそこが本当の301号室だと信じているらしい下忍たちを尻目に、三階への階段を昇り始めた。


「あれ、ヨナガってば幻術ちゃんと解いたの?」


目ざといネギマの発言に、ヨナガはぎくりと肩が震えそうになってしまった。どうにかこらえて、もっともらしく答えなくてはならない。ぱっと浮かんだのは


「そもそも、あの程度だったからかかってないよ。場所も離れたし」

「そうか。ヨナガは俺たちよりそっち方面は優秀だからな」


そっち方面”は”と強調したウマイに悪意を感じるけれど、否定できないのでそのまま歩く。
本当は、体内でかなりの量になってきたカカシのチャクラがあるせいで、幻術によるチャクラの乱れが起きにくいようなのだ。ヨナガとして幻術にかけられそうになっても、自分のチャクラとカカシのチャクラが接した部分から混じりそうになり、そのせいで幻術にはかからなかった。
体内に別人のチャクラが相当量あるというのは違和感もあるけれど、利点もあるようだった。



一次試験は筆記テスト制限時間六十分に対して質問数は三十。つまり二分にひとつの問題を答えることになる。知識として問われている内容は途中までは下忍としてあたりまえのものばかりで、途中から一気に難易度があがりとても二分で解けるものではなくなる。

カンニングは三回バレたらそこで失格。
一問一点。二十五点合格。最後の方には微分積分やら、先に投げたクナイに手裏剣を当てる場合に風の抵抗を考慮して必要速度と力量を求めろ、などと無理難題が続く。

後から聞いた話によれば、ネギマはその観察眼を生かして、指の動きを読んで解答欄を埋めていたらしい。ウマイはなんとなく書いといたらしい。


「それでは全員鉛筆を置いて前を向け」


ヨナガたち受験生が前を向くと、試験官の土遁の術で黒板がふたつの扉に変わる。扉には大きく丸とバッテンがそれぞれに書かれていた。


「その解答を持って自分が合格していると思うものは丸へ、駄目だと思うものはバツへ入れ。丸に入った者が万が一、採点後に不合格だった場合には今後五年間の間中忍試験は受けさせない。不安なやつはバツの方へ入って来年受け直せ」


ひとまず立ち上がったクシナ班は目を合わせると、三人で丸へ入った。


「試験官の一言で今後中忍試験が受けられなくなるなんてことがあると思う?」

「私は無いと思う」

「俺も」

「僕もだ。つまりここは美しい所作で丸へ入るべきだ」

「きちんと問題解けてれば問題ないでしょうに…」


ところが、丸の扉の前は大渋滞を起こし始めていた。バツの前はスムーズに人が流れていくのに、丸には全然人が入っていかない。
ヨナガがウマイに軽く持ち上げてもらって覗いてみると、丸の扉を開けようと体当たりしている班が見えた。


「丸の扉が開かないみたい。…あ、今の班が駄目で後続の班に譲ったよ」

「で、そっちの班は?」

「やっぱり開かないみたい」


ネギマは考えるように目を閉じて、少しすると人混みをかき分けるように歩きだした。ヨナガとウマイも追いかけると、後ろから悠々と登場した三人に他の里の忍までもが道を譲ってくれる。

そして三人は何事もなかったかのように、丸の扉へ”吸い込まれていった。”

背後からぎゃーぎゃー聞こえる内容に、ネギマは意地悪く微笑んだ。


「幻術って見抜けないようじゃ、中忍にはなれないよねえ!」


結局一次試験通過をしたのは十二チーム三十六人。
翌日、二次試験がはじまった。








2019/05/27 今昔
加筆修正
昔はアニメの知識だけで書いていて、今は漫画の知識だけで書いています。ナルストやアニメオリジナルは齧った程度なので不具合が出ていたらお許しください。




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