お名前変換


※ 鬼斬丸封印後
※ NOT珠紀で珠紀は鬼崎とくっついたっぽい
※ エンディング捏造のその後



早苗は雪が舞い散る森を見て、デジタル一眼を買うべきかどうか本気で悩んだ。
玉依姫と共に鬼斬丸を封印した早苗は、今では玉依比売神社の巫女の一人だ。珠紀とともに高校へ通いながらも、守護者や神々や人間、それ以外の者たちと楽しく暮らしている。

早苗は、玉依とは異なる血筋の人間であった。鬼斬丸を封印するために、その「鞘」として身を捧げた女神、古くはアマテラスにも通ずるという神の血を引く人間だ。悪しき霊力をその身に吸収して浄化する能力を持っているらしい。本人の意図しない場所で発動することも多く、それ故にだいぶ面倒なこともあった。
今もまだ、封印の時に吸収した鬼斬丸の霊力と、ついでに吸引してしまったらしいソウルイーターの力が体内に残っているらしく、日中でも眠たいことが多い。


「眠たそうだな」


ふわりと両肩にマフラーがのせられた。年越し前、正確にはクリスマスプレゼントとして、早苗がユーゴに送りつけたものだ。いまいち人間の風習には疎いかれだったが、気に入っていつもつけてくれている。


「眠たいよ。でも、ユーゴが居ると安心してもっと眠たくなる」


ユーゴの魂にソウルイーターが深く結びつくことで作られていたツヴァイという人格は、早苗の能力がソウルイーターを吸い取ったことで本来のユーゴとしても性格を取り戻している。勿論、虫食い状態になっているだろう魂で、いつまで肉体を維持できるかは分からない。
それは大量の悪しき霊力を吸い取った早苗も同じことだ。アルコール中毒と同じで、体内で浄化している間にも鬼斬丸の霊力は早苗の魂に悪影響を与えている。お互いに、他の人間と同じようには生きられないことは分かっていた。


「光栄だと、返すべきか?」

「…私は嬉しいよ。ずっと、一対一で会う時はユーゴとしてお話できたのに、組織同士で出会う時はいつも鞘と鎌の関係だったから。こうやっていつ会っても、私とユーゴで居られるのがすごく嬉しい」

「そうだな。」

「らしくなくね、夢ができたんだ」


ふってくる雪に手をのばし、手のひらで溶けていくそれを見ながら早苗は思う。
まるで小説かドラマのように、この雪が溶けても生きていられたら。もし生きていられたら、その先死ぬまでずっと一緒に生きていたいと。
全身の体温が下がってきたのを感じながら、早苗は振り返ることなく耳元にかかるユーゴの吐息を感じて幸せだとすら思った。こうして敵対していたはずの相手と、想い合って抱き合うことができるのだ。

もちろん、珠紀をはじめとした玉依姫側の人間は拒否した。いくらソウルイーターの洗脳が解けているからと言っても敵対していた人間だ。気持ち悪いというのも理解できるのだが、意外にもユーゴを身内として迎え入れることに賛成したのは真弘であった。
直に刃を交えていた相手だったからこそ、今の彼が争いの最中とは全くの別人であると納得出来たらしい。


「ユーゴ、私が死んだら、体内にある浄化しきれていない霊力はどうなるんだろうね。」

「フィーアには、少なくとも肉体が朽ち果てることはないと。それが鞘の呪いだと言われていたな」

「安心だよね、私が居なくなっても周りに迷惑がかからないように呪いがあるんだから」


そういうと、早苗を抱きしめていたユーゴの腕に更に力が込められた。言葉はなくとも言いたいことはよく分かって、心臓が押しつぶされそうなほどの愛おしさを感じる。


「私ね、多分、もうすぐ居なくなっちゃうんだ」

「先に、行くのか?」

「うん。でも多分、やっぱりユーゴのことが気になって、しばらく現世で待っちゃうかもしれない」

「……すぐに、追いかける」

「ゆっくりお出で。ユーゴはもっと、この世界を楽しんでから追いかけてくるべきだよ。それに、鴉取くんの面倒見てもらわなくっちゃ!」


早苗は重たいまぶたをこらえながら、回らなくなる舌を必死に動かした。


「だから、ユーゴは後から、ゆっくりお出で。私はずっと…ずっとここで待ってるから、ね?」





【 雪とさよなら 】





ユーゴは腕の中にずしりとかかった体重を支えきれずに、その場にしゃがみこんだ。どれだけ強く抱きしめても、彼女が痛いと言い返してくることはない。
敵対していた玉依姫の、それに最も近い存在。彼女と出会ったのは偶然で、ソウルイーターの能力を無意識に吸いとっていたらしい早苗と共に居る間は、ユーゴとしての人格のままで話すことができた。戦っている最中、奥深くに眠っていたはずの意識が、彼女の無事を心配していた。
どんな名前の感情なのかは分からない。知っている感情の名称はあっても、これがどれに紐付いているのか考えようともしなかった。ただ、傷つけたくないと、時にはモナドよりも優先したいと思っていた。そう伝えた時、とても喜んでくれた早苗のことをとても可愛らしいと思った。


「早苗、まだ…ここに居るのか?」


空中に向かって呼びかけると、ユーゴは早苗の体をぎゅっと抱きしめたまま目を閉じた。随分と眠たい。アクビは伝染るというが、睡魔も感染るのだろうか。早苗の持っている感情全てが伝染してくれば良いのに。そう思いながら、ユーゴもまどろみの中へと意識を手放した。



後日、早苗とユーゴが自宅に戻らないと騒ぐ珠紀の要請で、二人の捜索が行われた。その日の昼過ぎ、抱きしめ合うようにして倒れている二人が発見されたが、珠紀たちが再び彼女らの声を聞くことは叶わなかった。













2015/02/03 今昔
ユーゴさんルートがないのが辛いです。




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