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【こんなに心が寒い日は】
寒い、身体が凍ってしまいそうだ。
足首から徐々に冷えが周り、腰回りが寒い。
「はあ」
こんな酷い雪の日には、流石にレースも中止になるらしい。サナは一人で自室の布団にくるまり、ひたすら冷えを耐えていた。
どうやら近くに水系の魔導を使うメイズが出現しているらしく、いくらバルシオンの近くだからと言えども普通では考えられないくらいに冷え込んでいるのだ。暖かな気候で育ったレジェンドラの二人をはじめ、大半のスレイヤーはこの気温の中で戦うのは耐えられない。アステルと二人で、今日のレースを臨時休業にしてよかった。
「寒い」
ほうっと、ゆるく手に息をかけてみるが、ちっとも暖かくならない。
暖房器具もこの野営地に持ち込むには限界があったし、そもそもこの土地でここまで寒いと思っていたスレイヤーが居ただろうか?即席の暖炉で薪を燃やしていたが、そもそも乾いた薪の数が少ない。
その薪を節約するために複数人で集っているようだが、唯一女性同士であるアステルのところにはイクサが行ったようだったので、束の間の逢瀬を邪魔することもできず。かといって自分一人で薪を使う勇気もなく。
「これは、凍死というものでは…」
「そう簡単に凍死はしないが…ククッ、しもやけや低体温症で色んな症状が出るだろうな」
静かに空いた扉から入ってきたのは、両手にいくらからの薪になりそうな木の枝を持ったジャミだった。
彼は勝手知ったるといった風に、つい昨夜作ったばかりの簡易式薪ストーブに木の枝を詰めると、古い紙くずを入れ、スムーズに火をつけた。少しだけ火が大きくなるのを見届けると、フードと面を外してこちらへやってくる。
「アンタ、実は馬鹿なんじゃないのか?」
「なんですか、無礼者」
「アンタが身体を壊したらどうする。俺が戦わなくなるうえに、勇者の負担が増える。良いことなんざ無いぜ」
「ですが、一人でストーブを使うのは躊躇われます」
「……こんな時くらい、恋人らしく甘えたって良いんじゃないのか?」
ベッドに上がり込んできたジャミに、背後から抱きしめられる。流石に暗器の類はマントと共に外してくれたらしい。抱きしめられても痛くはない。いつもより少し厚着らしく、触れた感覚が布の柔らかさだ。
そんなことで、妙に人間らしさを感じてしまい、サナはどうしてか落ち着いた。
「甘えるとは、なんですか」
「俺を頼れば良い」
「頼るとは、その…難しいです。わたしはいつも、あなたを頼っているのですよ。戦いの最中でも、近隣の街へ足を運ぶ時だって一緒に来てもらいますし」
「それはアンタが俺の恋人じゃなくたって、スレイヤーと奏者という関係だったら、他の連中だってやってくれるだろう」
少し考えて、頷く。
特に面倒見の良いディルや、何かとなついてくれているミュゼルカ、サナの一族について研究したいらしいサシャや、兄貴分のつもりらしいリーンハルトだって着いてきてくれるだろう。
けれどそれは
「少し、嫌です」
隣に居るのはジャミが良い。
他の誰でもなく、サナだけのスレイヤーであり、サナだけの愛しい人である、彼が傍に居ることを望んでしまう。
「ああ、こんなに冷えて。耳も真っ赤だ」
「寒かったですから」
「俺を呼ばなかった罰だな」
「むぅ」
「暖めてやるよ」
ぺろり
ちくり
舌先で舐められ、ぴりっとした痛みとも痺れとも呼べる何かが走る。
それと同時に、妙に背筋がぞくぞくと震え、心臓の音が大きく聞こえる。
「どんな暖め方ですか、あなた。何をするんです」
「何って?さあ?ククッ…楽しいことさ」
顎を持ち上げられ、後ろ側へ顔が向くと、彼の顔を確認する間もなく唇が重なる。ちゅっと浅く、かわいらしい音をたててされたキスが、深くなる。舌唇を喰まれ、丹念に溶かすように舐められる。
あっと吐息が漏れた瞬間に舌先がこちらへ入り込んできて、上顎を撫でられる。くすぐったい。
いつかディルが「くすぐったく感じるところはすべて性感帯になる可能性があるんだよ」と言っていた気がする。なんでそのような会話の流れになったのかは覚えていないが、ジャミが「へえ」と楽しげに笑ったのだけは覚えている。
「さあ、人肌で暖めあおうぜ」
「蛇のくせひ、人肌とは…」
「ククッ、いつまで余裕で居られるかな……?俺なしじゃいられない身体にしてやるよ。身も心も溶けて俺の毒に犯されて、俺の姿が見えないだけで泣きじゃくるようになったら最高だなあ」
内腿をなであげられ、声が溢れる。何度かしているはずのその行為によって溢れる声も、未だ聞きなれない。
「んぁ!」
「ククッ、この部屋の周りの連中は皆、反対側の双子王子様の部屋だ。思いっきり声をあげたって良いんだぜ?」
「…負けたみたいで嫌です」
「強気な顔で煽るなよ。泣き顔にしなくなっちまうだろ?」
ほら、と。
もう一度キスが降ってきた。
火照った頬に、もうジャミの言う通りに暖められてしまったようで悔しい。
悔しいはずなのに、両腕はジャミの首の後へと回ってしまった。
「可愛がってやるよ、俺の愛しい奏者サマ」
↓あとがき↓
2018/02/17 今昔
寒い日には旦那さんを抱きまくらにして寝るのですが、
こんなえっちな展開にはなりません。若さが足りないのでしょうか…
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