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「あぁ、鶯丸様…可愛らしいお顔……」
「早苗殿には、敵わないさ」
早苗と呼ばれる審神者の周りには、目尻を下げ口元に三日月を描き、そして全身のちからが抜けてしまったかのような男性がしなだれかかっていた。
三条派の刀剣をはじめ、鶴丸国永や鶯丸、蛍丸ら来派、太郎太刀と次郎太刀。古くから存在する刀たち。さらに言うのであれば神威の高い刀剣たちが、頬を染めてうっとりと彼女の周りに侍っているのだ。
本来戦うために顕現させられた彼らからは到底想像できないその様子に早苗は特に何を思うでもなく、ただ従順に従い、忠誠を誓う彼らを愛しいと思っていた。愛おしいと思ってた。可怪しい程に愛していたし、可怪しい程に愛されていた。
早苗は一番側に居た鶯丸の頬を片手で撫であげると、その唇に己のそれを重ねた。途端、周囲の刀剣たちからうっとりとしたため息が溢れる。鶯丸はと言えば、早苗からの接吻によって分け与えられた霊力に溺れて蕩けて、もう何も考えていないような顔で畳に転がった。まるでとっぷりと気持ちの入った情事の後のようなその表情に、三日月は羨ましいと呟いた。
「ぬしさま、この狐にもその愛らしい口で注いでくださいませ。もう我慢がなりませぬ。毎度毎度鶯丸殿のみがこうして慈しまれて、愛されて。私めは…いえ、我々はもう我慢がなりませぬ。」
「そうだよ主。おれたち我慢してるよ?でももう、耐えられなくて隠したくなっちゃうよ」
小狐丸に続いた蛍丸の言葉に、皆は一様にうなずいた。
早苗は少し困ったように微笑むと、太ももに擦り寄ってきた鶯丸の頭を膝に乗せ頭を撫でた。
「皆様のことは神様としてお慕いしておりますけれども、わたくしが人として、おなごとして惹かれているのはこの鶯丸様なのでございます。」
「主はそう言って、けれど隠したいという鶯丸の提案を蹴って、自分らの相手をしてくださる。それはよう分かってます。けど、もう枯れてしまいそうな程に乾いとるんですわ、自分ら」
「あらあら…」
本当に困ったように微笑む彼女の周りに、ぶわりと霊力の波が起きた。それだけで体内に霊力が吸収されて満たされる。明石はそれで満足したのか柱に背中を預けて、行く末を見守る体勢に入った。
次郎太刀も己の側に居てくれるだけで十分なのだというようなことを言って、徳利を傾けた。
「口吸で霊力を分け与えることをしても、構いません。けれども、それでは思いが通じあっている鶯丸への裏切りになります。彼に、それ以上をさらけ出すということになりますが、よろしいのですか?」
早苗の言うところを察した小狐はハッと息を飲んだ。それはならぬ、それだけは許してはならぬ。己等三条派と同じく長くを生き永らえ、早苗の愛を一身に受けている鶯丸ならば、早苗の体を暴くことで神隠しが出来てしまうかもしれない。例え真名を知らずとも、その肉体の関係を持ってして、己の領域へと連れ込んでしまうかもしれない。
本来であれば切ることを性とする刀剣の付喪神は神域を持ちにくい。それでも古くから多くの人から信奉されてきた鶯丸であれば、神域を作り出すことも造作ないだろう。まして早苗の霊力があれば……
「なりませぬ。ぬしさま、それをしては…」
「ええ。隠されることもあるやもしれませぬね。ですが、他の殿方にも唇を許すというのは、そういうことです。それでもわたくしが鶯丸様をお慕いしていると、証明するためにはこれしかありませぬゆえ」
ぎりりと歯をくいしばれば、早苗の膝で蕩けていた鶯丸が起き上がりこれ見よがしに早苗の頬に唇を寄せた。それに嬉しそうに照れ笑いを浮かべる早苗の、なんと可愛らしいことか。
「悪いが、主殿の最も近くで在り続けるのはこの俺だ。他のことならば気にはならんが、主殿のことだけは譲れないな。」
「鴬よ、そなたは我々を敵に回すのか?」
「三日月よ、それは逆に問わせていただこう。主を敵に回すのか?命を大事にしてくれ、俺は仲間を切りたくはない」
すりすりと頬ずりをする鶯丸に、早苗は嬉しそうに両腕を絡める。
そして言うのだ。
「お慕いしております、鶯丸様。審神者として、神に仕える者として、神を使役する者として、誰のものにもならぬと心しておりましたが、その決意すらたやすく切ってしまわれたのは貴方様。神だ人だと小うるさいこと言わぬ貴方様が、どうぞわたくしを貰ってくださいまし。愛しい御方」
「あぁ、今すぐにでも」
早苗の甘い甘い霊力が、部屋からすすっと引いていったように感じた。実際、彼女ほどの能力があればできてしまうのだろう。1つの部屋の中で一処に霊力をとどめておくということも。
二人の周りにだけ結界のように霊力が固まり、他の者は追い出されるようにして早苗の私室を出た。そして全員が出るとすとんと柔らかい音をたてて障子戸が閉じる。
三日月は閉まったその障子を切り倒してしまいたいと思ったが、それでも彼女が自分たちの側を離れず本丸に留まるであろうことは分かっていたので、刀を握る右手を左手で抑えることでどうにか心を落ち着けることができた。
「難儀じゃ…ぬしさまに、こがれているというのに」
「でもアタシたちはさ、早苗ちゃんの霊力に酔っているだけかもしれない。でも鶯丸は違う。そういう風に早苗ちゃんが感じているのなら、当然の結果さ。」
飲みたい奴はアタシの部屋においでという次郎太刀にほとんどの者が続き、三日月もまたため息を1つこぼしてから次郎太刀の酒にあやかろうと歩き出した。
「あぁ、早苗殿…っう……」
「気持ち良い、のですか?」
股間に顔を埋めて、男根をしゃぶる。口に入りきらない部分は手で軽く握り上下に動かす。心地よさそうにしてくれる強さ速さ、そしてしゃぶる深さや角度。それを鶯丸の様子を見ながら調節していく。
神々に仕える身では汚らしいと言われるその行為は、鶯丸のためと思うと体が熱くなり蜜壺から温かいものがどろりと流れだすものであった。早苗にとって鶯丸は絶対唯一の近侍であり恋人であり伴侶だ。そしてそれは、鶯丸から見ても同じなのだ。
早苗の甘すぎる霊力に酔わず、酔った振りで他の者を煙に巻いてみたりする、この少しばかり意地の悪いところもある刀剣の付喪神が、愛おしい。狂おしい。
十分に反り立った鶯丸のそれを、十分に濡れそぼった己のそこにぬるりと埋める。自然と腰を動かしてしまうほど、幸せを感じられる瞬間だ。
「鶯丸さまぁ…好き、好きです。お慕いっ、しています…ぁん、んんっ」
「あぁ、あぁ…早苗殿、俺も…早苗殿が愛おしい」
びくんと心地よさに意識を飛ばしそうになりながら、互いの体温が欲しくて腰を振る。下から突き上げられたその快感で気をやってしまったことがバレたようで、鶯丸は早苗の腰を抱えながら騎乗位だった体位を正常位へと移動させた。
その移動でさえも心地よく、早苗の口からは止めどなく嬌声が溢れる。
互いのつながった部分に溢れる液体に愛おしさを感じながら、突かれる腹に喘ぎながら、早苗は愛の言葉を紡ぎ続けた。何度言っても足りない気持ちを補うように、己の意思でも蜜口をぎゅっとすぼめる。途端あがる鶯丸の声に余計に嬉しくなって締め上げる。
「ぁ…すまない、も…限界だっ」
ズン、ズンとひときわ強く突かれたそれで、鶯丸から精が放たれた。早苗の名前を呼びながらビクンと震え、何度かに分けて体内に精が吐き出されていく。それがたまらなく愛おしく、早苗は腰を大きく反らせて達した。
腹に残ったのは情事による精だけではない。口吸で早苗から鶯丸へと霊力が流れたように、行為によって鶯丸から早苗へと神気が流れたのだ。
お互いの気が交じり合った快感と幸せを噛み締めながら、二人は微笑みあった。
これでもう、誰もこの関係に割って入ることはできない。
他にも早苗を慕う…早苗の霊力に酔ってしまう者が多いこの場所で、この繋がりはとても大切なものに思われた。相手がただ唯一であるという、証明にほかならないのだ。
2016/05/23 今昔
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