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※ 今剣視点ですが、分かり難いので漢字使います




新しい父様と母様が出来ました。





【 ちちうえ ははうえ 】





ぼくは主様…早苗様が始めて呼んだ付喪神なんだそうです。だからぼくは、早苗様にたくさん遊んでもらって、たくさんお勉強してもらって、たくさん一緒に寝たんです。お昼寝もしたんですよ!
春先、サクラが咲く頃に本丸へやってきたのがぼくで、次にサクラが満開の時に岩融がやってきて、それからどんどんお友達が増えました。五虎退、乱、厚、前田、小狐丸、他にも大勢!でも早苗様は、他の子が来てもぼくと一番に遊んでくれます。他の皆は小狐丸さんと遊んでいるみたいで、ちょっとだけ羨ましいような気もします。だって、五虎退くんの虎も小狐丸さんの尻尾もとっても暖かそう!
でも、サクラも終わったので、小狐丸さんの尻尾はもう暑そうなので要りません。

早苗様は、岩融を近侍というものにしていて、時々岩融と短刀たちを一緒に警邏に行かせてくれます。いつもの出陣の時には早苗様は本丸で待っているのに、この時だけは一緒に着いてきてくれるんですよ。
その時、うっかり転びそうになった早苗様を岩融がぎゅーっとして支えたり。転んで泣いてしまった五虎退を泣き止ませる早苗様を不機嫌そうに岩融が見ていたり。まるで岩融は早苗様のことが大好きみたいで…大好き、みたいで。


「今剣、どうしたんですか?」


泣きだしてしまったぼくの頭に、早苗様の手がぽんとのりました。
警邏の帰りに皆で歩いているうちに、お空は眩しくない茜色になってきていて、早苗様の横顔はとっても綺麗に見えます。


「だって!早苗さまはいっつも いわとおし のことばっかりです!はじめはぼくだけの あるじさまだったのに…」

「んあ"?どうした今剣よ、お主もしや主が恋しくて泣いているのか?」

「いわとおしのあるじさまじゃなくて、ぼくのあるじさまなんです!」


そう言うと、岩融は少し考えをまとめるように黙りこんで、次にはニカっと意地悪に笑いました。前の岩融の主様にそっくりです。


「がっはは!そうかそうか、だが残念だったな。早苗殿は俺のものだ!」


岩融が言った途端に、早苗様は両の頬が紅梅みたいになってしまいました。ぼくはあのお顔を知っています。岩融が早苗様に優しくしてあげた時の顔で、ぼくが優しくしてもしてくれない顔。


「ちょっと、岩融……人前で何を…!」

「良かろう良かろう、早苗殿も喜ばしいことだな。我らの子ができたぞ!」

「はぁ!?」


素っ頓狂な声をあげる早苗様と、きょとんとして動けないぼくを放っておいて、岩融はぼくを両脇から持ち上げると軽々と肩車してしまいました。後ろに居るほかの短刀さんたちは、道端に寝ている猫の様子を見ていてこちらを気にしている様子はありません。


「オレが父親で、早苗殿が母親だ!さすれば、今剣は息子だな!」

「っ…もう、岩融はいつも勝手ですね。」

「あるじさま、いわとおしのことが、すきなのですか?」


早苗様の頭のてっぺんを見下ろしながら聞いてみると、こちらを見上げた早苗様の顔は、ぽかぽかのお日様みたいでした。


「えぇ、とても。私は岩融のことをお慕いしています。頼れる近侍として、我が本丸の隊長として。そして何よりも、一人の殿方として。」


早苗様の後ろで、乱くんが「おぉ…!」と感嘆の声をあげました。


「オレも、主としても嫁としても早苗殿を好いておるぞ。…いや、今しがた、母としてが追加されたのだったな。
 かげろふの ほのめきつれば 夕暮の夢かとのみぞ身をたどりつる」

「あらあら、ほの見ても 目なれにけりと 聞くからに 臥し返りこそ 死なまほしけれ。
 続けるのなら、君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな。こんなに可愛らしい今剣を息子と呼んだのですもの。ずっと一緒に居ていただかなくては困ります」


岩融がぼくを肩車して、片手は早苗様と繋いで。その後ろから短刀のみんながやってきて一緒に帰るあぜ道は、いつまででも、何度でも見ていたいと思いました。








2015/05/27 今昔




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