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※ヒロインも刀剣(薙刀)



「退屈なのだわ」


鶴丸国永は目の前の椅子に腰掛けた少女を見て、深くつきそうになったため息をこらえることに必死だった。


「鶴丸、何か面白いことはないかしら?」


彼女は早苗。白崎流の鍛冶屋がとある一族の依頼を受けて打った薙刀だそうだ。以前の主はどこかの家の令嬢だったそうで、故にその性格をまるっと受け継いでいるのだと自分で言っていた。
高飛車でお嬢様気質な彼女も同じ薙刀故か岩融とは仲がよく、一緒になって今剣の面倒を見ていることが多いように思う。
審神者もよりによってこんな扱いづらい刀剣を隊員として呼び出さなくとも、と思ってしまうのも無理はあるまい。淑女だという自意識が高いようで、太郎太刀のような性格の刀剣とは会話が弾むようだが、逆に愛染のような者とは関わろうともしていない。それなのになぜか、鶴丸にはしょっちゅうこのように絡んでくるのだ。


「面白いことなぁ。難しいな、誰かにドッキリを仕掛けにいってみるか?」

「わたくし、そういうことを自分でするのは苦手ですわ。もちろん、鶴丸がやっているのを見るのは好きですけれども。でもあまり五虎退にちょっかいを出していると、審神者様が怒りますわよ?」

「それこそ面白いじゃないか!それに、主は加州の執着にやられて少々疲れていらっしゃるようだ、そうそう怒られまい」

「人間の体を手に入れたからといって、審神者様に手を出すなど…。加州もなかなか駄目な男ですわね。」


加州清光はだいぶ審神者に熱をあげているようで、隊長である鶴丸が報告へ行くことも嫌がっている様子だった。それを思い出したのか憂いを帯びた早苗の視線に、鶴丸は珍しいものを見たと目を見開いた。
口を開かなければ、どこのご令嬢かと見まごうほどの優美さと、まるで世の喧騒を憂いているかのような濡れた視線。人間の体が、男の肉体が、正直に反応した。


「前の主は愛されていたけれど、愛故に束縛されて自由などなかった。」

「なんだ、外の世界に触れさせまいと軟禁でもされたのか?お前の生まれた時代では、だいぶ辛そうだな」

「そうよ。前の主もわたくしの姿を見ることができた。だから主はこう言ったわ、『私の分まで人生を謳歌するのよ』と」


鶴丸は艶やかな唇に誘われるまま、早苗の手を引いて立たせると抱きしめて口付けた。嫌がる素振りもなく、大人しく唇をついばまれる早苗の背中に手を回し腰を撫でる。早苗の両手が鶴丸の胸元へと寄せられて、嫌がられていないことには確信を持てた。
人間がこういった営みをすることは知っていたが、こうして実際に人間の体を持ってみるとその衝動の抗い難さを痛感する。こんな衝動に耐えねばならぬこともあるなど、人間とは便利だが不便なものだ。


「ならば、こうしよう。せっかく人間と同じような体を手に入れたんだ。お前の主が言うように謳歌しようじゃないか、人間でなくては出来ないことを」

「あなた、もう少し恥じらいを持ってくださらない?」

「何故だ?お前、オレのこと嫌いじゃないから自分から関わりにくるんだろう?」


知ってるぞ、と耳元に囁くと、早苗の顔と体が一気に熱くなったのが分かった。


「分かっているのなら、早くして頂戴。わたくし、面白いことは好きだけれど、相手にもよるの。あなとが良いのだわ、鶴丸」

「そりゃ驚いた。偶然にも、オレも早苗が良いと思っていた」


人間は不便だ。愛おしい相手を前にするだけで、こんなにも心臓が痛くなる。こんなにも高鳴る。鶴丸は早苗にもう一度くちづけながら、出来るだけ優しく服を脱がしにかかった。




2015/03/06 今昔




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