翡翠の涙・参


「ってぇ…
誰だてめェ!!」


「誰だって言われてもな
ダサいヤツに教えてやる名前なんざねぇっての」








悟浄は男の腹部と顔に拳を叩き込む








「ぐあッ!
コイツつえェ!くそっ…!」








男はバタバタとその場から立ち去った








「ったく…
所でお嬢さん怪我はない?」








サラリと気障な台詞で手を差し出した








「あ…あの
ありがとうございます…」








暗闇の中で女性らしき影がムクリと起き上がる


女は服を手でパンパンと払い
悟浄に向かい深々と頭を下げた








「本当に助かりました
このお金を盗られていたら
お薬が買えず困る所でした…」


「いやいや
気にしなくてもいいって
それよりお嬢さん
顔も見えない暗闇よりも
あっちでゆっくり名前でも教えてくんねェ?」








スッと悟浄は女の腰に手を回し
片方の手で町中の方へと腕を出した








「あの…いえ
私はもう行かないと
このお礼はいつか必ず…
ごめんなさい」









女は悟浄の腕を払いのけ
暗闇へと消えた








「あーらら
名前も言わないなんて
随分寂しいじゃないの」








悟浄はフッと笑い来た道を戻ろうと足の向きを変えた








カツン…









足に何かが当たった








「ん?
石でも蹴ったか?」








暗闇の通路を目を細める

キラッと何かが光った


悟浄は拾い上げると女物の翡翠のピアス

ゆらゆらと揺れる翡翠は
まるで涙の様に揺らめいた








「こりゃさっきの…?」








暗闇の中に消えた女を
悟浄は心配しながらも宿屋へと帰った







.

[ 53/216 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[栞挟]
書物一覧に戻る



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -